その後、結局忍足が7−5で勝った。だが明らかに本気でやってその結果だった。
氷帝のレギュラー相手をそこまで追い詰めた女はが初めてだった。
忍足もも汗だくになっている。
「むかつくっ!あそこまでいったのにッッッ!」
「俺に勝つなんて100年早いわ、あほ!」
息を切らしながらまた言い合いを始めようとする2人。
「お前、何でこんなに強いねん・・」
「そんなことっ・・・っ・・・」
が言葉を途中で止めた。タオルを口元に当てて、走ってその場からいなくなってしまった。
かなりのスピードで走っていったのでそこにいた者は思わず唖然としてしまっていた。
「なんなんや、いったい・・・」
呆れたように忍足が口を開いた。
「なんか、顔色が悪そうじゃなかったか?」
宍戸がが走って行った方を見て言った。
「おい、あんたら!」
今までに聞いたことのない声に全員が反応した。そこに立っていたのは医大生らしき女性だった。
「ここに、 って女が来てない?」
「あぁ、さっきまでここにおったで?」
忍足は汗をタオルで拭きながら女大生の質問に答えた。
「ここには戻ってくるかしら?」
「帰ってくるやろ?荷物やらはそのままやしな。」
「ってか、あんた誰だ?」
跡部が当然であろう質問を投げかけた。
「あら、ごめんなさい。私は京泉 優希。そこの大学病院の医大生よ。」
テニス場から見える大学病院の方を指差して言った。
「さんに何か御用ですか?」
が少し遠慮気味に聞いた。
「用も何もないわよ!あの子、今日こそ検診に来いって言ったのに!いっこも聞かないんだから!!!」
「さん、どこか悪いんですか?」
鳳が尋ねた。
「あの子、気管支が弱いの。本当は激しい運動はしちゃいけないんだけど・・・」
ハァ・・とため息を吐くように優希は言った。そのことを知らなかった他の者達はただただ驚くしかなかった。
そこにどこかに行っていたが戻ってきた。
は、まだ口元にタオルを抑えていたが顔色は悪くはなかった。
「・・・今日、検診に来なさいって言ったわよね?」
優希の言葉を聴くと「ぁー・・・」と誤魔化しながら明後日のほうを向いた。
「しかも、ドクターの言うことを聞かずにテニスしてるなんてね・・・。」
優希は声からして明らかに怒っていた。もどうしようかと目をキョロキョロさせている。
「あんた!いい加減にしなさいよっ!下手したら死ぬわよッッッ!!!」
ついに優希もキレたらしい。2人のことを他の者達はオドオドしながら見ている。
なんかはの気管支のことを知らなかったので、ただただどうしたらいいか分からないでいた。
「俺は死なないからいいんだよッテニスしてもこうして元気だろうがッッッ!」
もついに黙っていられなくなったらしい。怒鳴っている優希に言い返した。
「今はよくても後々後悔することになるのは貴女なのよ!それが分からないの!!!」
「どうせ治らないんだから同じだろうが!!!」
「っ・・」
どうせ治らない。というの言葉にが2人の間に入った。
「こんなところで言い合いしないでください。さんも、ちゃんと病院に行かなきゃダメじゃないですか。」
の声がだんだんなきそうになっているのが分かった。そんなの様子を見ての頭も冷えたようだ。
「、とにかく後でもいいから検診に来なさい。いいわね?」
「・・・分かりましたよ。行けばいいんだろ、行けば!」
半ば自棄になって返事をした。
「じゃ、後でね。」
優希はに念をおしてテニス場から出ていった。
「おい、どういうことだよ、。」
優希がいなくなって最初に口を開いたのは跡部だった。
「気管支が弱いのは生まれつきだよ。激しいスポーツは禁止されてるけど、守る気ないし。」
は他人事のようにいった。
「でも、さん。ちゃんと病院には行っているんですか?」
「行ってないな。」
の質問に即答する。まるで他人事のような言い方に忍足が口を開いた。
「ほんなら、はそんな体で俺とあんな試合したんか?」
「そうなるな。でも、俺、強かっただろ?」
「まぁ、そらそうやけど・・・」
「いいんだよ、俺が後悔してないんだから。」
まるで気管支が弱いとは思えない。
でもさっき口元を押さえて走って行ったのは多分、発作が出てたからだろう。
跡部はそれに気づいていた。
の表情はいつもと変わらない。いつもの明るい顔であたりを見渡した。
そんなを見ては黙っていられなかった。
「さん・・・」
が重く口を開いた。は何?といつもと変わらない感じで答える。
「生まれつき・・・悪いんですか・・・?もう治らないんですか・・・?」
信じられないといった感じのに対しては相変わらずの態度で答えた。
「気管支が悪いのは生まれつきだし・・・。完治はしないだろうって主治医に言われたよ。」
言葉の内容は暗いのにの口調は明るかった。
「激しい運動も・・・テニスもするなって言われたけど、俺は守る気ないね。」
守る気がないという言葉には目を見開いた。
主治医の言うことを聞かないということは自ら自分の体を蝕んでいくということだった。
「なんで・・・ですか・・・」
の声が震えていることが周りにいた者には分かった。
もちろん、もそれに気づいていた。それでもの態度は変わらなかった。
の態度が変わらないことに驚いたのは忍足だった。
この前聞いたときの事でがどれだけを大事に思っていることを知っている忍足はが何故、震えているに対してそんな言い方が出来るのか不思議だった。
「完治する見込みがないなら、わざわざ治療に専念することはないだろ?」
・・・ますます訳が分からなかった。
完治しないということはそれだけ酷い状態だということなのにそれこそ治療に専念すべきだと誰もが思った。
「だから、何でもできるなら今のうちに何でもやっておきたいんだよ。これが俺なりの青春なんだって!」
なっ?という軽い感じで言う。
「。」
黙っていた跡部が口を開いた。全員が跡部のほうに視線をやった。
「お前、それでいいのか?」
「何がだ。」
「つまりや、それで後悔せぇへんかってことや。」
跡部が言う前に忍足がに強く言った。
「逆だって。後悔しないためにやってんだろ?後悔するくらいならここにいないよ。」
忍足に向かっても強く言った。
の目は真剣味を帯びていてそれをみた周りの皆はそのの言葉になんていっていいか分からなくなっていた。
「で・・・も・・・」
が口を開いた。うまく言葉がしゃべれていない。
「さんが・・・いなくなるの・・・私・・・嫌ですっ」
とてもつらそうには言った。
は辛そうなをみるのは嫌だったがそんな素振りは見せずにはに向かって微笑んだ。
「いなくなるってさ、俺、どこにも行かないって。それに俺、殺しても死なないぞ?」
まるでを安心させるようにいう。
「・・・ってさー、さっきあんなに汗だくになってたけど大丈夫かー?」
沈黙を破ったのは岳人だった。
「そうですよ、いくら何でもそんなことして大丈夫だったんですか?」
鳳も心配してに声をかけた。
「ちょっときつかったけどなー。まぁ大丈夫だったからいいんじゃねぇ?」
自分のことなのに疑問系の返答だった。は顔にタオルをあてて声を上げずに泣いていた。
「わーッッッッ!泣くなッッッ!」
が泣くことは滅多にないためは動揺した。
しかも自分のせいで泣いているためにはを落ち着かせようとした。
は涙を止めてを見た。
「早く、病院に行ってください。お願いですから・・・行ってください・・・。」
「分かった。これから行ってくるから。」
を慰めるようには言った。は跡部の方を見て大声で言った。
「跡部ー。のこと頼むな〜。」
「ぇ・・・・・・」「・・・何だって?」
「俺はこれから病院に行くんだ。に一人で帰れって言うのか?」
は跡部にチャンスを与えたつもりだった。と跡部が仲良くなればいいとも思っていたからだ。
「さん・・・私も一緒にい・・・」
「ダーメ。あんたはここで試合してないだろ?ちゃんと病院には行くから。な?」
は無言で頷いた。の言葉を信じての頷きだった。
「分かりました。・・・跡部さん、お願いします。」
「あぁ、分かったよ。」
「頼んだぞ、跡部。」
は荷物を持ってテニス場から出て行った。