…自分のコトを呼んだのが誰なのか、には分からなかった。
薄れゆく意識の中で、それだけが、記憶として残っていた。
放課後、とは言っても、もうすぐ完全下校にもなろうかと言う時間に、は目を覚ました。
見慣れた天井と、薬品の匂い、周りの気配で自分がいるのは保健室だと認識した。
発作による息苦しさ、酸欠による頭痛、全身のダルさだけが、の体を支配していた。
「…気がついたんか?」
聞きなれた声がの耳に入ってくる。誰なのかが分かると、は嬉しさと同時に悔しさがこみ上げてきた。
また、人の手を借りた…。
その思いが、の胸の中にはあった。
「…心配したんやで?俺も、ちゃんも。」
聞こえる声から、それが事実だと伝わる。
誰にも手を借りないようにしたつもりが、逆に手を使わせてしまっていた。
本当に嬉しいと思う…友人の思いやりが。
「…ごめん…。」
謝罪の言葉しか、の頭には無かった。他に何も思い浮かばなかった。
手を煩わせてごめん。
関わらせてごめん。
貴重な時間を奪ってごめん。
このとき、はちゃんと病院に行くことを決意した。これ以上、忍足たちの手を借りたくは無かった。
心のどこかで、愛しているが故に、関わってほしくなかった。
「…今日、病院に行ってくる。」
「あぁ、そうした方がえぇやろ。一緒に行ってやろうか?」
あぁ、どうして彼はこんなにも俺を構うんだろう。
放っておいてくれたほうが、楽なのに。
忍足の思いを知っていても、俺は完全には受け入れられないのに…。
「いや、一人で大丈夫だ。タクシー使って行くから…。」
「…そうか。」
それでも、いつか、彼に、ちゃんとお礼が言いたい…。
初めて、この病気を治したいと思った。…手遅れでないことを、切に願う…。


