『toujours』〜永遠に〜 -6-  

 その姿を見た時は。
 最初は、驚いた。
 そしてすぐに。
 何故だか分からないけれど、急に胸の辺りで。
 ムカムカと気分が悪くなった。

 買い物をしていた街中の。
 こじんまりとした、カフェの前。
 ロイが。
 可愛らしい雰囲気の女性と、楽しそうに話をしている姿を見た時に。

 その後は、早足になって家路を急いだ。
 どうしてか、あんな光景を見ていたくなくて。
 その楽しそうな姿を思い返すだけで。
 ムカムカがイライラへと変わってしまうから。
 一刻でも早く、立ち去りたかった。

 なのに……

「おや、エドワードじゃないか?」

 背後から呼びかけてくる、低く落ち着いた声。
 いつもなら、ずっと聞いていても飽きない、いい声だなと思うのが。
 今だけは、聞きたくない声だった。

 それからは、隣を歩きつついろいろ尋ねられたけど。
 どう答えればいいかなんて考える余裕すらなくて。
 その間にも、イライラは募るばかりで。
 ついぶっきらぼうに答えてしまい。

「……お姫様は何だか、今日はご機嫌斜めみたいだね?」

 いつもはとても、胸の中が暖かくなる優しい笑顔も。
 今だけは、見たくなかった。
 同じような笑顔を、他の女性にも向けるのだと思うと。
 ムカムカが、最高潮に達してしまって。
 
「…ロイには関係ないだろ!いい加減付いて来るな!」

 振り返りざま叫んだ反動で、何かで滑るをような感覚があったのも束の間。
 次の瞬間、エドワードは、冷たい水の中に落ちてしまっていた。

(……しまった…!)

 雨が降ったせいで水量も多くなっている上に、流れも速い。
 それに、心の準備もなく突然川に落ちてしまったのだ。
 泳げないエドワードは、それだけでパニック寸前だった。
 懸命に水の中でもがくが、ただ流されてしまうだけだった。
(…苦しい…!)
 無我夢中で開いた口からは、どんどん水が入ってきて息が出来ない。
(誰か……助けて……っ)
 濁流に流されるエドワードは、それでも懸命に水の中で腕を伸ばそうとする。
 何か……掴まるものがあれば…と思いながら。

 そして。
 霞む視界の先で。
 誰かの手が。
 力強い手が、エドワードの腕をしっかりと捕らえたのを感じた直後。

(誰……?)
 エドワードは、意識を失ってしまった。




 濁流に流されていく少女の姿を、決して見失うことなく。
 ロイは懸命に泳ぎ、ようやく彼女の細い腕を掴んで川面へと引き上げることが出来た。
「……マスタングさん!」
 呼びかける声に反応して、声のした方を向けば。
 すぐさま自分の目の前に、ロープが投げ落とされてくる。
 そのロープは、川沿いに植えられていた大木の幹にくくりつけられていて、そこには心配げな顔をしたアルフォンスが立っていた。
「ありがたい…」
 ロイはそのロープを咄嗟に右手で掴み、左腕には気を失ったエドワードを抱えなおす。
「今から引っ張りますから…!もう少し頑張ってくださいね!」
 ロープを掴んだのを確認すると、アルフォンスはゆっくりとロープを引っ張り始めた。すると、それに倣って川辺にこの騒ぎを聞きつけて集まっていた人々も、慌ててロープを持って手伝い始めて、程なくロイとエドワードは、川岸に引っ張り上げられたのだった。

「…………姉さんっ!」
「…大丈夫、気を失ってるだけだから。水もそんなに飲んでいないみたいだし」
 ロイの腕の中でぐったりと力を失くしているエドワードの様子を窺いながら、ロイはアルフォンスを安心させるように呟いた。
「あ……良かった……。ありがとうございます、マスタングさん!」
 女たらしのいけすかない男だが、今は…今だけは、感謝した。
 危険を顧みずに、濁流へと飛び込んで、大事な姉を助け出してくれたのだから。
「…いや、君こそ、ロープを投げてくれたお陰で助かったよ」
「…咄嗟に錬金術で、ジャケットをロープに練成したのですけど、役に立って良かったです…!」
 と言ざま、ふと、エドワードを支えている彼の腕を見て。
「…マスタングさん、怪我をしているじゃないですか!」
 と、小さく叫ぶ。
「あ……流れてきたもので切ったのかな?大したことはないさ」
 そう呟き、苦笑を浮かべるロイの左袖はぱっくりと切り裂かれていて、赤い線が滲み出ていた。
「とにかく今は、彼女を医者に診せないと。大丈夫だとは思うが…一応は」
「あ……、じゃあ、うちに運びます。父さん、医学も心得ているから…」
「そうか」
 ロイは頷き、意識を失ったままのエドワードを抱き上げて歩き始める。
「マスタングさん、ボクが姉さんを運びますよ!怪我してるんですから…」
「これくらいの傷で、エドワードを落とすなんて事は絶対にしないから、安心したまえ。それに……」
 そこで言葉を切り、そっと腕の中にいるエドワードの顔を見つめる。
「それに…私が連れて行きたいんだ…」
 そう呟いて、目を閉じたままのエドワードを見つめる眼差しは……とても優しそうで。
 とても愛しそうで。
 
(この人は………)

 アルフォンスは、それ以上言い募ることも出来ず、ただロイの少し後ろをついて歩くだけだった。






2週間振りの更新です〜。書き始めるのに少しリハビリを要しました。このところ、他の話ばかり書いていたので…。
さあ、2人の仲はどうなるのでしょうか?てなところで切ってしまってごめんなさい。これからはさぼらずに更新したいです…。(希望)