は頭に包帯を巻いて学校に登校した。いつもより家を出るのが遅れたのでとは別々に登校した。
 学校に着くと、かなりの生徒が登校していた。生徒達は朝練やおしゃべりに華を咲かせている。
 自分の教室に荷物を置いて、のいる教室に向かった。
 長い廊下をは一人で歩いていた。入院前に血まみれで平然としていたせいか、皆がを避けた。
 それでもは気にせずに歩みを進めていった。
 のいる教室につくと、は一人で本を読んでいた。
 でも…に違和感を覚えた。

…少し痩せたか…?

 にはが何だか痩せて…やつれたように見えた。
。」
 静かに近づいて、が声をかけた。
「ぁ…ぉ、お早う御座います。」
 のことに気づかなかったのか、少し驚いて挨拶をした。
 が完全におかしいと思った。変というわけではなく、いつもとは明らかに違っていた。
…なんかあったのか?」
 に問いかける。は一瞬、ビクッと肩が上がった。それを見逃すではない。
「…何があったんだ?」
 少し低い声で、それでも優しくに問うた。
「…何でもないです。心配してくださって有難う御座います。」
 の表情もどこかぎこちない。絶対に、は何かを隠していた。

 はとても授業に集中できる状態ではなかった。外からは見えない傷が痛んでいたから…
 が入院していた間、は女生徒達からのイジメを受けていた。
 忍足がのところへ走って行った後、跡部と一緒に帰っていたところを見られたのだ。
 もちろん、はイジメを受けていることは跡部にも誰にも言っていない。
 自分だけで痛みを抱えていた。お腹が痛いから、食事もあまり取れず、の体重は減った。
 毎日、は呼び出されている。こんなことはいつまで続くのか…
ちゃん、どうかしたん?」
 忍足もの異変に気づいていたようで、ついに声をかけた。
「何でもありませんよ。心配してくださって有難う御座います。」
 口調はいつもと変わらない。それでもその表情はどこかおかしかった。
「ならええんやけど、無理したらあかんで?」
「はい。有難う御座います。」
 …このとき、忍足は気づかなかった。自分たちのファンがに向かって殺気を放っていたことに…

 4時間目が終わって、昼食をとる時間になった。
 はこの後、担任から呼び出しをくらっていたので、とは食事できないと先に言ってある。
 とても晴れていて、窓際は日差しが丁度良くて眠たかった。
 風も気持ちが良くて、思わず窓から顔を出した。
。」
 跡部がに声をかけた。退院して通学してきたの様子は前のように戻っていた。
「何だー?」
 は、視線は返さず、声だけで返答した。
「お前…頭の傷はもういいのかよ?」
「一応な。包帯はまだ外せないけど、問題はないな。」
 その口調も態度も、前と同じだった。
「…跡部…」
「あ?」
「…と…何かあった?」
 聞かれるとは思わなかったことを聞かれ、跡部は一瞬戸惑って答えた。
「いや…何もない。」
「あ、そ。ならいいか。」
 …跡部はの言葉が気になった。何だか、嫌な予感がしたから…
 跡部が何でか聞こうと思ったら、の表情が強張った。
 外の方をジッと見ている。何を見ているのかと思って、跡部も窓の外を見た。
 見えたものは、と数人の女生徒達がどこかへ行くところだった。
 これが何を意味しているのか、想像できた。跡部も顔を強張らせて、急いでのところに行こうとした。
「跡部!」
 後ろから、に呼び止められ、跡部は止まって後ろを振り返った。
「担任に、放課後行くって言っとけ!」
「お前、何言っ…!!!」
 は、窓枠に足をかけた。その行動から次の行動が予想できる。
 他のクラスメイト達も分かったのか、驚きの声を上げている。の表情は…本気だ。
「おい!ここは3階だぞ!!!」
「関係ねぇよッッ!!!」
 の声が聞こえた後、の姿が消えた。跡部は慌てて窓の外を見ると、上手く着地したの姿が見えた。
 は、迷うことなく走って行く。

…3階から飛び降りるなんて危険な真似が何故出来るのか…

 のためにそこまで出来るは凄いと跡部は本気で思った。
 肝心なときには無力で、跡部は悔しかった。何も出来ていない自分に腹が立った。
 跡部は、拳を握り締めた。

さん、今日も大人しくしてなさいね。」
 は、数人の女生徒に囲まれていた。

…これから始まるのは、毎日行われている儀式…