俺が目を覚ましたとき、そこには何があるのだろうか…。
 そこにあるのは現実か、それとも幻なのか?

 答えは、目覚めるまで分からない。



 は意識を取り戻したが、薄らと目を開けた後、人の気配を感じて再び目を閉じた。
"…俺は、生きてる…。…生かされた、のか?"
 ゆっくりと周りの状況を頭の中で整理し始める。
"…薬品の匂い…。医務室か、研究所か、それとも…。"
 コックピットの中で意識を失ったことは、すでに分かりきっていたことだった。
 と、言うことは、ココは地球連合軍かザフト軍のトコロだと推測できた。
"…地球軍にしては、俺への対応がお粗末だ。…ならココはザフトなのか…?"
 地球連合軍がの存在を、軽く見るわけはない。
 人の気配が自分から遠ざかり、退室したのが分かると、はゆっくりと目を開けた。
「…いくら怪我人とは言え、拘束くらいはした方がいいと思うが…。」
 ぼそりと呟くように言い、はゆっくりと上体を起こした。
 ずっと眠っていたのと銃撃での出血せいで、頭痛がを襲い、思わず額を押さえた。
「…痛ッ…、まったく、アイツに打たれ、データは盗まれ…、…自業自得、か。」
 半ば諦めたように、ゆっくりと頭を上げ、周りを見渡した。地球連合軍の研究所でも医務室でもない、部屋。
「…ココはやはりザフト軍の…医務室と言ったところか。」
"…まぁ、俺を地球連合軍の軍人かと疑って、生かして連れてきたということか…。"
 は小さくため息を吐くと同時に、扉の開く音がした。
 一瞬驚きはしたが、敵地では大人しくしておくのが策だと、ゆっくりと視線を扉の方へ向けた。
「あ、気がついたんですね。」
 そこに立っていたのは、ワインレッドのザフト軍の制服を着た、よりも年下に見える少年だった。
 は、何の警戒もなく言葉を発する少年に対し、半ば呆れていた。
「…ここはザフトだな。何故俺を連れてきた。」
 言葉自体はきついのだが、口調は決してきつくはない。
 は、少年の雰囲気から無意識のうちに重みのない口調になってしまっていた。
「貴方は意識がなく、怪我を負っていたので、ここまで連れてきました。」
 丁寧に答える少年に、は目つきを鋭くした。
「本当は、俺を地球連合軍の軍人かと疑って連れて来たんだろう?」
 先ほどのように、軽い口調ではなかった。重みのある、威圧感のある言葉。
「…それは…」
 少年、ニコルがどう答えていいのか、考えながら重々しく口を開いた。

「目が覚めたかね。」
 扉が開き、そこに立っていたのは、ニコルと同じデザインの白い軍服を着た男とニコルと同じ色の軍服を着た3人の少年だった。
 は仮面をつけ、白い軍服を着た人物を見て、口を開いた。
「…俺への処分は、もう決まったのか?生憎、ザフトが期待できるような情報は何も持っていないが?」
 まるで覚悟が決まっているかのように、は堂々と言い放った。
 あまりの堂々とした態度に、ワインレッドの軍服を着た少年達は、何かしら反応を見せている。
「ザフト軍にとって、俺は何の価値もない。情報は持ってない、軍人ではない、遺伝子操作は行っていない。俺の存在はザフトにとって面倒事にしかならない。処分する気があるのなら、早く殺した方がいい。俺が生きている時間が無駄だ。」
 がそういうと、後ろの少年達は驚いたように目を見開いている。
 目の前の男は仮面で表情が分からないが、さほど驚いている様子はなかった。
 その男はゆっくり後ろを向き、少年達に退室するよう命じた。少年達は、上司である男に従い、敬礼して医務室を出る。
 男はゆっくりと振り向き、口元を緩め、を見下ろした。