『toujours』〜永遠に〜 -8-
「…よしっ、完成!」
シンプルな白い箱に、赤いリボンで簡単に飾り付けをして、終了。
「出来ばえは…まあまあ、かな?」
と、呟くエドワードは、満足そうに頷いた。
川に落ちて、溺れかかった日から2日後。
すっかり元気になった彼女が、朝早くから起きて始めたことはと言えば。
台所を占領して、お菓子を作ることだった。
料理自体は苦手ではないにしても、普段は余りこういったデザートの類を作ることのなかったエドワードにとっては、悪戦苦闘の対象ではあった。
それでも何とか見栄えのするものが出来上がり、満足そうに呟いた言葉が、先刻のそれだ。
その、白い箱の中に入っているのは、アップルパイ。
亡くなった母の最もと得意とするお菓子で、小さい頃からエドワードは、よく一緒に作っていた。
その時の記憶と、家に残っていたレシピの本を頼りに、何とか作ることが出来た。
「これ…口に合えばいいけど…」
と呟きつつ、家族用にと余分に作ったパイの一切れを、口に入れる。
「うん、美味しい」
満足げに、エドワードは笑った。
「これだったら……ロイも喜んでくれる…かな?」
と、呟くエドワードの顔には、自然笑みが浮かんでいる。
そう。
エドワードは、ロイに渡すために、朝早くから起きて、このアップルパイを作っていたのだ。
それは、先日溺れた時に助けてもらったお礼と、その時に負ってしまった怪我の見舞いで隣家を訪ねる際に、持って行くためだ。
金持ちのマスタング家に相応しいような、高価なものは買えないし、かと言って手ぶらで行くことはもっと失礼だと考えた末に、何か手作りのものを…という結論に至ったのだ。
しかも、菓子だったら食べてもらえるかも…と思い、エドワードは苦心惨憺の末に、作ったのだ。
「…じゃ、早速…」
エプロンを外し、リボンで飾ったその箱を持ち、こっそりと家から出る。
アルフォンスは朝から買い物で町に出ているし、父親のホーエンハイムは、昨晩も遅くまで研究していたために、まだ眠っているだろう。
今がチャンス!とばかりにエドワードは、それでもこっそりとお隣との境界に当たる柵を、箱を落とさないように気をつけながら越えて、マスタング家の庭への侵入に成功した。
「えっと…ロイはどこにいるのかな?」
広い庭の中を、見つからないようにこっそりと歩く。
出来れば、ロイに直接渡したかった。
「屋敷の外にいてくれたらなぁ…」
そうすれば渡しやすいし、礼も言いやすい。
だが、そう簡単に事がうまく運ぶわけがないと思っていたところ。
「…話があると言ったな?」
突然、すぐ傍で聞き覚えのある声が聞こえ、エドワードは驚き、もう少しで声をあげるところだった。
(……ロイ?)
木の陰に隠れつつ、こっそりと、声のした方を見れば。
屋敷から続く芝生の敷き詰めた庭園と、樹木が植えられている境の付近、丁度エドワードがいる木のすぐ傍に、ロイ本人が立っていたのだ。
だが、近くにいると言っても、すぐにエドワードは姿を見せることが出来ずにいた。
そこには、ロイの他にもう1人、人がいたので。
「…屋敷内では、話せないことなのかな、中尉?」
「はい。出来れば、誰にも聞かれたくないことなので…」
ロイの隣に立っていたのは、彼の部下であるリザ・ホークアイ中尉だった。
にこやかに笑って立っていれば、ただそれだけ男性達を虜にするであろう美貌の持ち主なのに、今はその表情が幾分曇っていた。
「…君の言いたいことは、概ね分かっているよ」
それに対し、ロイはと言えば、苦笑を浮かべている。
「君は、こう言いたいのだろう?『任務を遂行せずに、毎日毎日隣家の少女と遊んでいていいのか?』と」
(隣家の…ってオレのことか?)
ロイの言葉に、エドワードはギクリとする。
(でも任務って……。ここに戻ってきたのは確か、お見合いをするためだって聞いていたけど…?)
まさか、その『お見合い』が任務というわけでもないだろう。
エドワードが、そう疑問に思っていると。
すぐさまリザが、その答えを出してくれたのだ。
「……ホーエンハイム氏を再び、国家錬金術師として軍に招聘するという任務は、一向に進展していないと思われますが…?」
(え………?)
リザの言葉を聞いた途端、エドワードの表情が強張ってしまった。
(今…何て…?)
リザの言った、『任務』の内容が信じられなかった。
現に、耳にした今も。
だが、他に誰もいないと思い込んでいるロイとリザの口からは、無情にもエドワードが聞きたくないと思っている言葉が次々と出て来たのだ。
「いきなりホーエンハイム氏をスカウトしても、すぐに断られるのは目に見えているからね。だからまずは、その家族からお近づきになろうと思ったのだよ」
「…将を欲するなら馬を射よ、ですか」
リザはため息をついて、すぐさまロイを軽く睨む。
「…ですが、あのような少女を、任務のために利用すると言うのは…」
「なに、彼女もまた、馬ではなく将なのだよ、中尉」
部下に睨まれても気にする風もなく、あっさりとロイは言い返す。
「…と言いますと?」
「ホーエンハイム氏が駄目でも、彼女がいるからね。どうやら彼女とその弟も、街の噂によれば、錬金術の腕前はなかなかのようだから…」
「だから最初から、あの子に近づいたというのですか?」
リザは、呆れたように呟く。
「あの子は、まだ年端も行かぬ少女なんですよ?それを、軍のために利用するなんて…」
明らかに彼女は、上司のやろうとしていることを非難していた。
だが、その上司はと言えば、部下の非難の眼差しを受け止めて、苦笑を口元に浮かべて答える。
「子供でも、かなり錬金術に精通しているみたいだからな。このまま大人になれば、さぞかし優秀な錬金術師になるだろう。今から先物買いしておいても、損はないと思うがね。それに………」
ロイは顔を綻ばせて、話し続けようとしたのだが。
それは、止めざるをえなかった。
ガサッと何かが地に落ちる音がして。
その音に気づき、した方に顔を向けると。
そこには。
「………エドワード…!」
青ざめた顔をして。
木の陰で立ちすくんでいる、ほっそりとした少女の姿があった。
そして、彼女の足元には。
落ちた衝撃で、少しリボンが緩んでいる、白い箱が転がっていた。
…こんなところで切ってしまって申し訳ありません〜。でも、やっぱり少女マンガといえば紆余曲折が醍醐味かと思うのですが…いかがでしょうか?続きは、余り間を空けずに更新します〜。…しかし、この回だけ読むと、ロイって最低な男ですね、ほんと。