ゆずりは -8-   






 現在、アメストリスという国を治めている、非常に有能な(?)大総統の許に、3人目の『天使』がやってきたことは、その国で生きる国民達にとっても、慶事であった。

 2人の子を持つ母親とはいえ、未だ若く美しい大総統夫人が、無事第3子を出産したという第一報が大総統府から発表された直後、国中が喜びに湧き返った。
 皆が、我がことのように喜び、あちこちで祝賀のイベントも催されたようだ。
 連日、大量の祝賀メッセージや、祝いの品が、国内外問わず大総統府に届き、その処理に職員が忙殺されていたが、不平を言う者などいなかった。

 それ程に、国民から慕われている、現大総統一家はと言えば。




「………もう、眠った、エディ?」
「ああ……みたいだな」

 ひそひそ声が、真昼の陽射しが差し込む寝室で、密やかに響く。
「…寝顔も可愛いね、アイリーンは」
「だね」

 夫婦の寝室の中央に置かれている、小さなベビーベッドを取り囲んで囁いているのは、この屋敷に住まう家族。
 彼等……4人は、誰もが笑みを浮かべて、ベビーベッドの中ですやすやと眠る、『新しい家族』を見つめていた。

 現大総統夫妻に生まれた、第3子。
 女の子だったその子は、『アイリーン』と名付けられた。



『平和の女神の名前をもらったんだ』
 と、ロイは、その名の所以をエドワード達家族に告げた。
『この子の…これから生きるこの世界が…平和でありますようにと願いを込めて…ね』

 元々ロイは、自分達が生きるこの世界を、平穏なものにするべく大総統の地位を目指していたのだ。
 そんな彼が胸の内にずっと宿していた、深い願いと同じ意味を持つ『名』を、愛しい娘に与えるということに、彼の家族を始め周りの人々が異を唱えるわけがなかった。
 
 この、生まれてきた子には、平和な時をこれからずっと生きていって欲しいから。
 『アイリーン』だけではなく、同じ時を生きる、これからを担う子供達にも穏やかな時の中で、育っていって欲しいから。
 だから、ロイは、新たに生まれた我が子に、その名をつけた。
 改めて、自分に誓うために。
 
 この子達が生きる世界を、悲しみや痛み…憎しみという負の感情に、決して支配させない、と。
 その礎がようやく出来つつある今、改めて誓うために……。


 
「ほんと、前に本で見た、天使みたいね…」
 アンジェリナが小さな妹の顔を見ながら、呟く。その顔には、自然と笑みが浮かんでいた。
「我が家の天使だろ、実際」
 ジェレマイアが話を継ぐ。
「髪も瞳も金色で……天使そのものだよ」
 ジェレマイアが言うように、生まれてきた新たな家族は、鮮やかな金の色をしていた。それは、母親であるエドワードの遺伝子を色濃く受け継いだようで、その事実は、マスタング家に新たな喜びを与えることとなったのだ。
「ほんと。お母さんとそっくりで…」
「ということは、お母さんも天使かな?」
「おいおい、2人とも…」
 子供達の話題が飛躍しそうなのを、エドワードは苦笑を浮かべつつ止めようとする。
 だが。
「エディは、私にとっては天使そのものだよ。勿論、ジェムとアンジェもな」
「………」
「………」
「………」
 実にあっさりと言い切った父親の言葉を聞いていた、その場にいたほかの家族の間に、一瞬の間が生まれ。

「はいはい。お父さんならそう言うと思った」
「オレも以下同文」
「……素で言われる身になってくれ…」
「本当のことを言って、何が悪い」
 諦めたように肩をすくめつつ、呟く娘と息子。
 少しばかり頬を赤くして、照れ隠しのためかややぶっきらぼうに呟く母親。
 そんな家族の態度を、不思議そうに見て、胸を張って更に言い募る父親。

 そして、家族の中心には。
 なおもすやすやと眠り続けている、『平和』を象った天使がいた。





 その、金色の『天使』が。
 容姿は愛らしいままに、兄弟中1番やんちゃになるのは、もう少し年が経てからのことだった。





 ……やっと、ラストです!ここまで長引いてしまって、申し訳ありませんでした!(とにかく、第3子の名前を出したくて、書きました。)
 このシリーズは、これで終わりです。…さて、次はどれを書こうかなぁ…と、今、頭の中で考えています。オンラインでは、ここ暫く新しい話を書いていないので、そろそろ書きたくなりました。少しずつになろうと思いますが、ぼちぼ書いていこうと思いますので、よろしくお願いします。