昼休みになっても、跡部と忍足は屋上へは行かなかった。
 跡部がノートをまとめていると、忍足が教室に来た。それを見て、跡部は机に広げていたものを片付けた。
「・・・は?」
「昼休みになってすぐにどっか行きやがったぜ。」
「え、ちゃんが来たんとちゃうんか?」
 いつもなら、のところにが来て昼食をとっていた。
 昼休みになって、のところに行ったのだと忍足は思っていた。
は来てねぇぜ?」
「でも、昼休みになってすぐに出てったで?」
 二人は疑問に思った。その理由はすぐに察しがついた。
「・・・まさか・・・」
 跡部が呟くように声を出した。嫌な光景を二人は想像した。が、が、あのときのようになることを・・・

「忍足、邪魔なんだけど。」
 忍足はいきなり声をかけられて、驚いて振り返った。
 そこに立っていたのは、先ほどまで話題になっていた二人だった。
 を見て、二人は目を見開いた。血まみれの手で血に染まったハンカチを持っていたから。
 頭からは血が流れている。教室にいた生徒達も、驚きの声を上げていた。
 悲鳴に近い声を上げる女子もいる。だが、そんなもの、にとってはどうでもよかった。
、俺病院に行くから、俺の担任に言っといてくれな。」
「はい。・・・お気をつけて・・・。」
 は机の横にかけてあったカバンをとると、さっさと出て行こうとした。
「ちょっと待てよ。」
 怒りの混じった跡部の声が聞こえて、も跡部を見た。
「どうしたんだよ、それ。」
「どうでもいいだろ。お前らには関係ないよ。」
 の声もまた少し怒り混じりな声だった。
「関係ないことはないやろ。」
 忍足も口を開いた。何故、が怪我をしているのか分かっていたから。
 の態度はいつもと変わらない。いや、少なくとも忍足に対してはどこかおかしかった。
 は忍足の言葉に返事を返さなかった。
「跡部、、頼むな。」
 それだけを言うと、は教室から出て行った。は、下を向いて体が少し震えていた。

 放課後、忍足も跡部も練習に身が入らなかった。
 あの後、何があったのか分かったからあえてには何も聞かなかった。
 辛いことを思い出させたくはなかったから。
 ただ、跡部と忍足は二人を傷つけて、それに気づけなかったことが悔しかった。
 自分達が頼ってもらえなかったことが悔しかった。自分達の無力さを思い知らされたようでイライラした。
 ・・・とても練習できそうにない・・・それでも練習をしないわけにもいかないと二人は最後まで部活に参加した。
 日が暮れかけて、空が綺麗なオレンジ色になると、跡部と忍足はすぐに病院に向かおうとした。
 校門まで走ると、そこにはが立っていた。少し下を向いて、校門に寄りかかって立っていた。
 てっきり、病院に行ってのそばにいると思っていたので驚いた。
 は跡部と忍足に気づいて、顔を上げた。
「練習、お疲れ様でした。」
 が小さく頭を下げて、口を開いた。その声は元気がなくて、表情も暗かった。
「私が病院に行ったら、怒られちゃいました。」
 やっと聞こえるくらいの声でが言葉を発した。にそんなことをいったことにも驚いた。
「誰でも、見られたくないって言ってました。」
 また下を向いて、カバンを持つ手に力を入れた。跡部はそれを見て、のそばまでいった。
「忍足さん、さんのところに行ってあげてください。」
 の声は震えていた。

「・・・忍足さんじゃないと・・・ダメなんです・・・・・・。」

 は、忍足のところに駆け寄って、袖を握った。
「忍足さんじゃないと・・・ダメなんですよッ・・・」
「せやけど、ちゃん。俺が行ってもを苦しめるだけやで?」
「ダメなんですッ・・・貴方じゃないとダメなんですよッ!」
 自信なさ気に言う忍足に叫ぶようには言った。
「忍足、行って来い。」
 跡部が後ろから後押しした。これが、ラストチャンスだと忍足は思った。
「ほな、行ってくる。」
 忍足の言葉に、は忍足の腕を離した。忍足はそのまま駆け出していく。
「俺たちは・・・帰ろうぜ。」
「・・・はい。」
 小さく頷いて、と跡部は校門を出た。