Schlussatz side story -7- calmanndo 5
ふう。
今日で、何度目になるかしら…。
リザはこっそりと上司を見て、心の中で思った。
その日。
ロイの様子は朝から変だった。
サボり癖はいつものこと。それくらいでは、長年彼の分として付き合っているリザは、変だと思わない
だが、朝から書類の束を突きつけても上の空で、時折深い溜息をついているという光景は、はっきり言って鬱陶しいものでしかなかった。おまけに、仕事も確実に溜まってゆく。
とうとう堪えきれなくなったリザは、またしても深〜い溜息をついた直後のロイに向かって、口を開いた。
「―――閣下」
「……あ?」
「何かあったのですか?」
「………」
「今日の閣下は、いつにも増して変ですから」
「………」
リザの歯に衣着せぬ物言いを、今更怒ることもなかった。だが言われたロイは黙りこくったままだ。
どうやら、言うか言うまいか、逡巡しているようだ。
そんなロイに、リザは先制攻撃を仕掛けてきたのだ。
「…エドワード君と、何かあったのですか?」
「…少佐……」
リザのその言葉でやっと、ロイは視線を彼女と合わせる。それだけで、自分の言ったことが正しかったことをリザは確信した。
「……喧嘩でもされたんですか?」
リザの考えられる範囲では、そんな所だろう。尤も、この上司とその恋人の喧嘩なんて、周囲からは単なる痴話喧嘩にしか見えないのだが。
「…喧嘩なんてしてない」
しかし、意外にも、今は無能と成り果てている上司の口から出た言葉は違っていた。
「え…?」
「喧嘩なんてしてないと言ったんだ」
「でしたら……」
「だが、エディの様子がおかしい」
「エドワード君の?」
いつの間にか、『エド』から『エディ』へと呼び方が変わっていたが、敢えてそれには触れなかった。
今のエドワードは、可愛い女の子だ。
だからロイも、呼び方をより愛らしい『エディ』に変えたのだろう。
「様子がおかしいとは、どんな風にですか?」
「昨晩…外で食事をしたのだが、その時はとても楽しそうで、機嫌も良かったんだ。だが、レストランから出る時には…」
「機嫌が悪くなっていた…と?」
リザの言葉に、ロイは頷く。
「話しかけても簡単な返事しかしてくれないし、夜眠る前にはキスもさせてくれなかった。素っ気無く『おやすみ』と言っただけで…どこかよそよそしくて…。今朝も……」
「今朝も…?」
「時間になっても、起こしにきてくれなかったし、『おはよう』のキスもなかった。それに、朝食も用意してくれてなくて…」
「エドワード君は、どうしていたのですか?」
「…寝室から出てきてくれなかった。内側から鍵をかけて」
話しているうちに、気分がますます落ち込んでしまったのだろう。ロイは肩を落として悄然となっていた。
(こんな姿、皆には見せられないわね…)
ロイの真実の姿を知っている直属の部下達ならいざ知らず、彼を一応、史上最年少の大総統としてカリスマ視している下士官達に今の彼の姿を見せたら、それこそその理想像がガラガラと音を立てて崩れ落ちてしまうことは目に見えていた。
上に立つものとして、尊敬されるためには、今のロイは絶対に見せられない。
「……で、閣下は、エドワード君の態度が変わった原因が分からないのですね?」
リザは仕方なく確認を取った。本来恋人同士のいざこざには介入しないようにしているのだが、今回ばかりは仕方ないだろう。ロイにいつまでもいじいじと無能でい続けられるのは、部下として非常に迷惑だ。それに、彼女自身、エドワードのことが心配だった。
「……分からない」
ロイのことだから、分かっていたら何らかの手を打つだろう。彼の言っていることには、嘘はない。
「……昨晩、夕食をとっていた時はご機嫌だったのが、お店を出る頃には沈んでいた…。どうやらこの間に、何か原因がありそうですね」
リザはそう結論づけ、ロイの机上に持っていた書類の束を置いた。
「これから私は、閣下のお宅に行ってまいります。暫しこの場を離れますが、お許しください」
「少佐……?」
「私が、エドワード君から話を聞いてきます」
部屋に閉じこもっているエドワードが、果たして口を開いてくれるかどうかは分からないが、今は同性の誼で打ち明けてくれるかもしれない。
「……すまない、少佐」
ロイは、素直に頭を下げた。自分には事態を打開できない以上、彼女に縋るしかない。
「いえ、お気になさらずに。…私はここを離れますが、その間にこれらの書類の決裁を済ませておいてください」
「……わかった」
頷くしかない。もしやらなければ、リザはこの先協力してくれなくなることが目に見えていたからだ。
「よろしくお願いします。それでは…」
一礼し、リザは執務室を後にした。
すぐ、ロイの…大総統の自宅へと向かうために。
「……全く、閣下には困ったものね」
と、呟き、溜息をついて。
久々の更新です〜。が、話がちっとも進まないので、今回は二本立てとなりました。
今回のテーマは、『ウジウジ大総統』と『男前なリザ姉さん』です。…いえ、ウジウジなロイも好きですよ、私。