ニコル・アマルフィーの休暇が終わった。俺もまた、アマルフィー家を出る。
 何だかんだと、アマルフィー夫妻には、とても世話になった。

 ・・・俺はもう二度と、プラントに足を踏み入れることは無いだろう・・・。


 ニコル・アマルフィーが自宅を出た後すぐに、はラウ・ル・クルーゼに指定された場所に向かった。
 そこで渡されたのは、ワインレッドの色のザフト軍の軍服。は、それに袖を通す。
 まるで、が以前から軍人であったかのように、軍服姿は様になっていた。
「これから、よろしくお願いします。ラウ・ル・クルーゼ"隊長"。」
「こちらこそ頼むよ、。」
 まるで初めてとは思えないほどに様になった敬礼をはして見せた。クルーゼは、嬉しそうに怪しく笑みを浮かべる。
「では、ついてきたまえ。」
 クルーゼが、に背を向けて歩みを進め始めると、は無言でその後を追っていった。
 見たことも無い新たなワインレッドの軍服の少年に、一般兵たちは珍しいものを見るような目でを見た。
 だが、はそんな視線を気にすることも無く、無表情のままクルーゼの後をついて行った。
「これから足つきを追うために、地球に降下することになる。」
 ラウ・ル・クルーゼは後ろを振り向くことなく、重力に任せて前に進みながらに行った。
 は返事をすることも無く、クルーゼの話を黙って聞いている。
「・・・君には期待しているよ、。」
「俺は俺で動く。そのことはアンタも了承したはずだ。・・・アンタのマイナスになるような真似はしないが、あえて手を貸す必要も無いと思うが?・・・俺はモビルスーツには乗らない。俺がすることは、"アンタ"に対する情報提供だけだ。」
 の言葉に、クルーゼは口端を小さく吊り上げた。は、あえて気づかないフリをしていた。・・・これ以上は言葉にしては無駄だと判断したからだ。
「このシャトルに乗る。」
 はクルーゼの言葉で顔を上げた。
 目の前には大きなシャトルと、荷物とそれを積み込むコーディネイターたち、そして多くの兵士の姿だった。
 にとっては、ある意味、見慣れた光景でもあった。ただ、人間がナチュラルではなく、コーディネイターということを除いて・・・。
 見た目だけを見れば、ナチュラルもコーディネイターも変わらない。それはブレードチルドレンにも言える事だ。
「地球に着いてから、皆に君の事を報告する。それで良いかな?」
「構わない。」
 は、ラウ・ル・クルーゼにだけは警戒心を剥き出しにした。
 どんな相手に対しても警戒心は怠らないが、ラウ・ル・クルーゼだけは比べ物にならないほど警戒していた。
 は気を抜くことは無く、シャトルも無事に地球へと降下した。



 にとって、久しぶりである地球は暑かった。
 もちろん、場所のこともあるのだが、今までは人工的に調節された気候だったために、本当に自然な暑さを感じさせる地球の天候は、暑さで不快でありながらも心地が良かった。
「こっちだ。」
 はラウ・ル・クルーゼの後を一定の距離を置いて歩いた。無言で歩いていると、ある部屋の前で止まった。
 何の躊躇いも遠慮もなく部屋に入ると、そこにいたのはワインレッドの軍服を着た二人の少年だった。
 顔に傷のある銀髪の少年と、小麦色の肌をした金色の短髪の少年だった。
「隊長ッ!・・・なッ!!!」
 クルーゼを見て安心したのもつかの間、後ろにいたを見て銀髪の少年は驚きの声を上げた。
 金髪の少年も、驚きを隠せずに立ち上がった。
「隊長!何故ナチュラルであるソイツがここにいるのですかッ!!!」
 クルーゼ相手に敬礼することも忘れ、を睨みつけて叫ぶように言った。
「落ち着きたまえ、イザーク。彼は本日よりザフト軍クルーゼ隊に所属することになった。」
「なッ!!!」
 信じられないと言った眼でを見た。
 そんなイザークを見て、は部屋の中まで歩みを進め、何も変わりないかのように敬礼をして名乗りあげた。
「本日付でクルーゼ隊所属となりました、です。」
 の態度が気に入らないのか、ますます眉間にしわを寄せた。
 逆に金髪の少年、ディアッカ・エルスマンは、諦めたように小さくため息をついた。
「では、ここでの任務を言い渡す。席に着きたまえ。」
 クルーゼに言われ、イザークは渋々ながらに席につき、は静かに離れて席に着いた。