『toujours』〜永遠に〜 -9-  

 手に持っていた箱を、落としたことにも気づかなかった。
 それ程に、衝撃を受けていた。

 先刻までの、ロイの口から発せられた、信じられない言葉に。

(…そ…んな…)

 信じられなかった。
 否、信じたくなかった。



 ロイが、目的があって、自分に近づいたということを。
 その目的とは、エドワードの父親である、ホーエンハイムを再び軍部に戻すということ。

 そのために、ロイはここに帰ってきたのだ。
 『見合い』をするという名目を、隠れ蓑にして。

 そして…エドワードに接近してきた。



「エドワード……」
「…全部、その目的のためだったのかよ?」


 気まずい雰囲気の中。
 とにかくこの硬直した状況を打破しようと、ロイがエドワードの名を呼んだ時。
 エドワードは、低く、押し殺したような声で呟いた。
「…オレに近づいたのも、優しくしてくれたのも、全部、親父を再び国家錬金術師にするためかよ!」
 怒りを込めて、ロイを睨みつけながら、エドワードは叫ぶ。
(…怒る姿も、生気に溢れているな…)
 その姿を見つめていたロイは、ふと、そんな関係ないことを考えていた。
 彼女は、どんな時でも、魅力的だ。
 笑っても、泣いても、怒っても。
 その姿に、惹きつけられずにはいられない。
 それは、ロイに限らないことではあるだろうが…。

 だから、つい、後回しにしていた。
 任務を忘れてしまいそうになるくらいに、彼女と過ごす時は楽しかったから。

(……だから…)

 ロイは、ため息をつき、フッと口元を歪めて笑みを作る。
「……今まで、気づかなかったというのか?やっぱり、子供だな」
「………!」
 今まで、見たことがない、冷たい笑み。
 今まで、聞いたことがない、蔑むような響きの声。

 そこに立っている隣人の男は、まるで別人のような態度で、エドワードを冷笑していた。
「…君のような子供に、私が関心があると思っていたのか?」
「それじゃ…やっぱり…」
 エドワードの声が震えている。
 黄金色の瞳を大きく見開いて、ロイの冷たい眼差しを正面から見据えてはいるものの、その小さな身体も、小刻みに震えていた。

「君が、ホーエンハイム氏の娘でなければ、決して近づこうとは思わなかったよ」

 ロイが、冷たい声音で言い切った瞬間。
 パンッと乾いた音が響き。
「……最低っ!あんたなんか、大っ嫌いだ!」
 左頬を赤くしたロイに、瞳に涙を浮かべているエドワードが叫び。
 すぐさま、涙を拭うこともせずに、身を翻し、その場から走り去った。
 
 後には。
 頬が赤くなったまま立ち尽くしているロイと。

 エドワードが落とした箱を拾い上げている、リザが残された。

「……不器用ですね、意外と」
 溜息をついて、リザが箱を差し出す。
「……嫌われるのには、手っ取り早いだろう?」
 自嘲気味に笑い、リザから箱を受け取って、開く。
「…アップルパイ、ですね」
 リザも中を覗き込んで、呟く。
 それは、落とした時の衝撃で、多少崩れていた。

「……まだ、食べられるな」
 崩れた一切れを、ロイは口に入れて、呟いた。



「……うちのシェフより、美味しい」








 ロイ、最低男です。すみません。これやらないと先に進みませんので〜。この時点で8割方は終わりました。後は一気に行きます!