ゆずりは -2-
「……変だった、よな?」
レストランで、家族揃っての食事を終えて。
自宅に戻った後。
夫婦の寝室で一息ついた時に、エドワードがふと呟いた言葉がそれ、だった。
「変って…?」
コートを脱いで、クローゼットにしまいつつ、ロイは問いかける。
「気づかなかったのかよ?」
「だから、何にだ、エディ?
「アンジェの様子」
「アンジェ…?」
「そう」
エドワードは頷いた。
「レストランに行った当初は、とても楽しそうだったけれど…ここに戻ってくる頃には、何だか少し元気がなかったような気がするんだ…」
「そう言えば…帰ったらすぐに、自分の部屋に引っ込んでしまったな。どことなく浮かない顔をしていたような…」
「だろ?」
「どうしたんだろうな、一体…?ジェムはずっと、ご機嫌だったのにな。『新しい家族が増える!』って、はしゃいでいたぞ」
ロイは、低く唸って考え込む。
目に入れても痛くないくらい、可愛がっている愛娘の様子がおかしいのが、気がかりで仕方ないらしい。
「それだけど……ロイ…」
「うん?」
「アンジェの様子が変わったのは……」
「原因が、エディには分かるのか?」
「う…ん…多分…だけど…」
とても…とても言いづらそうにしているエドワードの様子を、ロイは不審に思う。
(あの場で…アンジェの機嫌を損ねるようなことがあっただろうか?)
そう思い返しても、まるで見当がつかない。第一、今夜あの場所へ行ったのは、慶事を子供達に報告し、祝うためで…。
「……まさか…エディ…」
そこで、ハッとロイは気づく。
「うん……ロイの考えている通りだと思う…」
エドワードは、幾分寂しそうに微笑み、そっと自分の腹部に手を当てて答えた。
「この子のことを言った後から、アンジェの様子がおかしくなったんだ…」
「エディ……」
まだ膨らみもない、エドワードの腹部をそっと見て、ロイは妻の名を呼ぶ。
確かに、彼女の言うとおりだ。
2人の娘・アンジェは、第3子の妊娠を告げた直後から、何となく元気がなくなっていた。
浮かない顔をしていた。
一応、
『おめでとう』
と、ジェムと一緒に祝いの言葉を出してはいたが、ぎこちなく笑っていたようだ。
「…どうして…」
ロイは、ベッドに座り込んで、大きく溜息をついた。
全く、分からない。
愛しい娘が、弟か妹が出来ることで、元気を失くす理由が。
家族が増えて…喜ばしいことだと。
だから喜んでくれると思っていたのに…。
そう、惑乱して考え込んでいる夫の横に座って。
彼の手をそっと握り締めて、に、エドワードは笑いかけた。
「…エディ」
「……お年頃、だからかな?」
「え……?」
「あの子ももうすぐ14歳だからな。微妙なお年頃、なんだよ」
「エディ……それはどういう?」
「あの年にもなれば、学校できちんと性教育は受けているし、オレに錬金術を教わっているから、その点の知識については一通り頭の中に入っている筈だしな…」
「…どういうこと…だ?」
ロイには訳が分からない。
その点、母親であるエドワードの方が理解しているようなのは、やはり同じ女性故、だからだろうか。
「赤ちゃんがどうやって出来るかは、頭の中では理解出来ているんだろうけど、それを実際目の当たりにして、ちょっとショックだったんじゃないかな?」
「ショックを受けた…と言うのか?」
「そう。しかも出来たのは、結構いい年した自分の両親に、だしさ」
「………」
ロイは黙って考え込む。
確かに、ショックかもしれない。
エドワードはともかく、自分はもう40をとうに過ぎている。そんな落ち着いた年齢と言ってもいい父親が未だ新婚夫婦のように妻といちゃついた挙句妊娠させるというのは、あの年齢の女の子にはちょっとどころではなく衝撃的なことかもしれないのだ。
「……あの年頃の恋愛観って、憧れや夢の占める割合の方が大きいだろ?だから余計にショックだったんじゃないかなあ。両親に、生々しい現実を突きつけられてさ」
「あ、憧れって……アンジェは誰かが好きなのか?」
エドワードの言葉に、ロイは慌てる。
「うん?多分まだいないと思うけど?」
「当たり前だ!まだ早すぎるっ!」
「……アンジェと同じ年頃のオレに、迫ってきたのは誰だっけ?」
「…………」
あっさりと、過去の事実を言われてしまっては、ロイは押し黙るしかない。
エドワードの言う通りなのだから。
「……だけどさ」
元気をなくしてしまった夫に、エドワードは微笑んで寄り添う。
「アンジェは賢い子だから、きっと大丈夫。分かってくれるよ」
「エディ……」
「ずっとずっと…好きでいられる気持ちがあるってこと…」
抱き締めあって、互いを求め合う心は、何年たっても色褪せることがないのだと。
「だから…余りクヨクヨ悩むなよ、ロイ。オレも、悩まないようにするからさ」
じゃないと、この子にも悪いし、と、腹部をそっと撫でて、エドワードは笑った。
「ああ…、そうだな…。まだ安定期に入ってないから…気をつけないと…」
その笑顔につられて、ロイも笑みを浮かべ、腹部にあるエドワードの手に、そっと自分の手を重ねた。
ロイ、親馬鹿丸出し…かも。娘に嫌われたくないと思っている父親の哀愁たっぷりなロイは、書いててとても楽しいです。そんな夫をやや呆れたように見ながらも、見捨てることは出来なくて、よしよしと慰めている奥様。この家族で1番強いのは、やっぱりエディでしょうねえ…。
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