・・・仮面をつけたザフトの将校・・・ラウ・ル・クルーゼと言ったか・・・。
 アル・ダ・フラガのクローン体だという情報だったはずだが・・・。
 コーディネイターでないはずのヤツが何故ここにいるのだろうか。


 医務室には、とラウ・ル・クルーゼだけが残された。
 は警戒心を剥き出しにしてラウ・ル・クルーゼを見上げている。
「そう怖い顔をしなくとも、我々は君を殺さない。」
 は自身の死を恐れているわけではない。
 ラウ・ル・クルーゼが口元に笑みを浮かべていることに、不信感と不快感を感じているだけだった。
「俺は死を恐れているわけじゃない。何故、俺を生かしたのか、そのわけが知りたい。」
 は、昔一度だけ、どこかでラウ・ル・クルーゼと会ったことがあるような気がしてならなかった。
 どこで会ったのか、いつ会ったのかは、まったく覚えてはいない。
 だが、ラウ・ル・クルーゼと対峙する感覚は、何故か身に覚えがあった。
「・・・君は、よく似ているな。容姿、口調、声質…強気な態度までそっくりだ。君の兄さんに…。」
 ラウ・ル・クルーゼの言葉に、は目を見開いてラウ・ル・クルーゼを見た。
 何故、ラウ・ル・クルーゼが、兄・クルーウェルの存在を知っているのだろうか。
 もし、ラウ・ル・クルーゼがクルーウェルに繋がっているのなら、という考えが、の頭から離れなかった。
「・・・あんたは、俺の何を知っているんだ。」
 今度は殺気混じりでラウ・ル・クルーゼを睨みあげる。ラウ・ル・クルーゼは口元の笑みを絶やさない。
「別に詳しく知っているわけではない。ただ、クルーウェル・の実弟ということしか知らんよ。」
「それだけ知ってりゃ十分だ。」
 クルーウェルのことを知っているということは、当然実弟である自分のことも良く知っているはずだ、とはふんでいた。
 だが、約1年前の"ユニウスセブンの崩壊"に、クルーウェルが関わっている可能性は高かった。
 目の前の男は確実に実兄の"何か"を知っていると、は心の中で確信していた。
「・・・あんたに、頼みがあるんだ・・・。」
 が発した言葉に、ラウ・ル・クルーゼは口端をさらに吊り上げた。

 ラウ・ル・クルーゼが医務室から退室し、部屋は再びだけとなった。
 は額を押さえ、自分がやろうとしていることが、本当に正しいのかどうか、今頃になって不安がよぎってきた。
「・・・俺も、戦わなきゃならない。・・・俺の方法で・・・。」
 は胸の前で、小さく拳を握り締めた。
「・・・これが最善であることを、切に願う・・・。」



「・・・通信機、全然反応しませんね・・・。」
 ヘリオポリスからオーブへと移った3人とルディセヴァルス・コントラストは、ユリエットの自宅に集まっていた。
 3人は沈んだように俯いているが、ルディセヴァルスは堂々と足を組んでユリエットの用意した紅茶を口にした。
と連絡がつかないのなら仕方がない。アイツが生きていても死んだとしても、どちらにせよリーダーであるアイツがいない限り、俺たちに仕事はない。それぞれの休暇をオーブでとりながら、アイツが無事である事を祈り、待つしかない。心配するだけ無駄だ。」
「そんなッ・・・何でですか!もしかしたらさんが死んじゃったかもしれないんですよッ?!」
 の生死にあまりに無頓着なルディセヴァルスにユリエットは顔を上げ、叫ぶように言った。
「だが、生死も何も分からないのであれば、下手に動かない方がいい。もし、アイツに何か考えがあるのなら、逆にアイツの足を引っ張る可能性がある。それでもいいのか?」
 ルディセヴァルスの冷静な言葉に、ユリエットは再び俯いた。
「お前達にできることは、アイツが無事であることを祈るだけだ。」
 ルディセヴァルスの言葉だけがユリエットの部屋に響いた。

 仕事が入っていたので、ルディセヴァルスは先にユリエットの自宅を出た。
 空はとても曇っていて、スコールが降りそうな感じで、街を歩いている人々も減ってきた。
 ルディセヴァルスは顔を隠すためにサングラスをかけ、人通りの少ない道を歩いた。
「アイツが殺されるはずがない。・・・俺達の唯一の希望ならば・・・。」
 正直なところ、ヘリオポリスにいなかったルディセヴァルスは、3人以上にの事を無意識に心配していた。
 状況のことを考え、3人にはあんなことを言ったが、本当は気になって仕方がなかった。
 のことを考えたからこその言葉だった。
「・・・これが最善である事を、切に願う・・・。」