Schlussatz side story -6-   calmanndo 4

 ロイは、そわそわしながら待っていた。


 軍部の病院を出てから真っ直ぐ大総統府に戻り、黙々とその日の分の仕事を終わらせて、自宅に戻ってみれば。
 案の定、エドワードはまだ帰っていなかった。
 仕方ないので、念のため持ち帰っていた、急ぎではない書類にも目を通そうとしたのだが、どうにも集中できずにいた。
 それだけ、気になって仕方がなかった。
 エドワードのことが。

 再び、自分の許に戻ってきてくれた愛しい人が、いきなり女性となっていた。
 そのことを、ロイが驚かないわけがなかったが、努めて表面には出さないようにしていたつもりだ。
 きっと一番ショックを受けているのは、他ならぬエドワード自身だろうから。
(…戻ってきても、いつも通りに振る舞わないといけないな)
 女性となっても、エドワードはエドワードだ。
 自分にとって、大事な愛しい人には変わりない。
 だから、帰ってきた時は、普段どおりに迎えてやらないと……

 そう思いながら、それでも一向に戻ってこない恋人を少々落ち着きなく待っていると。

 ロイが帰り着いてから約1時間後。
 待ち人が帰ってきたようだ。
 玄関から聞こえてくる物音と話し声に気づき、慌ててロイは書斎から飛び出した。
「おかえり、エドワード。遅かっ……」
『たね』と、最後まで言うことが出来なかった。

「…あ、閣下。遅くなってしまって申し訳ありませんでした」
 玄関に立っていたリザがロイに気づき、敬礼する。
 しかしロイは、それに返事も出来ずに、ただただ凝視しているだけだ。
 リザの隣に立つ、可愛らしい女性を。

「……エド…か?」
 確認するように問えば、その女性は顔を真っ赤にしてこくりと頷いた。

 ラメ糸を織り込んだツイードに、サテン素材で衿元にフリルをあしらった、上品なピンクのワンピース。
 肩にはソフトピンクのストールを軽く羽織り、手首には幾重にも巻いたパールのブレスレット。
 普段は三つ編みにしている髪も、今は解いてさらさらと肩の辺りに流れている。
 
 どこから見ても、十代の可愛らしい女性。
 それが今の、エドワードの姿だった。

「どうですか、閣下?とても可愛らしいでしょう」
 隣に立つリザが、とても誇らしげに言う。
「…ああ、とてもよく似合っている。」
 リザの確認を込めた問いに、ロイはしっかりと頷いた。
「でしょう?元々可愛いので、こんな服が良く似合いますよね」
「そんな……少佐…」
 エドワードは、恥ずかしそうに小声で呟く。
 実際、とても居たたまれなかった。
 病院での検査後、リザに連れられて行ったのは、セントラルの中心地にあるブテッィクだった。
 どうやらセントラルの富裕層をターゲットにしているその店で、エドワードはついさっきまで散々着せ替え人形にさせられていたのだ。
 その結果が、今の自分の姿だ。
 とても良く似合うと、リザと店員にそれまで着ていた普段の服から着せ替えられて、髪も下ろして薄く化粧もされてしまった。
(それに…この下着…)
 女性の服装になるには、まず下着から、と、採寸までされて、今は女性用の下着も身につけている。
 今までそんなものに無縁だったエドワードにとっては、胸を締め付けるブラジャーなど、息苦しいものでしかない。
 こんなものなんてつけたくないと、抵抗はしたが、
『型崩れするからつけておいた方がいい』
 と力説する女性陣の迫力に押されて、つけざるをえなかった。
 その後も、支払はロイ持ちだということをいいことに、リザはエドワードに似合いそうな様々な服や下着類を選んでは買ったのだ。
 その買い物の品が、今、彼等の足元にかたくさんの紙袋に入って置かれていた。

「とりあえず、当座必要な者は買い揃えました。また何か足りないものが出てきましたら、その都度買えばよろしいかと…」
「ありがとう、少佐。長時間付き合わせてすまなかった」
「いいえ。私はとても楽しかったです。エドワード君と一緒にお買い物が出来て」
 きっぱりと言い切るリザの言葉には、全く嘘はないだろう。
 一緒にいたエドワードは、彼女のその場での様子を思い浮かべて、一方ロイは、出来るものなら自分が付いて行って、見立ててやりたかったと思うことで、そう感じていた。
「…それでは、私はこれで失礼致します。また何かありましたら、いつでもお呼びたてください」
「ああ。ご苦労だった」
「ありがとう、少佐」
 二人揃って労いの言葉を掛けると、リザ嬉しそうに笑って一礼し、屋敷から出て行った。


「……さて」
 2人きりで残され、何となく気まずい雰囲気が漂っていたのを破ったのは、ロイだった。
「とりあえずはこの荷物の山を綺麗に片付けて……。それから食事にでも出ようか?」
 エドワードの足元にある山のようになった紙袋を手に取って、笑いかける。
「食事……?」
「エドも、今日は疲れただろう?病院の検査に続いて買い物だったから。今夜は、外で済ませないか?私も今日は少し疲れたし」
 料理は主にエドワードが担当していたが、ロイも全く作れないことはない。 エドワードと一緒に暮らすようになってからは、普段は家での食事が多いのだが、今日は珍しく外食にしようとロイの方から言い出したのだ。
「疲れたって……仕事、忙しかったのか?」
「ああ。何としても定時で戻るべく、今日の分を急いで済ませたからね。いささか疲れたよ」
(……それって、普通のことじゃないか?)
 別に、仕事がたくさんあるというわけではない。普段の業務をそつなくこなしていれば、何ら問題なく定時で終えられることだ。
 だがそんな簡単なことが、この目の前にいる最高権力者には出来ないことを、エドワードは思い出した。
(…ということは、今日きちんと終えられたということは、褒めるべきことなのかな?)
 そんなことでは通常褒められないが、ロイは別だ。
 今頃大総統府では、久々に定時に帰れると部下達が大喜びしていることだろう。
(…仕事をきちんと終えられない大総統ってのも、問題有りだと思うけど…)
 その点については、これからもおいおい改善していく必要があるなと心の隅で考えてはいたが、今は口に出すことではなかった。
 とりあえず今は、珍しく残業のないロイと、食事を楽しみたいと思っている自分がいることに、エドワードは気づいた。
「さあ、これを部屋へ片付けて、急いで行くことにしよう。今夜は予約をしていないから、早く行かないと席が埋まってしまうかもしれないからね」
「あっ、うん…!」
 紙袋を抱えて2階へと上がっていくロイの後を、自分も紙袋を抱えて追う。
「予約してないってことは…あのお店?」
「あそこが落ち着いてていいだろう?料理も美味いし」
「うん!料理もだけど、デザートも絶品!」
「そうだったな。ならば急ごうか」
 そう言って、慣れないパンプスで階段を上がるエドワードの手を取ってたロイは、優しく微笑んだ。







 リザお姉さんと妹エドの買い物後、です。女の子のエドって、ピンク系も似合うと思っているのは私だけ…でしょうか?小さいし可愛いから、ピンクってとても似合いそうだと思うのですけど。いえ、エドはどんな色でも似合う!と言いそうな男が約1名いますがね、ここには…。