「この先には行かせません」
兼続と合流……というか迷子になってたところを保護された三成の前に、一人の男が立ちふさがる。
「あ、直江様はいいですよ
こちらの目つきの悪いどこの何方様はだめぷーですが」
どうやら上杉関係者のようだが、あからさまにけんか腰だ
「ふん、 こう見えても、あからさまに悪意を向けられるのには慣れているのだ
それくらいで怯むか!」
と平然と受けて立つ三成
「……うわ可愛そうですね……」
「……そんな目で見るな……」



「何とかしろ兼続」
「うむ、三成の持ってきた、このだんごでも喰うか?」
「それで何とかなるか!」
三成をよそに兼続ごそごそと包みを開く
「どうだ?」

二本手に持って2人の目の前に差し出した。

「あのなあ……」
あきれつつ受け取る三成
しかし男は神妙な顔で手に持ってじっと見つめる。

ぱくり と食べて、

「……わかりました……」
と答えた。
「どうぞ、お通りください」





「直江様のお好きな味のだんごですね……」





「何がなんだかわからんな……」
「あいつは結構いいやつなんだぞ」
「まあ……そうだな、お前にはそうだろうな……」
「左近もいいやつだぞ」
とだんごを持ち上げて示す。
「当然だ」



「だんごもまだあるし、助かったな」
と兼続が立ち止まる。
「なんの事だ?」
首をかしげた三成の前に

「この先には行かせ〜ん!!」

と立ちふさがる新たなる刺客



「……幸村に会うだけなのだがな……」
この先どれだけの試練が待ち受けるのか





「なんだか、騒がしいですね」
と幸村は碗を抱えたまま外へと注意を向けた、
体は小さくなったというのに、 普通サイズの器を抱え、なみなみと注がれた濁酒を平然と飲む。
それをまた平然と見ていた景勝はぼそり、と呟いた。
「会いたいか?」
「え?」
「まず、来てもらわねば始まらん」
「あの……?」
と幸村は滅多と表情を変えぬ景勝の顔をじっと見つめた
「なんだか楽しそうですね」
「そうか」
といって立ち上がる、側に無言で控えていた小姓が すっ と庭へと繋がる戸を開けた。
外から聞こえてくる騒ぎが大きくなる。
「皆、寂しがっていたのだ」
立ち上がったまま話し始めた
「あいつが近頃はずっとこちらにいるからな、
だからはしゃいでいるのだろう」
「兼続殿が来ているのですか?」
「…………」

「だがな、やっぱり少し悔しいからな
話に乗ることにしたのだ」
「話?」
その時、庭に一つの気配が生まれた
「あなたは!?」



つづく   もどる









































































「という訳で、幸村はいないぞ」
「なにぃ!? ってまたか!」
ようやくたどり着いたところでの上杉景勝の答え
三成も叫ぼうというもの
「ふむ……やはり諦めていなかったか」
と兼続
「しかしおねね様も、神出鬼没というか……」
「こちらに到着した途端に当人が突然侵入してきたのだ……うちの者も困惑しておったわ」
景勝に協力を頼み、幸村を連れ出した人物は ねね だった。
「あのひとは〜!!」
立ち上がって出て行こうとする三成
そこへ声を掛ける景勝

「ああ、石田殿に伝言だ、
『あたしも頑張って攫っていくから、三成も頑張って迎えにくるんだよ!!』」
と淡々と声まね。

「結構似てますね景勝様!」
「……なんだ、頑張って攫うというのは……」

「『でも単に来るだけじゃ詰まんないから、色々試練を考えとくよ!!その間は幸村と遊んでるから!!』」

「幸村で遊ぶんじゃあないだろうな……」

「『とりあえず清正や正則達のとこ回って見せてこよっと!』」

「試練か」
「……まあいい……」

「『そんでもって助けに来たならお姫様にアイノコクハクだよっ!!!』」

「!!!!!」



「ん?なんで蹲ったまま動かないのだ?」
「はは!三成は『言葉』にしたことはなかったようですから!」
「『言葉』?」

「ひそひそ(幸村への気持ちですよ)」
「ひそひそ(なに!?まさか無自覚なのか!)」
「ぼそぼそ(いや無自覚と言うわけでもないようですが……はっきり明らかにするのは躊躇ってたみたいで……)」
「ぼそぼそ(ははあ……幸村も可愛そうに)」
「こそこそ(で、よりによって母親代わりの人に突きつけられた訳ですから)」
「こそこそ(……周りにはバレバレなのになあ……)」

小声で話す上杉主従をじろり、と睨む三成だが
未だ立ち上がれずにいる為全く迫力がない。



「で、大丈夫なのか?」
「無理……かも知れませんなあ」
「うるさいわ!!」





つづく   もどる









































































すたっ と屋根から身軽に飛び降りる一人の人物
「よ〜し!次はっと」
「おねね様、なんでわざわざ侵入するんです? 大変でしょう」
……むしろ相手が
ねねの腕に抱っこされたままの幸村が忠告。
「正面から訪ねたんじゃあ大事にされちまうからねえ、ちょっと顔を見たいだけだったから、これが良いのさ」
よしよし、と頭をなでて
「それにお忍びだしね」
「意味が違いますよ」
「もう!細かいねえ、三成みたいだよ!」
「細かいですか?」
「細かいの!」

と怒っているように見えて、でもここで唐突に笑い出す。

「あはは、幸村も随分砕けてきたじゃあないか」
「あ……すいません」
「いいよいいよ、その方が。
頭下げられるより、本当は うちの人も ずっと……」
「おねね様」
「判ってるんだけどねえ、恐れられることも必要なんだって。」
「恐れているばかりの方ばかりではありません、それに三成殿もいます……」
「うん、解っているよ。ありがとうね、幸村」
とまた頭をなでる。
「ふふ、城にもいっとこうかねえ……
幸村!そのままうちの子にならないかい?」
「ええっ……冗談はおやめください」
「冗談じゃあないよ」
とねね、笑いを収める。
口元にゆるく笑みの形を残したまま、探るように幸村の顔を見つめる。
「うちの子にならないかい、幸村?」



「……無理ですよ、おねね様」
「幸村」
「私は……武士で、真田です
いえ、ずっと兄上の力となりたかったのです
例え……どんな立場にいたとしても」
ゆっくりと話す幸村、ねねもじっと聞いている。
「『豊臣』が『真田』に従うことになってしまいますよ?」
「そっかあ、それは困るねえ」
無理かあ
「あの……ごめんなさい」
「いいよいいよ……う〜ん、三成も案外大変かもねえ……」
「え?」



「幸村様」



突然に男の声が割って入る。
ひやり、とした冷たさが2人を襲った。



「襲撃です」





つづく   もどる









































































ずるずるずるずる


「やはり、飲んだ後は湯漬けか麺ものが欲しくなるな」
「うまい、いいダシですな」



ずるずるずるずる

いらいらいらいら



「おい!何をやってるんだ兼続!さっさとおねね様を追うぞ!!」
落ち着いて、うどんを啜り始めた上杉主従に三成喚く。
「仕方ないだろう、持ってきただんごも全て食べられてしまったのだぞ」
「お腹が減ったから、と言うのではないだろうな!」
「いや、別に?」
「じゃあ何だ!」
「これから人を訪ねるのだし、かわりになる手土産を用意せねばならんだろう?」
「そんな場合か!!」

いらいらいらいら

「ちょっと落ち着かんか、三成」
「無理だ!!」

ずず〜

「石田殿」
と、箸をおいて上杉景勝
「案外せっかちなのだな
……肝心なところでは遅れを取っておると言うのに……」
「うぐ」
三成が言葉に詰まる。
幸村への諸事情を知られていたこともあってか、微妙に苦手意識を感じているようだ。

「お主も、うどんでも喰わぬか」
「いいえ、結構」
「まあ、前もって用意してなかったので、お主のは具がないうえに実は麺も少ないのだが」
「……いりません」
「せめて特製の七味でも存分にかけてやろう」

ざかざかざかざかざか

「……嫌がらせですか?」
「どうだろうなあ」
と無表情に首をかしげる景勝

……それとも実は酔っているのか

朱い山がのったうどんのどんぶりを眺めて、三成は眉間に皺を刻む。



その時

「はっくひょい!!」



「うわ!?汚いな!」
「兼続!?」
「…………」

うどんを食しつつ派手なくしゃみをした兼続
無言ですっくと立ち上がった。

「……不義だ!!」
と叫んだ。
「は?」
「このくしゃみ……不義が騒いでいるようだ!!」
「はあ?」
「兼続」
「幸村とおねね様の身に何かあったかも知れぬ!!
急ぐぞ、三成!!うどんなぞ食っている場合か!!」
打って変わって三成を急かす
「何をいって……」
「毘沙門天の加護だ!!」
と断言する

そんな己の腹心に景勝はそっと手を差し出した、
「兼続……持って行け」
手には七味の瓶

……かわりの手土産?

「ありがとうございます!景勝様!!」
と受け取って、駆け出す兼続。
「いや!?ちょっと待て!!」
「兼続の友を思う義心に毘沙門天が答えたのだな……」
「七味が辛かっただけでは……」

「石田殿、頼みましたぞ」
と頭を下げる上杉景勝に
「やっぱり酔っているんだな?酔っているのだろう!?」
思わず叫びながらも、三成は後を追った。





つづく  もどる




案外、三成も気に入られたのだと思う。











































































10

佐助の警告、つまりは

「おねね様もどりましょう!」

こちらを囲む相手が尋常ならざる者であるということ



「逃げるしかありません!」
幸村の声に、立ち止まっていたおねねがはっとなる
一つ頷いて、もと来た方へと大きく跳躍する。
「清正の屋敷までもどるよっ!」

今はこの方の身の安全こそが至上
(というのにこの小さい身体では……)
戦えない、という訳ではないが、
(邪魔になる、かな……)

「幸村っ!」
ぎゅ と幸村を抱いている腕に力を込め、ねね
「大丈夫だよ」
と笑いかける

清正もすぐ気付く、
周りで警護していた者達の力は誰より幸村が知っていること

「あたしの『足』もみせてやるよっ」

再び跳躍し屋根の上へ、視界に先ほどまで滞在していた屋敷が目に入る

(そうだ……すぐ、気付く……)
ここで、襲撃?

「おねね様っ!」
幸村の叫びとともに



どおおおぉん



すぐ側で爆発音が響く

「ひょええぇぇぇ〜〜!?」






つづく   もどる