偽りの平和が崩れ去る時が来た。
それとも、『平和』という存在自体が偽りなのではないだろうか?

答えは、神だけが知っている。



「うわぁ…やっぱりオーブの軍事技術は見事ですねー。」
 ユリエットは、自分の情報通りの様子に喜ぶと同時にホッとしていた。
 もし、自分の情報が間違っていた場合、始まる前から作戦が成り立たないからだ。
「外はあーんなに穏やかなのになぁ。」
 ユウは周りをきょろきょろと見渡しながら呟く。傍から見れば緊張感の無いように見えるが、彼なりに集中力は高まっている。
「でも、気をつけなさいよ?地球軍側にはアイツがいるし、どんな指示を出しているのかも分からないんだから。」
 真剣な顔つきでユリエットの方を見るアーリクレイラは、片手に手榴弾を持っていた。彼女から一番ピリピリとした雰囲気が伺える。
 は、自分の現在地を確認すると、静かに後ろを向いた。
 そして3人に告げる。
「この先は俺だけで行く。俺の連絡があろうとなかろうと、自分達が生き残る事を最優先に考えろ。」
「「「了解!!!」」」
 3人は返事をした後、各々の役目を果たすために、散らばった。

 が歩を進めていっても、辺りは静かだった。とてもこれから起こる事が、4人以外の誰も予測が出来ないほどに。
「…何だか胸騒ぎがするな。もしかしてアイツ絡みなのか?」
 は目つきを鋭くして、時が来るのを待っていた。
 ユリエットがに知らせた情報は、地球連合軍の新型機動兵器がヘリオポリスで開発されていると言う事と、その情報をザフト軍が入手していると言う事だった。


           ザフトが新型機動兵器を奪取するなら今しかない

 の中にはそんな予感があった。
 新型機動兵器の開発は最終段階まできている事は、ザフト軍も放ってはおかないだろう、とはふんでいた。
 それに紛れ、新型機動兵器をザフト軍と同時に奪取するのが目的だった。
 5機の新型機動兵器が開発されているという情報だったが、はあえて自分1人、1機だけを奪取するつもりだった。
 には、どうしても1機だけ調べたいコトがあったからだ。

 の脳裏に思いが浮かんだその時、大きな爆音がの耳に入ってきた。
「コレが合図だな。予想通りで助かった。」
 が上を見上げると、ザフト軍のパイロットスーツを着た人間が見えた。
 彼らが背を向けるのを確認すると、は銃を片手に運び出された3機の方へ走り出した。
 機体の周りにいた人間を殺さないよう、急所をはずして銃を向け、打っていった。
「やっぱり、1機はGAT-X207…、ということは当然ミラージュコロイドも搭載されているわけだ。」
 ブリッツガンダムを見てぽつりと呟くが、手を休めている暇は無かった。
 ようやく、直立している人間が視界から消えると、真っ先にブリッツガンダムのコックピットへと向かった。
 その影に、自分の良く知っている人物が、に銃を向けていた。
「やっぱり来ちゃったんだね、。」
 聞き覚えのある声、口調に、は銃を向けて振り返った。だが…、
「…遅いよ、。」
 は銃を跳ね飛ばされ、右足と左肩に銃弾を撃たれた。
 それと同時に怯むことなく、声の主に向かってナイフを投げつけた。
 そのナイフは、相手の銃を跳ね飛ばし、相手の手に軽傷を与えた。
「悪いが、お前の相手をしている暇は無いんでな。」
 痛むはずの足を庇いもせずに、はブリッツガンダムのコックピットの中に入り込んだ。
 ナイフを構え追おうをすると多数の気配を感じ、その人物はその場から急いで離れていった。

 コックピットの中で、は予想以上に自分が重症であることに感づいた。
「地球軍にいるのは知っていたが、まさかこんな所にいるとはな…。」
 は薄れゆく意識の中で、何とか機体の機動スイッチを押した。
 その時、のポケットに入っていた小型の通信機が機械音を発した。
 ユリエット達からの通信だと言うことはすぐに分かったが、外から聞こえる爆音と自分の意識が長くは持たないという考えから、は通信機のスイッチを押さずに握りつぶした。
「…コレが最善である事を、切に願う…。」
 ぽつり、と呟くように言い、は意識を手放した。