ゆずりは -7-
天使と言うには。
泣き疲れて、顔を真っ赤にしていて。
その顔もしわくちゃだけど。
それでも、自分達にとっては、『天使』という言葉以外、思いつかなかった。
季節はずれの大雪のために、交通網が麻痺してしまったセントラルで。
予定日より幾分早く陣痛が始まってしまった大総統夫人のために、緊急事態ということで軍用車を使って医師が大総統の公邸に派遣され。
彼等が到着してから4時間後に、暖かい寝室で、元気な産声を上げて、大総統夫妻の第3子が誕生した。
「……おめでとうございます!元気な女の赤ちゃんですよ」
生まれた瞬間に、医師が呟いた言葉を、痛みで朦朧とした意識の中でもエドワードの耳にははっきりと聞こえた。
「……女の…子…」
乱れている呼吸を整えつつ、産湯をつかっている我が子を見つめる。
その傍らには、エドワードの右手を握り締めているロイが、そっと乾いたタオルで、エドワードの額に浮かぶ汗を拭いていた。
「よかった…」
全身を使って泣く我が子の元気な様を見て、エドワードはホッと全身から力を抜いた。
まだ身体の奥には、鈍い痛みが残ってはいるものの、それも緊張が解けて幾分かは楽になった。
「さあ、お母さんは後産がありますから…」
と言いながら看護師が、産湯を使って産着に包まれた赤ん坊を2腕の中に抱いて、連れて来た。
「はい、まずはお母さんから」
看護師の言葉に、エドワードは腕を差し伸べて赤ん坊を受け取り、そっと胸の中に抱く。
「……何だか、アンジェとジェムが生まれた時のことを思い出しちゃったな」
「…そうだな」
愛しげに我が子を見つめている妻の言葉に、ロイもまた頷く。
「あの子達と…やっぱり似てるよな」
「ああ。だけど髪は君と同じだ」
と言いながらロイは、エドワードの腕の中にいる我が子の、まだ頭部にほんの少ししか生えていない、産毛のような髪の毛を示す。
それはどう見ても、鮮やかな金色をしていた。
「この子は、どうやら君に似ているようだね」
最初に生まれた子供達は、二卵性ではあったものの、どちらもロイの遺伝子を色濃く受け継いで、黒い髪に黒い瞳だ。
黒が優性なのだから、当然のことではあるだろうし、アンジェリナとジェレマイアは、自分にとって何ものにも代えがたい大切な存在だ。しかし、そうと分かっていても、やはり愛しい妻と同じ色の髪を受け継いだ子供の誕生は、ロイにとって嬉しいものだった。
「……この子の瞳も、金色かもしれないな」
「…そうかもしれないけど、オレは黒もいいと思うな。だって、ロイと、オレの子供だし」
エドワードの腕の中で、気持ち良さそうに眠っている我が子を見つめながら、2人は他愛ない話をしていた。
だが、まだ産後の処置が残っているので、エドワードは、赤ん坊をロイに預ける。
「オレはまだここから離れられないから…ロイが、この子をあの子達に会わせてくれないか?」
「……ああ、そうするよ」
赤ん坊を腕の中にすっぽりと収めたロイは、そのまま寝室の外へと出た。
ロイが、赤ん坊を抱いたまま、寝室の外の廊下に出てみると。
そこには。
「…お父さんっ、生まれたの?」
「赤ちゃんとお母さんは無事…?」
扉を開いた途端に、その前で待機していたのであろう、子供達が心配そうな顔をして立っていた。
「アンジェ…ジェム、おまえ達、ずっとここに?」
ロイの問いに、2人はしっかりと頷く。
「だって…部屋に戻っても落ち着かないし…ここなら、すぐに分かるから…」
アンジェリナの言葉に、ロイは微笑んで答えた。
「……心配しなくてもいい。お母さんも、赤ん坊も、元気だよ」
子供達の不安を取り除く ように、腕の中の、生まれたばかりの赤ん坊を2人に示す。
「わあ…!ちっさくて…可愛い!」
「ねえ、男の子、女の子、どっち?」
無事に出産が終わったということを知り、2人の子供達は表情を綻ばせて口々に問いながら、赤ん坊の顔を覗き見る。
「…女の子だ。おまえ達の妹、だよ」
「妹……!」
アンジェリナとジェレマイアは満面に笑みを浮かべ、生まれたばかりの自分達の妹の顔を、飽きもせず見つめていた。
「私達も…こんな風に生まれてきたの?」
「ああ、そうだよ、アンジェ。おまえ達が無事に生まれた時も…こんな風に抱いたんだ」
あの時も、誓った。
この世に生まれ出でた、大切な2つの命の重さを腕の中に感じて。
この子達には、無限大の愛情を与えよう。
この子達が、何の憂いもなく育っていける世界を作ろう…と。
そして、今また、同じことを心に誓っていた。
この子を…家族を…そしてひいては、この国の人々の幸せを守るために、自分はここにいるのだと。
「…ねえ、お父さん。この子の名前、決めてるの?」
赤ん坊の安らかな寝顔を見て、顔を綻ばせているジェレマイアが、ロイに尋ねてきた。
「…ああ、決めているよ」
ジェレマイアの声で我に返ったロイは、すぐさま頷いて答える。
「ほんと?じゃあ、教えてよ」
アンジェリナも、聞いてくる。
「だって…早くこの子の名前を呼んで、話しかけてあげたいから」
自分達の大事な妹だもの、とアンジェリナは言う。
名前を呼んで、自分達もまた、あなたが生まれたことをとても喜んでいることを、告げたいのだと。
……ここにいる家族は、あなたを守る存在だと。
話して、安心させたい。
「…そうだな」
ロイも笑って頷き、そっと腕の中の我が子の顔を一度見て、それから目の前に立つ2人の子供達に顔を向けた。
そして……ゆっくりと口を開く。
「この子の名前は………」
長らく更新停滞して申し訳ありませんでした。やっと、続きが書けました〜。生まれた第3子は、女の子、でした。名前は……次回持ち越しです。(すみません…もう、決めてはいるのですが…。)この話は、次で終わりの予定です。…短編なのに、長く引っ張ってしまって申し訳ないです。
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