『toujours』〜永遠に〜 -7-
目覚めは、唐突だった。
「…あ…れ……?」
まず、視界に入ってきたのは、見慣れた白い天井。
それだけでエドワードは、自分のいる場所が自室だということに気づいた。
「オレ……確か……」
まだ、幾分ぼんやりとする頭で考えながら、ゆっくりと上体だけを起こす。
「川に落ちて……それで…」
濁流に流されていく中で、意識を失ってしまったらしい。
「…オレ、助かったんだ…」
濡れた服を着せ替えられ、自分のベッドに寝かされているということは、誰かに助けられたことを意味している。
「でも…誰が?アル……?」
エドワードは、自分の右腕を見つめる。
激しい流れの中で、意識を失う直前に感じていた。
エドワードの腕を掴む、誰かの力強い手を。
(あれは……アルだったのかな…?それとも……)
と、エドワードが考えていた時、扉をノックする音が聞こえた。
「……あ、姉さん、目が覚めたんだ」
扉が開き、入ってきたのは、アルフォンスだった。その手には、小さめのトレイを抱えている。
「アル……」
「気分、悪くない?どこか痛いところは?」
アルフォンスはトレイをエドワードの机に置いて、椅子に座りつつ尋ねる。
その問いに、エドワードは首を横に振った。
「そう…よかった。父さんも、水を少し飲んだだけだと言ってたけどね」
ホッと安心したように微笑み、アルフォンスは机上のトレイを姉に差し出した。
「はい。姉さんの大好きなクリームポタージュスープ。シチューだと重いかと思って、スープにしたんだ。これなら、食べられる?」
弟が差し出したトレイの上には、湯気のたっているスープの入った、スープ皿があった。
「姉さん、丸一日寝ていたから、お腹空いたでしょ?」
そう言われて、途端に空腹を感じてしまう。エドワードは、アルフォンスからトレイごと受け取って、ベッドの上でゆっくりとスープを口に運んだ。
「……美味しい…」
「よかった…食欲があるってことは、もう大丈夫だってことだね」
「アル……ごめんな…迷惑かけちゃって…」
スープを食べる姉の姿を見て、嬉しそうに笑っているアルフォンスに、彼女は素直に謝った。偶然の事故とはいえ、迷惑をかけたのには違いない。
「……おまえが、助けてくれたんだよな?ありがとな…」
ぼそぼそと、小さな声で謝ったが、その後の反応がない。
「……アル?」
返事のないことを不思議に思い、弟の顔を見ると。
「姉さん……」
彼は、非常に気まずそうな顔をして、エドワードを見ていた。
「…どうした?」
「……姉さんを川から助け出してくれたのは、お隣のマスタングさんなんだ…」
「………ロイ…が?」
暫しの間があって。
エドワードがぽつりと呟く。
スプーンを持つ手は、止まったままで。
「うん…。うちの前まで、気を失った姉さんを運んでくれて…。その後は、父さんがいる手前、家までは入ってこなくて、そのまま帰っちゃったけど…」
父親同士の仲が非常に悪いことを、ロイも心得ていたようで、家の前でエドワードをアルフォンスに預けて、自分はそのまま隣の自宅へと帰っていったのだ。
「腕に怪我していたから、手当てしようと言っても固辞して…」
「怪我…しちゃったのか?オレを助けて?」
アルフォンスはそれに対し、黙って頷いた。
「ロイが……どうしてオレを…?」
「さあ……それは……」
分からない、とアルフォンスは答える。
本当は、分かっていたけど。
ロイの気持ちなんて、とっくの昔にお見通しだ。
だから、極力姉に近づいて欲しくない、と思っていた。とかく、彼に関しては、華やかな噂が飛び交っているだけに。
だが、今回の事を……エドワードを助けたのがロイだということを、彼女に隠しておくことはしたくなかった。
ロイは、自分から功をひけらかすタイプには見えない。
きっとアルフォンスが言わなければ、エドワードが、自分を助け出してくれたのが、実はロイだということに気づくことはないだろう。
だけど、アルフォンスは、姉にありのままの事実を告げた。
それを隠すのは、助けてくれたロイに対してフェアではないと思ったからだ。
例え、敵に塩を送るようなことになったとしても……。
「だから…姉さん、マスタングさんには、一応お礼を言っておいた方がいいと思うよ」
本当は、姉を余り彼に近づけさせたくない。
それが、本音だ。
だが、お隣同士という近い間柄で、これ以上礼を失するような真似もしたくなかった。
「…姉さんが嫌だったら、ボクが…」
「いや、オレが言いに行くよ」
アルフォンスの声を遮って、エドワードが静かな声できっぱりと言う。
「オレが、助けてもらったんだから…さ」
と言って弟に微笑み、再びスープを口に運び始めたエドワードは。
目覚めたときよりも少し、嬉しそうに見えた。
久しぶりの更新です〜。長い間ほったらかしにしてすみませんでした。…もう暫く、壊れないでほしいです、PC…。 これからは、まめに更新したいです…。(希望)