本当の平和とは何なのだろうか、といつも考えてしまう。
 本当の『平和』というものは、本当にあるのだろうか…。

 その平和を『本当』だと断定するのは、いったい誰なのだろうか。



 ヘリオポリスにある、一軒のカフェテリアの中に、少年達はいた。一見ただの民間人に見える少年達は、それでいてどこか強い威厳を感じさせた。
「…が言う事って、納得できることばかりよね。」
 そう口にしてアイスコーヒーを飲んでいく、アーリクレイラ・エル・レットラント。
 アーリクレイラの言葉を聞き、少年は更に言葉を返す。
「俺が言っている事が正論かを判断するのは聞き手であって俺ではない。お前がそう思うのなら、お前にとっては正論なんだろう。」
 ゆっくりとホットコーヒーを口にする少年、。ここに集まっている人間の中で、一番強い威厳を感じさせていた。
「だって、普通はみたいには考えられないと思う。」
 は、アーリクレイラの更なる言葉を聞いて言葉を続ける。
「だが、俺がこうして考えるのなら同じ考えの人間がいたっておかしくは無いだろう。人々の願う『平和』というものは個人によって違うものだ。それを理解しない限り人々は己の信じる『平和』のために戦い続ける。こんなことでこの戦争が終わるわけが無い。同じ事をただ繰り返すだけだ。」
 の言葉になんとなく納得できずに、の向かい側席に座っていた少女は言葉を発する。
「でも普通の人は『平和』って言うのは争いのない世界の事だって答えると思いますけど?」
 の言葉に首を掲げながら言葉を返すユリエット・フレプシャー。
「だが、実際にそれを『平和』だと認識するのは個人だ。考えてみろ。ブルーコスモスにとってコーディネイターが存在する世界など、たとえ争いが無くとも『平和』な世界とは言えまい。彼らにとってコーディネイターのいない、ナチュラルだけの世界こそが真の『平和』だ。その意志を変える事は難しいだろう。そして、それはコーディネイターにも言える事だ。戦いが終わっても、ナチュラルの生きている世界など、偽りの平和でしかない。」
 ブラックコーヒーが入ったカップを置き、自分の両腕を組みながらは言う。
 彼の信憑性のある言葉に、少女2人は納得をしていた。
 そしての横に座っているユウ・ハヤミは、先ほどからぼんやりと窓の外を眺め、会話に入ろうとはしなかった。
 喫茶店の窓から見る、争いとは無縁そうな風景。
 この風景が、もうじき目と耳を塞ぎたくなる様な光景に変わる。
 ここにいた少年達はみな、その未来を予感していた。


「…そろそろ…、時間ですかねー…。」
 時計で時間を確認した後、ユリエットは注文していたオレンジジュースを飲み干した。
 ユリエットの言葉を合図に、そこにいたメンバーは次々と立ち上がる。
「あ、俺支払っとくわ。」
 ユウは3人より遅れて立ち上がり、伝票を持ってレジへと足を進めた。
 4人が外に出ると、人工的な太陽の光がとても眩しかった。
 いつもと同じ、日常的な風景を太陽の光が包み込んでいる。
 暖かい雰囲気の中、少年達は胸騒ぎを覚えていた。
「作戦通りに事が運べば良いんですけどねー…。何だか嫌な予感がしますよ。」
 ユリエットは少し心配そうな表情を見せる。
「作戦はあくまで一つの行動パターンに過ぎない。作戦については気にするだけ無駄だ。先の事だけを考えろ。結果こそが全てだ。結果的に成功すればそれで良い。」
 ユリエットの発言を一蹴し、振り返りもせずには進んで行った。

 作戦の始まる前、は歩みを止め、口を開いた。
「俺がお前達に下す命令はただ一つだ。」
 は真剣な顔つきで、振り返る。
「無様な死に方は許さん。状況判断を見誤るな。その状況で、自分が何をすべきかをちゃんと考えろ。そして生き残れ。」
 の言葉に、他のメンバーは真剣ながらも笑みを浮かべていた。それこそが、無言の了解だったのだ。
 必ず成功させると言う強い意思と、を信じての了解だった。
 全員が了解したことを確認したは、小さく声を上げた。
「…ミッション、開始!」