To darling you… -12-

(ここは…どこたろう…。)



 エドワードは、見知らぬ『場所』に立っていた。
 全く覚えのない場所だ。
 それは、無理もないかもしれない。
 だって、自分の周りは、薄い靄に包まれていて、ここがどこだか見当もつかないのだから。

 ただ、何となく、自分の置かれた状況くらいは、分かった。


(……ここは…夢の中…?)

 以前も、同じような感じで立っていた。
 ふわふわとした…つかみどころのない感触の地面を歩いていたのと、全く同じだ。
 ただ、前回と明らかに異なっているのは、自分を取り巻く周囲の雰囲気だ。
 前の時は、真っ暗な空間を、あてもなく歩き続けていた。
 不安を感じながら。
 その場所には、得体の知れない、《憎悪》と《恐怖》があったから。
 だが、今は違う。
 乳白色の靄が、自分の居場所を曖昧にはしているものの、それに対する不安は感じられなかった。
 むしろ、自分を暖かく…優しく包み込んでくれているようで…落ち着けた。
 その、暖かさは……エドワードにも覚えがある。

(…そう、まるで、母さんの傍にいる時のような…)

 幼い頃、トリシャの膝の上で眠った時と同じ安堵感に、この今いる場所は包まれていた。
(だけど…それは誰の……?)
 トリシャとは違う、暖かさ。
 愛しさに満ちた空間。
 だがそれは、自分の母親のものではなかった。
 誰のものかが分からないので、動くべきかどうか逡巡している時だった。
 ふわり…とその場の空気が動いたのは。
(誰か……来る)
 暖かい風で靄がそよぎ、甘い花の香りがエドワードの鼻腔をくすぐった。
 靄が時折揺らめいて、周りに満ちた淡い光によって影のようなものを映し出し…その影は次第に人の形を作り出した。
(誰………?)
 ほんの少し警戒し、エドワードは身構えると。
 靄の隙間から、人が突然現れたのだ。


(――――あなたは……!)

 エドワードは瞳を見開く。
 姿を見せたのは、美しい女性。
 しかも、見覚えのある女性だった。
 緩やかに巻かれた長い黒髪。
 切れ長の、黒瞳。
 そして、透き通るような白い肌。
 明らかに、エドワードは以前彼女と会っていた。
(あなたは…あの時助けてくれた…)

 熱にうなされて、意識を失っていた時に、彷徨っていた暗闇の中で。
 目の前の女性は、更に闇の奥深くに進もうとしていたエドワードを止めて、戻してくれたのだ。
 自分の、本来いるべき場所へと。
 そして、その女性の容姿をロイに話すと、どうやら彼女は、亡くなったロイの母、すなわち前皇帝の妹ではないかということが分かった。
 ロイの母である彼女が、エドワードを救い出してくれたのだ。

(だが今回は……)

 以前とは、多少状況が違うようなので、エドワードは目の前に立っている女性をじっと見つめていた。
 どっちにしろ、この場で自分は何も出来ないだろうということは分かっていたから。
 すると彼女は。
 フッと微笑んだ。
 美しい顔に、優しい笑みを浮かべて、エドワードをじっと見つめている。
 そんな彼女の眼差しを、エドワードは逸らすことなく受け止めていた。

(……あなたは、本当に、あの子のことを想ってくれているのね)
 彼女を凝視しているエドワードの脳裏に、直接声が響いてくる。
 その声の主は、目の前の女性からだった。
 彼女は、微笑を作ったまま、エドワードを見つめていた。
(……ありがとう、あの子を想ってくれて。あなたがいなければ、あの子は一生……自分の幸せを考えることはなかったでしょう…)
(そんな……オレは…オレの方がロイに感謝したいくらいだ…)
 エドワードは、心の中で囁いた。それだけで、彼女には伝わるような気がしたから。
(オレのこと……呪いのことも承知で受け入れてくれて…幸せになろうって言ってくれて…。二人で生きていこうって…)
 そう言ってくれたから、今の自分があるのだ。
 大好きな人の傍らで生きようと決心した、自分が。

(―――ありがとう)
 エドワードの心から伝わる、ロイへの想いを黙って聞いていた彼女は、一層嬉しそうに笑い、もう一度礼を言う。
(あなたには…安心してあの子を任せることが出来るわ…。だから、一つお願いがあるの)
(願い……?)
 戸惑い気味に繰り返すと、その女性は深く頷いた。
(ええ。あの子は…ロイは今、離宮の敷地内にある、『守護者』を祀ってある祠に向かっているわ)
(『守護者』の祠に…?)
(ええ。『守護者』の正体を暴き、『守護者』自身を壊すために)
(え――――!)
 エドワードは彼女の言葉を聞いて、驚きに顔を強張らせてしまった。
(『守護者』は…マスタング皇国を守護しているものではないのですか?それに対峙すると…?)
(ええ…。『守護者』の正体が神様ではなく、人であったと言う確証が見つかったから……)
 彼女は、かいつまんでエドワードに『守護者』の正体について述べた。
 それは、ロイ達が辿り着いた結論そのものだった。
(……そんな…『守護者』が縛り付けられた人だったなんて…)
 衝撃の事実を教えられ、エドワードは茫然とした。
 しかも、その『人』は、エルリック王国と深い関わりがあったようなのだ。それが原因で、代々エルリック王家が呪われているのかもしれないということも、彼にとっては激しく衝撃を受ける内容だった。
(…私も……分からなかった。あの『守護者』の正体が。あの祠には、私は入れなかったから…護りが余りに強くて…)
 分かったのは、ロイ達の話を聞けたからなのだと、彼女は漏らした。
(―――それで…『守護者』の正体が分かって…ロイ達はその祠に……)
 自分が意識を失っている間に、分かってしまった真実。
 その真実を自分の目で確認せずに、手をこまねいているような人ではない。
 ロイ・マスタングは。
(ええ。向かったわ。真実を暴くために。代々の皇帝が大事に祀ってきたものの正体を知るために…)
(でも…危険だ…!)
 エドワードは叫ぶ。
(何百年も呪える…強い意思の持ち主なんだ!そんな相手に立ち向かおうとしたら…!)
 長年守護してきた皇帝といえども、己に害を及ぼすとなれば、敵とみなして攻撃してくるだろう。どれ程の力を持っているか想像がつかないだけに、危険度は高い。
(そう……。今の彼には、勝機はないわ。『守護者』のことを知らなさ過ぎるから…)
(だったら…どうすれば…!)
 エドワードが叫ぶと、彼女はその手をぎゅっと握り締めてきた。
(だから、あなたにお願いしたいの)
 真摯な眼差しで、エドワードを見つめてくる。その視線を、エドワードはじっと受け止めた。
(…あなた達を見ていて…思い出したことがあるの。ひょっとしたらこれが、『守護者』の弱点かもしれない…)
(……それを、ロイに知らせに行けばいいんだな?)
 彼女の言わんとすることが、エドワードにも分かった。
(お願い…!あの子を護って…!私にはもう、それは出来ないから!)
 それは、母親としての願いだった。
 大切な…大切な我が子への。
(……教えてくれないか、その『弱点』。オレが必ず、ロイに伝えるから…)
 エドワードにとっても、大切な人。
 エドワードのために、『守護者』と相対そうとしている人だから。
 だから、彼を護りたい。
 彼を、失いたくないから――――



(教えて欲しい、オレに…)


 決意を込めて呟いたエドワードに、美しいその人は、深く頷いて話し始めた。
 二人にとって、大切な人を救う術を。
 我が子が初めて愛しいと思えるようになった、目の前の少年に。
 余す所なく、伝えた。





 覚醒は、唐突だった。
「――――っ…」
 ゆるゆると瞼を開ければ、目の前には見慣れた部屋の天井が映し出される。
「……エド…目が覚めたの?どこか苦しいところはない?」
 目覚めたことに、ベッドの横にいたウィンリィが気づいて声をかけた。
「…痛みは……なくなったみたいだ…」
 意識を失ってしまうほどの激痛は、綺麗になくなっていた。だが、微熱は続いているのか、全身が妙に熱っぽく、だるい感じは続いている。
「そう……」
 取りあえず痛みだけでもなくなったことで、ウィンリィはホッとしたようだ。
「…ごめんな…いつも心配ばかりかけちまって…」
「そんなことで気を病むことなんてないわよ!エドが悪いわけじゃないんだし」
「うん……でも、謝っておかないと…」
「―――どういうこと?」
 疑問符を顔に浮かべているウィンリィに向かってエドは微笑み、ゆっくりと上体を起こしたのだ。
「エド!まだ起きちゃだめよ!」
「ごめん……でもオレ、行かなきゃならないんだ…」
 慌てて止めようとするが、エドワードはそれを拒んだ。
「行かなきゃって……そんな身体でどこへ?」
「あの人と…約束したから…。どうしても行かなきゃ……」
 と呟きつつ、エドワードは寝台の傍にあるサイドテーブルに手を伸ばす。そして、そこに置かれてあった『もの』を見つけて手に取った。
「…やっぱり、ここに置いてあった…」
 だから『彼女』は、いつも完璧に呪えなかったのだ。
 これが、常にエドワードを護ってくれていたので。
「その短剣って……確か陛下がエドに託した…」
「そう。ロイのお母さんの形見の剣だよ…」
 ロイが自在に焔を操るための、同じ錬成陣を彫ってある女性用の護身の短剣。それは今、ロイの妃となるエドワードの許にあった。
「―――これが……オレをずっと、護ってくれていたんだ…」
 エドワードは、そう言いながら短剣をそっと撫でる。
「どういうこと、それ?」
 何のことかさっぱり分からずに、ウィンリィが問う横に、それまで少し離れた場所にいたイズミが、歩み寄ってきた。
「エド、その剣を私にも見せてくれないか?」
「えっ……はい、どうぞ…」
 エドワードがイズミにその剣を渡すと、彼女は熱心にそれを見る。
 特に、彫られてある錬成陣は殊更に。
「この……錬成陣……やっぱりねえ…」
「やっぱり……って?何かご存知なんですか、師匠?」
 イズミの呟きに、敏感に反応したウィンリィが問いかける。
「いや…これで、私の頭の中でバラバラになっていたピースが、全て一つに纏まったんだよ。…取りあえず、一方だけのピースだけ、だがね」
「一方の……って?」
 ますます訳が分からなくなってしまっているウィンリィに、エドワードが助け舟を出してくれた。
「――――一方とは、親父の兄である、アーヴァイン伯父のことですよね、師匠?」
「えっ……あの、若くして亡くなられた…エルリック王国の……?」
「ああ、そうだよ」
 二人に向かってイズミは深く頷いた。
「アルが…偶然書庫で見つけたこの錬金術の本に……」
 イズミは手に持っていた、古びた書物を差し出してきた。それは、先刻彼女が示したアルフレッド・エルリックの日記よりは随分新しいものと見てとれるものだった。
 イズミはその本をパラパラと捲って、あるページを開いた。
「この本の中に……興味深い錬成陣が描かれてあってね」
 開かれたページをエドワードとウィンリィが覗き込めば、そこには。
「―――これって…」
「ああ、ウィンリィ…」
 二人して、見覚えのあり過ぎる錬成陣が、そこに載っていた。
 『焔』を象った錬成陣。
 それは今、イズミの手の中にある短剣に彫られたものと、合致していたのだ。
「この錬金術書って…誰の作なんですか?」
 ウィンリィが尋ねる。表紙を見ても、著者の名前が記載されていなかったからだ。
「……アーヴァイン伯父上、でしょう?」
 一方エドワードは、確信を込めて呟く。
「……そうだよ。この本の中に、これが挟まっていたからねぇ」
 すっと彼女が差し出した写真を見て、ウィンリィの表情が強張った。
「この写真…男性の方が、アーヴァイン殿ですよね?国王陛下とよく似ているから…。それにこちらの女性は……!」
 ウィンリィはそこまで呟いて、息を飲む。
 その写真の中で微笑む一組の男女の、男性ばかりでなく女性の方にも、彼女は嫌というほど見覚えがあったのだ。
「……まさか…まさか、この国の皇帝陛下は……!」
「ウィンリィの考えていることが、真実だと思うよ」
 静かな声で、エドワードが結論を下す。
「ロイは……オレの伯父に当たるアーヴァイン殿と、マスタング皇国前皇帝の妹姫との間に生まれた子供なんだ…」
「―――――」
 ウィンリィは声もなく、色あせた写真を見つめていた。
 聞いてすぐは、信じられなかった。
 ロイが、エドワードとは父方で従兄弟の関係になるなんて。
 これまで、全くと言っていいほど、二国間の王族同士の交流がなかっただけに、この真実は衝撃的だった。
 だが一方で、納得せざるをえないだろうと思っている自分もいることに、気づいていた。
 ロイの母親は、彼の父親がどこの誰かについて、死ぬまで打ち明けることはなかったというのだ。その理由も、真実が分かった今は推測出来る。
 マスタング皇国ではなく、他国の……しかもそこの王族の血を引く子供など、他の親族達から見れば疎ましい厄介者でしかないだろう。下手をすると、外交の手段として使われてしまうかもしれないのだ。そうなるよりは、父親が誰だか分からないよう伏せておいた方がいいと、彼女は思ったのだ。
 愛しい我が子を、守るために。
 ただ、そのためだけに。
「……この『焔』の錬成陣は、アーヴァイン殿が考えられたのですね…」
 元々、マスタング皇国では、然程錬金術の研究については熱心ではなかった。それなのに、ロイの駆使するそれは、本当に見事なものだった。どうやってその技術を会得したのかと、ウィンリィは感心していたのだが、今となってはその理由も分かる。
 ロイの使っている錬成陣。
 それは、父であるアーヴァインから母へ、そして母からロイへと委ねられていったのだ。
 大切な人々が、自身を護れるようにという願いを込めて……。
「しかし、エド」
 暫し、短剣の錬成陣を見つめていたイズミが、それをエドワードに返しつつ尋ねる。
「何でしょうか、師匠?」
「…どうしておまえは、アーヴァイン殿のことを知っているんだい?私はこの国に来て、まだ誰にもそのことについては話してなかったんだけどねぇ」
「ああ、それは……」
 エドワードは短剣を握り締めて、笑った。
「意識を失っている間に……教えてもらいました」
「教えてもらった…?」
「はい。『守護者』の正体や、ロイ達が今、その祠のある場所へと赴いていること。そして…『守護者』の存在を壊すために、向かっているのだということを」
「誰に…誰に教わったんだい?」
「ロイのお母さんです」
「そんなこと……」
 ありえない、とウィンリィは言おうとしたのだが、途中でその言葉を飲み込んでしまった。
 医師としての観点からすれば、非現実的なことなど信じられないのだが、今自分の目の前で実際に起こっていることはといえば、おおよそ現実的でないことばかりだ。それら全てを、現実的でないからと言って信じられないと結論付けることは不可能だと、思い至ったのだ。
「……意識を失っていた時に…彼女と会いました…。その時に、何もかも…」
「そうか……。それで、おまえは追いかけるんだね?」
 誰を、は問うまでもないだろう。
 エドワードが自分の身を省みず、後を追うという行動に出るのは、今、この国ではたった一人しかいない。
「はい。彼女に、頼まれましたから。これで……」
 返された短剣を手の中に握り締めつつ、続ける。
「これで…ロイを護って欲しいって……」
 この剣で、ロイを護ってほしいと、彼女はエドワードに頼んだ。
 あの、真っ白な靄の世界で。
 母親として。
 そして、ロイの父親であるアーヴァインの願いも込められて作られた短剣を、ロイの許へと持って行ってくれるよう頼んだのだ。
 そんな、彼女の真摯な願いを、エドワードは断ることはしなかった。
 彼女の『護ってほしい』という痛いほどの願いは、自分もよく分かるから。
 自分もまた、どんな目に遭っても、ロイを助けたいと思うから。
「だから……行きます。離宮に」
「でも…危険よ!」
 ウィンリィが叫ぶ。
「危険は承知の上だよ。ウィンリィ」
 エドワードは、静かな、けれども揺るぎない決意を込めて、答える。
「だけど、行かなきゃ。ロイにだけ…危険な目には遭わせられないよ」
 自分は近い将来、ロイの隣に立って、ロイと共にこの国を統べて行くのだから。
「オレだけ、安全な場所で見守るなんてこと、したくない」
「エド……」
「だから、行くんだ」
 そう言いながらエドワードは、ゆっくりと寝台から床へと足を下ろして、立とうとした。
 だが、足がついた途端に軽い眩暈がして、倒れようとしたのを、咄嗟に支えてくれたのはイズミだった。
「……師匠……」
「その身体では、一人で離宮に行くのは難しいだろう。私も一緒に行ってやるよ」
「師匠……でも…」
「ここまで来たら乗りかかった船だ。最後まで見届ける義務があると思うからね、私には」
 元々、エルリック王国の使者として赴いてきたのだ。故に、事の顛末を帰国後に国王夫妻に報告しなければならない。それに、今回の一連の件に深く関与しているのは、我が子のように大事なエドワードなのだ。我関せずで傍観など出来る筈がなかった。
「……すみません…師匠…」
 幾分青い顔をしながらも、エドワードは笑顔をイズミに向けた。
「おまえが、謝らなくてもいい。それに、すまないと思っているのなら、早く元気になることだな。このゴタゴタを片付けて…」
「そう、ですね…」
 頷き、右腕をイズミにしっかりと支えられながら、部屋から出ようとするエドワードの前に、ふわりとした柔らかいコートが差し出される。
「え……?」
 一瞬驚くエドワードの左腕が取られ、そちらを見ると。
「ウィンリィ…!」
「仮にも、皇妃ともなろうお方が、そんな寝間着姿で外に出たらまずいでしょ。取りあえず着替えて、髪も少し整えて出かけた方がいいわよ。後、外は冷えるかもしれないから、このコートも忘れずにね。そしてもう一つ。
……私も一緒に行くからね!」
「そんな…危険だからウィンリィはここに残って…」
「一人で、不安抱えて待ってろって言うの?そんな嫌な思いするくらいなら、一緒に危険な場所に行った方がましだわ!」
「ウィンリィ…おまえなぁ…」
 きっぱり言い切るウィンリィを、エドワードは呆れたように見つめる。
「―――ま、ウィンリィの言い分はよく分かるがね」
 イズミがクスクス笑いながら漏らす。
「諦めるんだな、エド。おまえの周りにいる奴等は、単なる傍観者になるつもりはないらしいからね。…それに、医者である彼女がすぐ傍にいてくれると、何かと心強いだろ?」
「それは……まあ……」
「そうよ!怪我したらすぐ治療することも出来るし。怪我しないことにこしたことはないけど、いれば安心できるわよ、多少は」
「確かに……ね」
 いわば保険のようなものかと心の中で呟きながら、エドワードは溜息をつく。その間にも、ウィンリィがてきぱきとエドワードの着替えを済ませていく様子をぼんやりと眺めながら、ふと思った。
(やっぱ、女って強いなあ…)
 と。
 自分の周囲にいる人限定なのかは分からないが、女性の強さをまたしても垣間見てしまったエドワードだった。そんなことを声に出して言おうものならば、たちまち反撃を食らいそうなのでやめておいたが。
「…じゃあ、怪我した時は頼むということで…急いで離宮に向かおう」
 まだ身体に熱っぽさが残るものの、着替えも済んだので、エドワードはゆっくりと歩き出した。
 自分達の運命に、常に暗い陰を落としていたとされる、『守護者』の許へと向かうために。