1、発覚


最初見た時は猫かと思った。
大きさもそんなものであったし
連れてきた慶次はたまに猫を拾って帰ることがあったし
その太い腕に、ひょいと後ろ首を掴まれて、ぶらりとゆれて

まあ、真っ赤な鎧を着けた猫もないか

「やあ、しばらく見ない間に小さくなったな幸村!」
「まあ、全くそうなんだがねえ」

明るく告げた兼続に慶次はのんびりと笑った。



「というわけだ三成」
腕にその『幸村』を抱いて兼続は早速三成に見せに行く。
「なっ……か……」
ふるふると震えたまま、言葉にならない三成
なかなか落着かない
その視線の先では、『幸村』が兼続の膝の上に載っていた。
しっかと兼続の腕にしがみ付いている。

「何処に生っていた!?」
「落着け、三成」
羨ましかったらしい




つづく     もどる



















































































「かっわいい〜〜!」
「うわ、おねね様!?」

三成が落着くまもなく、新しい客が飛び込んでくる。
文字通り何処からともなく飛び込んできて、 兼続の腕を覗き込んだのはねねだった。
「あれ、でもこの子幸村???」
軽く首を傾ける。
「兼続が子どもを連れてきたって話だったのに……」
「「は!?」」
目を丸くする三成と兼続
「噂になってたよ?」
「むう、そういえばここに来るまで結構人がいたな……」
あらゆる意味で目立つ外見の兼続
人目を集めるのも常の事なので、気にもしなかったのだが
注目を浴びる、ということは噂の拡大の一因であろう。
「兼続と幸村の子?」
「やめてくださいぃぃ!!!」



この世の終りの様に叫ぶ三成



「そもそも子というよりは小型化したという感じだな」
兼続はあっさり平静に戻って、まじまじと幸村を見る。
「格好もそのままだ」
「そうだねえ」
兼続の膝の上から ひょい とねねが抱き上げる。
「このちっちゃい服、どうなってるんだい?」

ぐい
「「あ」」

「わあ!?やっ、お止めください!おねねさま」

真っ赤になって『幸村』が声をあげた。



つづく     もどる




















































































「話とはなんでしょうか父上?」
「うむ、頼みがあってな」
「頼みなどと……」
幸村の瞳が寂しげな気色さえ見せる。
真田の者にとってその中心である昌幸の言は絶対。
たとえ息子であっても……否、深い尊敬を抱く息子であるからこそ。
口には出さなかったが、幸村のその思いを酌んだのか昌幸は深く頷いて告げた。
「縮め、幸村」
「……は?」

昌幸の言は絶対

「縮め、縮むのだ幸村」
「は、はいっ縮みます」

素直に承諾

「あの〜ですが、ええと……どうやって?」

素直に訊く

「うむ」
昌幸が頷くと幸村のすぐ側に気配が2つ生まれる。

がし

「大丈夫ですよ〜幸村様」
「……ん〜どうやるんじゃったかの〜」

年配の、幸村も幼い頃より知っている父の側近2人

「いたくない(こともあるかもしれない)からね〜」
「……んん〜ひさしぶりじゃからの〜」
「……ええと……」



ずるずるずる



「……これも真田200年の繁栄のためよ」
ゆるせ幸村
くうう と昌幸は背を向けてそっと涙をぬぐった。



つづく     もどる




















































































淡々と始まりの話をする幸村
「その後のことは、何故か思い出せないんですが」
記憶消去?
「何を考えているのだ?お前の父親は」
幸村の話にちょっと青ざめる三成
「ふむ、流石は昌幸殿というべきか?私には考え及ばぬ……」
「感心するな」

「周りの様子がまったく違うので、驚いているうちに、気がつけば慶次殿に連れられていました」
「経緯は前田に聞いた方がよさそうだな」
「そうか?その辺に詳しいやつがいるんじゃないか?」
「む……」
少し嫌そうな顔をする三成だったが
どこからともなく声がする
「……大殿のところでの経緯はわれらも知りませぬし、大殿の考えも分りませぬが、単に偶然前田慶次に遭っただけのようですよ。 あなた方のどちらかに預けるつもりだったようで」
「ふむ?私ならともかく三成に預けるのは危険だろうに」
「平然と失礼なことを言うな!!!」



「まあ、いいじゃないか。そういうことならさ、用が済めば戻してもらえるんじゃないかい?」

「……もどす……」
微妙に青ざめている幸村
失われたはすの記憶に何が!?

「いつまでもこのままじゃあ、お父さんだって困るじゃないか」
でさ!
にっこりと幸村を抱いてねね
「なんだったらうちに来ないかい?おいしいお菓子もあるよっ」
やっぱりコドモ扱いである。
「何をいっているんです、我々のどちらかに預けるはずだったと言っていたでしょう?」
三成が詰め寄り幸村に手を伸ばす。
「俺が預かりますから」
「いいじゃないか、三成も兼続もよく来るんだし、同じことじゃないかい」
「同じじゃありません」

ぐいぐいぐい

「あ、あの……」
2人に挟まれて幸村困り顔



どおぉ



その時大地から円状に光が立ち上った!

三成とねね、なすすべもなく仰け反って、もたもたもたもた……

「私が預かるのが一番のようだな」
「えええ〜!?」
「兼続!!」

2人を尻目に兼続が幸村を抱き上げた



つづく     もどる





















































































当然のように連日兼続の屋敷を訪れる三成、この日は
「受け取れ」
と箱型の包みを差し出した。
「珍しいな」
「左近が世話になっているから持って行け、というのでな」
「さすがに気がきくな」
「中身はだんごだ」
「そうか! しかし、折角だが幸村はいないぞ」
包みを開けながら兼続。
「なにい!?」
「実は景勝様が来られてな、預かってもらった」
あっさり言う。
「なんで急に……いやお前、主君に押し付けるようなまねを……」
「別に押し付けたわけじゃないぞ、
急に来たのは、うわさを聞いたんだそうだ」
「うわさ?」

そういえば最近何か聞いたな





「山城殿〜!!」
「兼続様〜〜!!」
「……久しぶりだな」
「わ!」
「景勝様!?」

幸村と話をしていたところで全く前触れもなくやってきた一行。
走って飛び込んでくる上杉家臣
ゆっくりと歩いてくる上杉景勝

「「かくし子ってどういうこと」だ」ですか!!」






「……一つ訊く、越後から来たんだよな?」
「うむ!我が上杉の情報網は大したものだろう?」





「どこの女なんじゃあ〜!」
「どこの男なんですか〜〜!」
わあわあ叫ぶ家臣らを
兼続へ放っておいて、小さくなった幸村となにやら話を始めた景勝
「いや隠し子では……」
「『愛する上杉の兵たち』と言うのは嘘だったのかあ!!」
「我ら常日頃その言葉を信じていましたのに!!」

わあわあ

「何を言う!! 嘘などではないぞ!!」
叫んで答える兼続
「我が愛するのは上杉のみ!!」
「山城殿!!!」
「兼続様!!!」





「いろいろ突っ込みたいが、とりあえず上杉の兵とは何があっても戦いたくないな……」
「うむ、鉄の結束!天下一だ!」





「しばらくはこっちにいる……」
「はっ!」

片手で兼続にへばりついていた家臣を引き剥がし、ずるずると引き摺りながら兼続の主は来た時と同じようにゆっくりと歩いて去っていった。





「その時、景勝様の腕に幸村がいたような気が……」
「さらわれたんじゃないか!!」
「人聞きの悪い」
と顔をしかめる兼続
「景勝様も幸村を心配しておられたし、幸村も気にかけていたようだ。
久しぶりに話をすることもあるのだろう」
「……しばらくは居ると言っていたな」
立ち上がる三成
「行くぞ兼続!」
「私もか?」
「当たり前だろう!」
「折角だんごを持ってきてもらったし、お茶ぐらい飲んで行かんか?」
「さっさと行くぞ!」

怒鳴りながら駆け足で出て行く。

「……折角だしな」
だんごを包み直して手に持って
「しかし三成は何処へ行ったのかな?」

主と同じようにゆっくりと歩いて後を追った。



つづく     もどる