今回の作戦は、今までよりも更に重要な任務であることは誰が言わずとも分かった。
ただでさえオーブの軍事技術が優れていることは、ザフト軍も地球連合軍も認めていることだから。
でもそれだけじゃなくて、何だかいつもと、違う予感がした。
地球連合軍がヘリオポリスで開発していた新型機動兵器を奪取するため、クルーゼ隊の隊員達は爆発物を仕掛け、小高い丘で仕掛けが作動するのを見守っていた。
ラウ・ル・クルーゼの言った通り、ザフト軍からの攻撃があったことを知った地球連合軍は、新型機動兵器をコークから出すことを優先させた。
小高い丘の上で、クルーゼ隊員達は作戦通りだ、と口元を緩ませた。
「クルーゼ隊長の言ったとおりだな。」
「つつけば慌てて巣穴から出て来る、って?」
「やっぱりマヌケなもんだ、ナチュラルなんて…。」
仲間が馬鹿にしたように言っていることを、ニコル・アマルフィーは耳に入れてはいなかった。
それほど、この作戦に慎重だったのだ。
予定通りに事が運んだ事を確認すると、地球連合軍の新型機動兵器を奪取しに散っていった。
すでに運び出されている機体の方へ行くと、イザーク・ジュール達はその光景に驚いた。
本来なら、多くの地球軍の兵士達が新型機動兵器を守るために戦闘体制に入っているはずだが、そこはすでに戦闘後のように兵士達が倒れていた。
「…どういうことだ…。」
「とりあえず、この3機を戴いていこうぜ。俺たちの任務はそれだからな。」
ディアッカ・エルスマンの言葉に、周りに倒れている兵士達を避け、イザーク・ディアッカ・ニコルの3人は機体に乗り込んだ。
ニコル・アマルフィーは、ブリッツガンダムのコックピットに乗り込もうとし、そこにいる人物に、思わずハッとした。
シートに座っていたのは、右足と左肩から血を流し、ぐったりとしている少年だった。
軍服でもパイロットスーツでもなく、私服を着た民間人に見える少年だった。
機体の方は、機動スイッチだけが押され、他には何にも手は付けられてはいなかった。
"おい、ニコル。どうした?"
機体内にある通信システムから、聞きなれたイザークの声が聞こえる。
"機内に人がいるんですが…。"
とりあえず作戦中であるため、通信に答える。
"あ゛?まさかパイロットなんじゃないの?"
本来なら、こんな機体に民間人が乗っていることの方がおかしいからだろう。
ディアッカは、正直に思ったことを口にした。
"ですが怪我を負っていて、どうやら軍人でもないようです。"
"今は『地球連合軍の新型機動兵器の奪取』のための作戦を実行しているんだ。"
イザークが真剣な声で言う。
"仮にソイツが地球軍なら、何か情報を持ってるかもしれん。ソイツも連れて帰還だ。"
"…了解。"
ニコルは、名前も知らない少年を退かせ、OSを急いで書き換えた。
足元に、粉々になった何かがあるのに気づいたが、それを気にせずに機体を発進させた。
3人と、遅れてアスラン・ザラも帰還し、医務室に彼らとラウ・ル・クルーゼは集まっていた。
少年の傷は銃撃によりものだということが分かった。だが、少年の正体は分からなかった。
私服で、認識票も持っていなかったため、地球連合軍の軍人であるという証拠は掴めなかったからだ。
「目覚めるまでは、何とも言えんな…。」
医務室には、クルーゼの声だけが響いた。
少年を発見した場所が場所なだけに、彼が地球連合軍の軍人かもしれないという疑いは晴れてはいない。
だが、もし民間人だったのなら、と考えると少し胸が痛かった。
そんな中で、誰にも分からないよう、ラウ・ル・クルーゼは心の中で笑みを浮かべていた。
もし彼が、・ならば
そんな思いが、ラウ・ル・クルーゼの中にはあった。
それとは裏腹に、ニコル・アマルフィーは、誰よりも彼のことを心配していた。
ニコルは、機体の周りに倒れていた兵士達と戦闘したんじゃないか、と考えていた。
もし、彼がアレだけの人数を一人で倒したのなら、と考えると不安だった。
治療のための検査で、彼が遺伝子操作していないことは明白になった。
だが、何故か軍医は難しい顔をしていたのが、ニコルの頭から離れなかった。
「…後は、彼の意識が戻るのを、待つしかありません。」
軍医の言葉に、ニコルは不安で唇を噛み締めた。そして、軽く両手を組んだ。
早く、彼が目を覚ますことを、祈って…。
  
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