は、毎日女生徒に呼び出され、暴行を受けていた。
 見えないところにばかり傷を残され、も心配をかけまいと黙っているしかない。
 黙っていることこそが、を傷つけているとも知らないで…
「今日もちゃんと来てくれて嬉しいわ。さん。」
「それに、最近は跡部様達にも近づいてないみたいだしね〜。」
「でも、まだ許してあげないわよ。」
 …なら、いつになれば許されるというのか…それ以前に、何故は彼女達に許されなければならないのか。
 は、女生徒が掴んだ手を振り払った。
「ちょっとッ…言っとくけど、アンタが大人しくしないならさんが傷つくことになるんだからねッ」
 これが…が黙っている理由だった。いつも護られて、自分は何も出来ない。
 は、それが悔しくて、苦しくて堪らなかった。これを言われると、大人しくするしかない。
 は、下を向いた。女生徒達がクスクスと笑うのが聞こえる。は、制服を握り締めた。

が大人しくしないと、誰が傷つくって?」

 第3者の声が聞こえた。がよく聞いたことのある、アルトの声。
 そのアルトの声も、アルトとは思えないほどに低かった。
 まさか他に人がいるとは思わなくて、女生徒達も慌てて振り返った。
 もゆっくりと顔を上げた。
「……さん……。」
 は、何故ここにがいるのかと言いたげな表情をしていた。女生徒達も驚いた顔をしている。
「俺がいない間に、こんなことになってんだな。ま、前とは面子が違うみたいだけど?」
 この前、に怪我をさせた女生徒とは違っていた。彼女たちは、あれ以来達に関与しなくなっていた。
「で、俺の名前が出るって事は、俺にも関係あんの?」
 声だけでも、かなり怒っている事が分かった。は、ゆっくりとに近づいていく。
「あ、あんた達が跡部様達に近づくのが悪いのよッ」
 女生徒達の中の一人が、正気に戻ったように言った。驚いて固まっていた人達も、次々に声を上げた。
「そうよ!跡部様達が迷惑がってるのに、話しかけたりしてッ!!!」
「迷惑がってるんだから止めなさいよッ!!!」
 …は、女生徒達の言葉にキレる反面、呆れていた。

醜い嫉妬こそが跡部達の嫌う物だと何故彼女たちは気づかないのか

「…つまり、俺達が跡部達と関わらなきゃ良い訳?」
 はやり返す気も失せて、呆れたように言った。

…分かったから…彼女たちには、何を言ってもムダだということに…

「そ、そうよッ!跡部様達に迷惑かけなきゃそれでいいのよッ!」
「分かってるんなら止めなさいよッ!!!」
 …つまり、俺達は跡部達と話をすることすら本人には迷惑って事か…はもう、呆れるほかなかった。
「だったら、もう用がない限り近づかない。話さない。」
 が言ったことが完全に把握できなくて、の顔を見た。は、女生徒達を睨みながら声を発した。
「それで…満足なのか?」
 の声はかなり低かった。女生徒達もの怪我のことは知っているから迂闊に手が出せなかった。
「…いいわよッ!それでッ!!!」
 本当は満足ではないのだろうが、女生徒達はを恐れていた。本当は、もっといたぶりたかっただろう…
「絶対よッ!絶対、私達の跡部様達に近づかないでよねッ!!!」
 …いつから跡部達はこいつ等のモノになったんだ…
 は黙って女生徒達の馬鹿馬鹿しい叫びを聞いていた。
 は何も言うことが出来ずに、そこに立っていた。
「これで見逃してあげるわッ!!良い?次はないからねッ!!!」
「次は…何がないんだ?」
「ほんで?何を見逃してやるんや?」
 新たな声が聞こえた。は、やっと来たのかと言いたげに溜息をついた。
 女生徒達は、固まって動けずにいた。は…その場に座り込んでしまう……。
「あ、跡部様ッ!!!」
「忍足君もッ…」
 女生徒達は、跡部達の登場にかなり動揺していた。見られて困るならしなきゃ良いのに…とは溜息をついた。
 跡部と忍足の表情からはかなり怒っていることが分かった。は座り込んで俯いたままだ。
「…で?ソイツ等の何を見逃してやるんだ?」
 …跡部の声はかなり低かった。それだけ、怒っているという事だろう。
 それは女生徒達に対してだけではない。跡部が、跡部自身に怒っていた。
 何も出来ないことに…女生徒達は答えられずに、仲間同士の顔を見合わせていた。
「…おいッ!聞いてんのか!!!」
 跡部は、跡部らしくもない大きな声を上げた。女生徒達は、ただ怯えているだけだ。
「…跡部、もういいよ。これ以上は時間の無駄。面倒なだけだから。」
 は淡々と言葉を発した。しかし、跡部はそれでは気が納まらなかった。
「ここで言っとかねぇと、コイツ等はまた同じ事をするぞ。」
「これ以上すると言うなら、こっちだってタダじゃおかないさ。またやって後悔するのはソイツ等だよ。」
 の言葉はいつだって本気だ。今のなら本当に容赦はしないだろう。
「…だがッ」
「跡部、もうえぇわ。」
 忍足が跡部の肩に手を置いて止めた。たちがそう言うのなら、そうするしかない。と…
「…チッ」
「自分等、二度とこんなことすなや?」
 女生徒達は小さく頷くと跡部達の顔を気にしながらその場から立ち去った。
「…?」
 は膝をついて、に視線を合わせた。は、勢いよくに泣きついた。
 の胸元に顔を埋めて、の制服を握り締めて、声を押し殺して泣いた。
 は、の背中をゆっくりとさすった。
「…忍足、ちょっとを保健室連れて行ってくれないか?」
「あぁ、かまへんけど…。」
「跡部は話があるから残っといて。」
 のキツい声に跡部は黙ってしまった。何を言われるのかは大体想像が付いたから…
 を立たせて、忍足が支えながらは保健室に行った。
 2人の姿が見えなくなると、は跡部にゆっくりと近づいた。

…そして…乾いた音がその場に響いた…