屋上を出ると、はすぐにのトコロへ行った。
!悪いな、待たせて。」
 の名前を呼び捨てで呼ぶ。それは一人しかいない。
「いえ、まだ時間があるから大丈夫ですよ。」
「先に食べててもよかったのにな。」
 少し申し訳なさそうに、笑いながら言う。自分を特別扱いしない、自分を友人と思ってくれるはいつも感謝していた。
「早く食わねぇと、俺、次の時間の予習してねぇんだわ。」
「なんなら写しますか?」
「マジ?やったwさすがw愛してるゼw」
 そういうとは小さくクスクスと笑う。
「そういや・・・」
「はい?」
「・・・・・何言おうとしたか忘れた。」
「何だったんでしょうかね?」
「重要なことじゃなかったと思うからいいや。」
 他愛のない会話。この時間が大好きだった。
 いつまでも続いて欲しい。…そう願う…。・・・このわずかではあるが穏やかな時間。
 それが崩される時が来るのかもしれない。それが異常に怖かった。それでも時は残酷で・・・。
 壊されるときは早々と訪れることになる。
 たまたま入った委員会の仕事。それで跡部とよく顔を会わせるようになった跡部と
 簡単な挨拶なら交わすようになり、少しは親密度が上がったようだ。
 から見る跡部の印象もそこまで悪くはないようだ。頭を軽く下げるくらいの挨拶はもするようになった。
ようは少しは眼中に入ってきたということで・・・
 最近の跡部の機嫌はよかった。
「その様子だと、少しは進展でもあったのか?跡部」
「てめぇにはかんけぇねぇって言ってんだろうが、アーン?」
 周りで女子の声がうるさいが気にせず跡部と会話を交わす
「しかし、アレだけ女がいるのにとは・・・跡部の好みの意外性発覚だな。」
 跡部に対して黄色い声を上げている女達に比べては大人しく、大声すら上げたことがない。
「ま、改心したプレイボーイはいいヤツになるって言うからなっ跡部!」
「うるせぇな。俺はプレイボーイじゃねぇ。」
「その言葉、信じるとしますかねぇ」
 いかにも半信半疑そうなだが、跡部は気にするのを止めた。
「頑張れ、跡部。成功したらおもいっきり邪魔してやるからな!」
「〜〜〜〜〜っ(怒)」
 明らかには跡部を馬鹿にしていた。
 ニッと意地悪そうな笑みを浮かべながら、は跡部のそばを離れた。

 放課後、委員会の仕事が少し残っていた。それで跡部はそちらを先に終わらせることにした。
教室に行けば、が無言で黙々と作業をしている。
 ドアを開ける音がしたはずだ。
 でもはそれに気づいていなかった。当然、跡部の存在にも気づいてはいない。
。」
 呼んで見るが返事はない。よほど集中しているように見える。
「おい、
「は、はいっ!」
 は驚いて振り返った。そこにいたのは跡部。
「あ、跡部さん、ど、どうなさったんですか?」
 跡部に気づいていなかったは、驚きを隠せなかった。
「仕事、まだ残ってただろ?」
「でも、跡部さんは部活で忙しいんじゃありませんか?」
「こっちをほっとくわけにはいかねぇだろ。」
 そっけないが跡部の優しさだった。
「有難う御座います。でしたら、こっちのヤツの整理をお願いできますか?」
「あぁ。」
 二人とも黙って作業をする。沈黙していながら、それでもこの空間はどこか心地がよかった。
「終わったぜ。」
「有難う御座います。お疲れ様でした。」
 以前に比べ、少しずつではあるが跡部とは会話をするようになった。
「じゃぁ、俺は部活があるからな。」
「お忙しいのに、有難う御座いました。」
 軽く頭を下げる。跡部は静かに教室を出て行った。は残っていた作業を続けた。

 たったそれだけ。たったそれだけの会話。
 それだけで傷つかなければならないのか。
 だから人というモノはなかなか信頼ができない・・・。