・・・ラクス・クライン・・・、最高評議会議長の娘である少女。・・・彼女に感じた違和感は、実はもう分かっているのかもしれない。
・・・彼女は、よく似ているんだ。とくに、瞳が。
・・・俺の、母親で"あった"女性に・・・。
ラクス・クラインとの面会は、午後2時からということであった。
最高評議会議長の娘の邸宅に行くということもあり、軍から支給された衣服では不味いだろうということで、ロミナ・アマルフィーが値の張った服を新調してきた。
は、ロミナが買ってきた服を素直に受け取り、クライン邸に向かう準備をした。
ニコルがをエレカでクライン邸まで送り、中へは一人で入っていった。
インターホンを鳴らすと、すぐに対応があり、であることが確認されると、すんなりと邸内に通された。
一般宅とは違う広い敷地に広い邸内。
は驚くことでもなかったが、邸内の雰囲気は、10年近く前まで住んでいた自宅によく似ていた。
執事によってある部屋に通されると、目の前には大きな階段があり、ピンク色の髪の少女が、ゆっくりと階段から降りてきた。
そして少女の後ろから、少女よりも早く、カラフルな球体の群れがを囲んだ。
球体は、一定の機械声を出しながらの周りを飛び跳ねている。
が周りの球体に目をやっていると、少女は完全に降りてきたようで、の真正面に立った。
「初めまして、ラクス・クラインですわ。」
ピンク色の髪の少女は、ラクス・クラインと名乗り、にこりと笑って手を差し出した。
「初めまして、・です。」
も名乗り、手を差し出し握手を交わすが、彼の表情は硬かった。
軽い握手で手を離すと、周りの球体は更に騒がしく、の目の前を飛び跳ねた。は反射的に身をかわす。
「まぁ、皆さんいけませんよ。彼は大事なお客様ですわ。」
ラクス・クラインの言葉に、は呆れていた。"機械に感情など無い"という事は、ナチュラルの子供だって分かることであるというのに、目の前の少女はまるで感情があるものかのように対応しているからだ。
呆れたようにラクス・クラインの顔を見ていると、ラクスはの表情を別の意味に取った。
「あらあら、お客様にはお茶をお出ししないと・・・。どうぞこちらへ。」
球体の集団を引き連れて、ラクスは階段の横を進んでいった。も静かにその後ろをついて行った。
廊下には、ラクス・クラインの足音と、球体の跳ねる音だけが響いていた。
「どうぞ。」
ラクスは、別の機械が運んできた紅茶を自分との目の前に置いた。
は軽く礼だけで済ませた。ラクスは席に着き、紅茶を口にした。
「ところで、何の用件で俺を呼び出したのですか?」
が一番気にしていたのはそこだった。
何の接点も無いはずのラクス・クラインが、何故、自分を呼び出したのかが、は気になっていたのだ。
もしかしたら、"アイツのコマ"なのかも知れないとまで考えた。
最も、"コマ"と言っても、完全に用意したものであるか、ただ利用しているものであるかの違いであって、"コマ"であることには間違いは無いだろうと考えていた。
ラクス・クラインが少し考えるようなしぐさをすると、にっこりと笑ってあっさりと言い放った。
「理由はありませんわ。」
ラクス・クラインの返答に、は頭痛が起こりそうな気がした。
「ただ、アスランから中立にいらっしゃった方がプラントにいらしてると聞いて、お話を聞いてみたくなりましたの。・・・ご迷惑、だったのですか?」
それを理由というのではないか、とは心の中で呟きながらラクスの言葉を聞いていた。
だが、はヘリオポリスにいたといっても3ヶ月程度であり、確かに自国は中立であったが、"裏"はとても中立とは呼べない国だった。
ただでさえ、一般的な生活などほとんど送ったことの無いが、ラクス・クラインに話ができるわけが無かった。
「・・・そういった話について、俺が貴女に言えることはありません。」
「まぁ、何故?」
何故、と問われれば、は答えることができなかった。
「中立と言っても、ヘリオポリスにいたのは3ヶ月ほどで、それまでは地球上の国を転々としていましたから。」
全てが嘘ではない適当な話を理由にし、これ以上の彼女との会話は面倒だと、口を閉ざすために紅茶を口にした。
「まぁ、そうでしたの・・・。」
何か悪いことを聞いてしまったと思ったのか、ラクスは悲しそうに言葉を発した。
テレビの映像越しに見たときに彼女に感じた違和感は、ココには無かった。
ラクスがゆっくりと上を見上げると、ラクスは席から立ち上がった。
「そろそろ、歌の時間ですわね。」
が腕の時計を見ると、針はちょうど午後3時を指していた。球体の機械にも時刻が設定されているのか、そろってラクスの方へと集まってくる。
「様、良ければお聞きになって行ってくださいな。」
ラクスはの方を向いてにこりと笑って言った。特に何もないだろうと、は首を縦に振った。
ただ、の頭の中には嫌な思いだけが広がろうとしていた。
"・・・どうしてこうも自分の周りには音楽があるのか・・・。"
は、とても偶然だとは思えなかった。
もし、ここにいるのがすでにシナリオかもしれないと思うと、寒気がした。
そんなことをラクス・クラインが知るはずも無く、テレビで流れていた歌を庭の中心あたりで歌いだした。
「・・・ラクス、・・・クライン・・・。」
小さなの呟きが聞こえるはずも無く、ラクスは歌い続ける。
はずっと目をそらしていたが、何も考えずに、ゆっくりとラクス・クラインを見た。
そして驚いた。
歌ってる様、表情、そして・・・、瞳。
まるで、自分の母親であったはずの人物にそっくりだった。
容姿や歌い方、声も全く違うのに、何故か良く似ていた。それは、音楽に共通する者だからこそであった。
「・・・やはり俺が感じた違和感は・・・、コレのこと・・・だったのか・・・。」
は目を見開いてラクスを見、そして歌を聴いていた。
本当は今すぐにでもここから立ち去りたいはずなのに、何故か動けなかった。まるで、金縛りにあったかのようには固まってしまっていた。
ラクスが歌い終わると、まるで金縛りから開放されたように楽になった。ラクスは、日課が終わると、のそばの席まで戻ってきた。
「いかがでしたか?あまり、お好きではありませんか?」
は、ラクスに声をかけられても、最低限の言葉しか返すことはできなかった。
「そんなことは、ありませんよ。・・・とても良い歌だと、思います。」
「まぁ、嬉しいですわ。有難うございます。」
は言葉を返すだけに終わってしまい、午後4時に、ラクス邸を出た。
「ラクスさんとの面会は、いかがでしたか?」
行きと同じように、ニコルがエレカでを迎えに行った。
ニコルは、先ほどからずっと無言であるに、何か言葉を発してほしかった。
「・・・別に、何も特別なことはない。」
「そう、ですか・・・。」
ニコルはの素っ気無い返答に、に言葉をかけるのを止めた。声をかけるべきではないというニコルの判断は、正しかった。
は・・・、無表情だった。の昨日とは違う様子に、ニコルは心配しながらもエレカを自宅に向かわせた。
  
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