「お、忍足君!」
「跡部君も・・・。」
いきなりの忍足と跡部の登場に女生徒たちは慌てていた。彼女達の足元にはボロボロになったが倒れている。
「自分ら、ここで何してたんや。」
忍足は声は低く、怒りを露にしていた。目の前の女生徒たちは答えられずに視線を泳がせている。
「そこに倒れてるヤツはお前らがやったのか?」
跡部も怒りを露にしていた。女生徒たちを思いっきり睨んでいる。女生徒たちは怖がって口を開こうとはしない。
「・・・もぉええわ。話にならんさかい。さっさと行きや。」
忍足の言葉にさっさとその場をあとにする女生徒たち。
彼女達がいなくなるとはゆっくり上半身を起こした。あとから来たがを支える。
「もう少し早く来て欲しかったよ。制服がボロボロになっちまった・・・。」
「ご、ごめんなさい。私のせいで・・・。」
は申し訳なさそうにに謝った。はゆっくりと首を横に振った。
「忍足、跡部。わざわざ呼んで悪かったな。」
は視線を跡部と忍足の方へ向けた。いつもと変わらないの表情。
「なんでそんな平気な顔しとるんや。」
「平気じゃねぇよ。ここは私立だぞ?制服代も馬鹿にならねぇんだから。」
が心配していたのは自分の身ではなくビリビリに破れた制服だった。逆に忍足はイライラしている。
「こういうことは今回が初めてなのか?」
苛ついていた忍足ではなく、意外と冷静でいる跡部がきいた。
「ぁー・・・俺は手紙とかならあったぞ?」
思い出すようにが言った。
「『跡部様に近づくな』だの『ウザイ』だの『死ね』だの・・・」
・・・どうやら例を挙げればキリがないらしい。
「私はありませんでした。跡部さんたちと話すことはほとんどありませんでしたし。」
は前例がないらしい。は答えるとすぐにの方を向いた。が心配でたまらないようだ。
「しっかしなぁ・・・。どうやって帰ろう・・・。さすがにこの格好で外歩けないし。」
胸元だけを何とか押さえて隠しているが他のとこもボロボロだった。顔も少し赤く腫れ、口も少し切れている。
「これ、よければ使えや。」
忍足は自分の上着を脱いでに差し出した。
「いらん。」
忍足の親切な行為には即答で断った。
「・・・なんでや・・・。」
忍足は少し悲しそうな顔をした。まるで自分はいらないと言われたような気分だった。
自分のせいでをこんな目に遭わせてしまったと思っていた忍足はそれが辛かった。
「いや、だって汚れるし。」
「は?」
忍足は間抜けな声を出した。の返答に跡部も呆れたような顔をした。
「だから、結構いろんなとこから血が出てるから。お前の制服が汚れるだろ?」
は真顔で言った。は本心から言った言葉だった。忍足を恨むつもりも嫌うつもりもにはなかった。
「。てめぇ平気なのか?」
跡部がに問う。
「何がだよ。」
「そんな目に遭わされたんだぜ?俺達のこと、なんとも思わねぇのか?」
それは忍足も聞きたかったことだった。こんな目に遭わせたのは自分達のせいだと思っている2人はの態度が不思議だった。
「あのさぁ・・・。」
が溜息をつくように言った。
「質問の意味が分かんないんだけど。」
今度はが少し呆れたような顔をして跡部と忍足を見た。
「あれを、お前らがやれって言ったんなら潰すとこだけど。お前ら、そんなことする奴らじゃねぇし。」
は少し笑みを浮かべて跡部達に言った。
「むしろ、来てくれて感謝してる。サンキュな。」
跡部と忍足は驚いていた。感謝されているとは思えなかったからだ。
はいつもと変わらない笑みを浮かべている。
「あ、跡部。頼みがあるんだけど・・・」
「何だ。」
「俺のカバン、ここに持ってきてくれねぇ?ジャージが入ってるから。」
「・・・ったく、しょうがねぇな・・・」
「あ、私も行きます。」
跡部は仕方がないという風に屋上から出て行った。
は跡部の後を追うように出て行った。忍足は何もせず、ただ驚いていた。
跡部達はのカバンを取りに教室に向かっていた。
跡部とが教室に入ったとき、教室には誰もいなかった。
静まり返った教室にオレンジ色の光が窓から差し込んだ。
「これだな。」
跡部がの机からカバンを取ってに聞いた。
「はい。それです。」
は頷いて言った。
「早くしねぇと、がうるさいからな。行くぞ。」
「はい。」
は跡部の後をついて教室をでた。
放課後、忍足と跡部が部活へ行こうとした時、が大慌てで跡部達のところへ来た。
の左肩の部分が汚れていた。
「あ、の・・・ッ」
全力で走ってきたのかは息が上がっていた。跡部と忍足は何事かとの方を見る。
「あの、さんが、屋上で・・・っ」
の言葉と様子で跡部と忍足は察した。屋上で行われていることを…。
行ってみると思ったとおり、床でボロボロになっているがいた。
あいつの性格ならすぐにやり返してもいいとこだろうが、ボロボロになっているのはだけだった。
女どもを追い返した後、の様子はいつもと変わらないようだった。
私のせいで・・・と自分を責めているを見るとどうやら、がを庇ったんだということが二人には分かった。
跡部達が屋上に着くと、に近づいた。
「ほらよ。」
のカバンを跡部はに渡した。
「ぉ、サンキュー。」
はカバンの中からジャージを取り出してそのまま羽織った。は立ち上がってジャージの前を閉めた。
「そういや、2人とも部活があったんだろ?悪かったな。この時間じゃもう間にあわねぇか・・・。」
カバンにつけた時計を見ながらは言う。
そこまでしてを守るに、跡部は心の中で何かを思っていた。


