スポーツ店に着いてから、とは自分に合ったラケットを探した。
跡部や忍足の意見を聞いて、少し値の張ったモノを買った。
店員が、この近くにテニス場があることを教えてくれたのでそこに向かうことになった。
着くと、思っていたよりも空いていて、空いているコートを使うことができた。
全員、まぁまぁ動きやすい格好だったのでそのままで試合することになった。
「忍足!今度は俺が勝つからな!」
「俺に勝つんは100年早いって言うたやろ。」
は、前回の試合のリベンジがしたくてならなかったようだ。
相手があの氷帝男子テニス部レギュラーなのだから、負けても仕方がない。
が、負けず嫌いのはそれでは納得しなかった。
「言っとくけど、体調は万全だからな。手加減なんかしたら殴るぞ。」
「悪いけど、手ぇ抜く気はあらへんで。」
・・・本音だった・・・あのなら、手を抜かれることを絶対に嫌がるだろうと忍足は分かっていた。
のことを思うからこそ、手加減をするつもりはなかった。
「跡部〜。審判頼む〜。」
「なんで俺がそんなことしなきゃならねぇんだ?アーン?」
跡部は、嫌がって、審判をすることを拒んだ。・・・が・・・
「跡部さん、お願いできませんか?私はまだ審判とかできませんし・・・」
に頼まれると跡部は断ることが出来なかった。
「・・・分かったよ・・・」
「有難う御座いますね。」
仕方なく、跡部は審判をすることになった。
試合が始まると、の調子がとてもいいようで、忍足が少し押されていた。
しかし、後半になってくると、忍足の方がやや優勢になってきた。
この試合は長かった。ポイントをひとつ取るのに、かなりの時間がかかった。
長時間の試合はの体にはきつかった。呼吸が苦しくなってくると、動きが鈍り、忍足に得点を許してしまう。
結局、この試合も忍足が勝った。は悔しそうな顔をしてタオルで汗を拭いていた。
忍足は、の体は大丈夫かと、心配でならなかった。
忍足がのことをとても心配しているのが、と跡部には分かった。
ものことが心配でならないようだ。の様子には気づいた。
「あぁ、俺なら大丈夫だぞ?発作も出てないし。」
本当に大丈夫そうなにも忍足も少し安心した。
は、が自分を心配してくれているのはわかっても
忍足が自分を心配してくれていることに気づいてはいなかった。
日が暮れてきて、そろそろ解散ということになった。
跡部がを自宅に送っていくと、先に2人で歩いて帰ったので、テニス場には、と忍足しかいなかった。
はもう少し、打ちたいというので、忍足と簡単な打ち合いをやっていた。
ボールが綺麗な弧を描いて、相手のコートに入る。
「なぁ」
「んー、何だー?」
呼びかけてくる忍足に返事を返した。それでも手を止めることはなく、ボールを打つ音が絶えることはない。
「お前、俺のこと、どぉ想っとる?」
は、予想外の質問に手を止めた。驚いて、少し眼を見開いて忍足を見た。
今まで綺麗に弧を描いていたボールがの足元に転がった。
「・・・どうって言っても・・・いい奴だと思うし、頭いいし、テニス強いし・・・悪いイメージはねぇけど・・・」
は深い意味なく、忍足の言ったことに答えた。
だが、の答えは”忍足侑士という一人の人間”のイメージだった。
「・・・なら・・・」
忍足の口調が、真剣味のあるものに変わった。
「”男”としては、どう想っとるんや?」
は、ただ驚いて、口を開けずにいた。まるで自分の体じゃないみたいに、自由に動かすことができなかった。
は、異性に興味はなかったから。こういったことは初めてで、どう答えて良いのか分からなかった。
異性としてどうかと言われても、はそんなことを考えたことすらなかった。
だが、の相手コート側に立つ忍足は真剣な目をしていた。
「異性として、考えたことはないよ。」
の口から出た言葉は、いつもと同じ様子だった。の正直な意見だった。
忍足は、少し悲しそうな顔をした。一瞬だけだが・・・
「・・・初めて、そんなこと聞かれたよ。」
の体の自由がだんだん戻ってきた。の様子もいつものように戻っていく。
「異性がどうとか、っていうのは考えたことねぇから。何とも言えねぇよ。」
は、足元のボールを拾いながら言った。忍足は、がどこか儚げに見えた。
「氷帝に入って、とずっと一緒にいるようになったんだ。」
ポツリ、と呟くようにが言葉を発し始めた。
「と一緒にいると楽しかった。肩の力を入れることなんか全然なかった。」
弱々しく聞こえるが、声はハッキリしていた。
「他には何もいらなかった。さえいればよかったんだよ。」
は顔を上げて、忍足を見た。忍足も少し驚いた。
そのときのの表情は、とても綺麗で、少女らしかった。
弱々しく見えて、いつものとは違っていた。
「そういうことは考えたこともないんだよ。だから・・・お前の問いに答えが出せない。」
忍足は、の言葉に耳を傾けていた。は、小さな笑みを浮かべて・・・
「ごめんな」
・・・と、呟くように言った。
は、一度、下を向いて、また顔を上げた。その表情はいつもと同じだった。
「しっかし、そんなこと俺なんかに聞くなんて・・・好きな奴でも出来たのか?」
はラケットでボールを地面につきながら、忍足に言った。その口調はいつもと変わらない。
「あぁ、いるで。好きな奴・・・」
「そっか。うまくいくといいな。」
は、いつもの笑みを忍足に向けた。忍足のことを、何も知らずに・・・は、ボールをつくのを止めて、ボールを手に持った。
そろそろ帰る準備をしようかと、が忍足に背を向けた。の後ろから、思わぬ言葉が聞こえた。
「その相手が、お前や言うたら、どないする?」
忍足の言葉が聞こえた瞬間、は勢いよく後ろを振り返った。


