…神尾もまだ諦めていなかったのか…
 練集中できないのなら練習をしても大して変わらないとは思うが…夜までこれではな…
 …真実を話すべきか否か…
 だが、話したところで神尾が信じるとは…思えないがな…


 夜になっても神尾は犯人を見つけ出すことが出来なかった。
 それで他のメンバー達も観かねて一緒に考え、動き出した。
 赤也は黙秘したままだ。
「夜までそうするのは勝手だが、集団を乱す行為だけはするな。」
 はそれだけを言って、その集団から抜けた。
 こうしている間にも、他の選手たちは明日の為にと身体を休めていると言うのに・・・。
 個性がどうというより、ただ本能のままに動いてるだけだな。
 ・・・やはり、教えた方がいいんだろうか・・・。
先輩。」
 後ろから自分の名前を呼ばれ、は進めていた足を止め、振り返った。
 そこには、何だか少し悔しそうな、悲しそうな表情をした赤也が立っていた。
「・・・何だ?赤也。何か私に言いたいことでもあるのか?」
先輩、知ってんだろ?だったら何で言わねぇんだよ。」
 口調はきついが、表情は逆だった。
 赤也を突き落としたのが橘杏であると、が知っていることを知っていたから。
 は赤也を見て、何が言いたいのかを悟り、口を開いた。
「俺はお前と橘の兄との試合を知らない。お前が試合で何をしたのか検討はつくが、今回の事に私は無関係だからな。それに、お前が言わないのに、私が言ったって何にもならないだろう?」
 がそういうと、赤也は俯いて黙り込んだ。
 赤也もこれはただの苛立ちだと自分で分かっていたから・・・。
「過去を気にするなとは言えないが、昨日私が言ったそのままだ。お前は変わった。自分でもそう思うのであれば、態度で示せ。言葉で伝えられないのなら、今のお前をテニスで見てもらえ。」
 まるで慰めるように、尚且つ、相手の嫌な部分に触れないように。
 は赤也に近づくと、自分とほぼ同じ位置にある赤也の頭に手を置いた。
「いつまでもそう気にしている暇があるなら、今は身体を休めろ。そして明日、また練習に励め。選抜メンバーに残るんだろう?」
 最後の言葉を、強調して言うと、赤也は顔を上げた。
 少し意外そうな顔をして、の顔を見た。
「今はそれだけを考えろ。大丈夫、お前は変わったんだから。もう一度、昔のテニスを無意識にするようなら、ちゃんと止めてやるよ。」
 その言い方は、まるで姉のようだった。
 は赤也の頭の上に乗せていた手を下ろした。
「分かったならさっさと部屋に戻れ。もう時間も遅い。ちゃんと休まないと明日に響くぞ。」
 がいつも通りに戻ると、赤也は少し嬉しそうな顔をした。
「はい!じゃ、先輩、おやすみなさい!」
「おやすみ。」
 赤也はに背を向けて歩を進め始めた。
 は赤也の後姿が見えなくなると、小さく溜息をついた。
 赤也の頭に乗せていた方の手の平を見た。

「・・・私は酷い人間かもしれないな・・・。」


     他人に偉そうなことを言っておきながら、私は・・・・・・


 はもう一度溜息をつくと、ゆっくりと元進んでいた方へと足を動かした。
 明日、もう一波乱あることを何となく感じながら・・・