Schlussatz side story -9- calmanndo7
「……やっぱり、閣下が原因なのね」
リザは、大きく溜息をついて呟いた。
「違うよ、少佐…!ロイのせいじゃない。悪いのは……!」
悪いのは…ロイの傍にいる『自分』。
軍の狗である『国家錬金術師』で、1度死んで、再び『甦った者』。
どちらも、これからこの国を率いていく若き大総統の傍らにいるには、相応しくない。
いれば、ロイのイメージダウンに繋がってしまいかねない、『爆弾』。
彼女の言うことは、正しい。
だから、ショックだった。
ずっと、分かってはいたのだけれど、なるべく考えないようにしていた。
ロイも…彼の周りにいるリザ達も、そのことには一言も触れなかったから。
だからつい…いい気になっていたのかもしれない。
そんな折に彼女に指摘されて……その言葉1つ1つが的を得ていたので…衝撃が大きかった。
自分は、ロイの傍にいるのは、相応しくない、ということを。
そして、今、ロイの隣に立つに相応しい、花嫁候補が数多く名乗りを挙げていることも、エドワードにはショックだった。
その事実を、自分だけ知らされていなかったことが、更に拍車をかけた。
ロイのことを、ある程度は知っていると自負していただけに、その事実からは蚊帳の外に置かれていたのだということが、エドワードを一層不安にさせてしまったのだ。
自分には、言う価値もない。
そんな風に思えて。
それ故に、レストランから帰る時も。
そして、屋敷に帰りついた時も、エドワードの思考は停止していた。
ロイが心配そうに話しかけてくる声も耳に入らなくて、早々に自室へと篭ってしまい…眠ろうとした。
とても疲れていたから。
けれども、目を閉じても思い浮かぶのはロイの姿で……。
彼の傍らには、綺麗な女性が佇んでいた。
それは、先刻の女性であったり、以前ちら…と見たことのある、将軍の令嬢であったり…。
それが、ロイにとって相応しい姿なのだと思っても。
胸の内を刺すような痛みは、決して消えるとはなく―――とうとう昨夜は一睡も出来なかった。
ようやくウトウト出来たのは明け方のことで、ロイが出て行くのにも気づかず、やっとついさっき目が覚めたのだ。
だが起きてもなお、不安な思いはエドワードの心の中に燻り続けていて、ベッドから起き上がれずにいた彼女の許へとやってきたのが、リザだった。
そして……姉のように慕っている彼女に、ようやく自分の思いを告げることが出来たのだ。
自分は、ロイの傍にいるのは相応しくない、と。
だが、リザは。
「…あなたのせいじゃないわ、エドワード君。悪いのは、閣下。それに私達も」
と、きっぱりと、否定した。
「少佐…達も?」
「ええ、そうよ。私達も閣下も、出来ることならあなたには知らずにいて欲しいと思ったから、言えなかったの。知れば…あなたが嫌な思いをすると考えてね…。知らずにいられればそのままで…と思ったのだけれど、結果としてそれがあだとなってしまった」
「それって……あの人が言ってた…」
「そう。閣下の婚約者候補のことよ。確かに、閣下が大総統に就任して以来、結婚話は山のように途絶えることなく来たわ。でも、どれにも閣下は応じなかった。その理由は、分かるわよね?」
「…うん……でも……」
エドワードは不安そうに頷く。
「分かっているのなら、それで十分よ。それ以上のことは、考えなくてもいいわ」
「…少佐……」
「私達が黙っていたのは、あなたが最も相応しいと思ったから。…いいえ、あなたしかいないと思っていたからよ」
リザはそっと手を伸ばして、涙の跡の残るエドワードの滑らかな頬を撫でながら微笑んだ。
「…閣下の、地位や外見しか見ていない女達なんて、隣に立つ資格すらないわ。立つことか出来るのは…本当に閣下を理解している人だけ。……あなただけよ、エドワード君」
そう言ったリザは、エドワードの瞳を真っ直ぐ見つめた。
「あの人の苦しみや悲しみ、葛藤を知っている人でなければ、隣で支えることなんて出来ないわ」
リザはきっぱりと言い切る。
「でも…それだったら少佐も…」
むしろ付き合いはエドワードよりも遥かに長い。なのに彼女はロイの隣に立つことを考えたことはないのだろうか。
「私は、下からあの人を支えることが出来るだけよ。それで十分」
しかしそんなエドワードの疑問に、はっきりとリザは答えた。
「隣に立つことが出来るのは、同じ国家錬金術師として…『軍の狗』として生きることを選び、その結果…苦しみ、悩み、それでも目指すものを手にすることが出来た、あなただけ」
リザは、そう断言する。
「そう思っていたから、敢えてあなたに言う必要もないと思っていたの。…ごめんなさいね、黙っていて」
「ううん、少佐達は悪くないよ」
慌ててエドワードは首を横に振る。リザ達は、自分のことを気遣ってくれて、内緒にしていたのだから。
そしてロイも………
「…どうやら誤解も解けたみたいだから、行きましょうか?」
「行くって…どこへ?」
嬉しそうに笑ったリザが、立ち上がる。その言葉に、エドワードはきょとんとした。
「誤解は解けたけど、まだ少し不安そうなエドワード君に」
言いながら、寝間着姿のエドワードを椅子から立ち上がらせる。
「揺るぎない自信を与えてくれる人の所へ」
「揺るぎない…自信…?」
リザの言葉の意味が掴めなくて、戸惑っているエドワードの細い肩に、リザの温かい手が優しく置かれた。
「そう。不安を解消してくれる人の所へ、今から行きましょう。…ああ、でもその前に着替えてからね。… どうせなら、目一杯お洒落をして、行ってみない?」
「少佐……」
「可愛いあなたを、あの人に見せたいから。ね」
と、楽しそうに話すリザを見ていると、次第にエドワードも不安が解れていった。
「うん、いいよ」
だからそう応じ、リザに笑いかける。
「でも、オレ…どんなのがいいのか分からないから…少佐に任せてもいい?昨日みたいにさ」
「ええ、任せて。最高に可愛くしてみせるから」
「じゃあ、お願いします」
と言ってぺこりと頭を下げた後には。
鮮やかに笑う、いつものエドワードの姿があった。
久々更新です。長い間しなくてすみませんでした。今回は、ちょっといい方へと向かっています。さてさて次は、真打登場!ですか?