Schlussatz side story -5-   calmanndo 3


「……ふう…」

 長時間に渡る検査が終了した時には、疲労困憊だった。
 特に、産婦人科の検査なんて、生まれて初めてのことだったので、緊張よりも嫌悪と若干の恐怖が勝っていた。それでも、何とか我慢して受けられたのは、相手の医者が年配のベテラン女医だったことと、『検査はきちんと受けていた方がいい』とリザが説得したからだった。
(けどなあ……)
 エドワードは、産婦人科の診療室から出て、とぼとぼと廊下を歩く。
(…また1か月後に来いだなんてさ…)
 今日の検査結果は、10日程で分かるということだった。その結果を聞きに、この場所を再度訪れなければならなかったが、それに加えて女医は、丁度1月経過した時にも再検査に来るよう、エドワードに言ったのだ。
「…あなたの、女性としての機能をより詳しく調べるためよ」
 柔らかな喋り方をする彼女は、不安そうな顔をしていたエドワードに、優しく説明した。
「今回の検査だけでは、分からないこともあるの」
「それは……?」
「あなたの身体が、子供を産めるかどうかよ。それは、今日の検査だけではわからないから…。あなたには、嫌な検査かもしれないけれど…一度きちんと調べておいた方がいいでしょうからね…」
 ごめんなさいね、と優しく笑って謝る彼女に、エドワードは何も言うことが出来なかった。
 彼女は彼女なりに、エドワードの身体のことを気遣って、診察してくれているのだから。
 付き添ってくれたリザから、一通りの事情は聞いているのだろう。あれだけ念入りに、検査をしたのだから。
 しかしそれは ただ、エドワードの身体を心配して、同じ女性としての機能を備えているかの検査をしているに過ぎないのだ。
 そんな彼女の心情が分かるだけに、はっきり『嫌だ』と言うことが出来なかった。
 それに……。
(一度きちんと検査して、その結果が分かれば安心だもんな…)
 突然、男性から女性へと変化してしまった。
 しかも、そうなったのは、一度死んで甦ってきた人間だ。
 前例のない、全く特異なケースだけに、身体の機能に異常があるかどうかは分からない。だから最初に、徹底的に検査をしておく必要があったのだ。
 その結果、異常がなければそれでよし、あったら即座に対応出来る。
 そのためにロイは、軍部の病院で検査させたのだ。
(…でも…よく検査だけで…)
 特異な人間。
 今の自分がそれだ。
 以前の軍部ならば、即座に研究対象となっていただろう。
 こうやって、ただの検査で終わる筈がない。
 モルモット扱いされて、研究所に閉じ込められて……。
(ロイが大総統で……良かった…)
 ロイが命じたから、検査だけで済んでいるのだ。
 最高権力者の命令に反する人間など、まずいない。おまけにその対象者は、本人に余りその自覚はないものの、大総統が特に大切にしている人物だ。そんな人間をどうこうしようと考える、命知らずな輩もいないだろう。
 権力に頼るということを、エドワードはあまりしたくはなかったが、今回ばかりはロイの配慮に感謝していた。

 ―――そう、いろいろと考えながら、病院の廊下を歩いていた時だ。

「…エドワード君」
 凛とした、その人にぴったりの声が、自分を呼ぶ。
「……少佐…」
 エドワードの前には、リザが立っていた。
「検査は…終わったの?」
「うん。結果は後日だって。それと…1ヵ月後に再検査もあるって言われた」
「そう……お疲れ様」
 リザは微笑み、エドワードを労う。再検査の内容は分かっているので、敢えて聞こうとはしなかった。
「それじゃ、出ましょうか。もうここには用はないわけだし」
「うん」
 用があってもなくても、エドワードにとっては病院という場所は苦手な場所だった。
 …大嫌いな注射がある場所だという、単純な理由ではあったが。
「エドワード君、検査で疲れているとは思うけど、もう少し私に付き合ってくれないかしら?」
 病院を出て、駐車場に停めてあった車に乗り込みつつ、リザが話しかけてくる。
「少佐に?」
「そう。本当は閣下が付き合いたかったみたいだけど、役不足だからということで、私に回ってきたのよ」
「ロイの代わりに…?」
 エドワードは尋ねる。
 病院へ行く時は、ロイも付き添ってくれていたのだが、今はその姿が見えないことを少しばかり不安に思っていたからだ。
「ええ。私にとっても、とても嬉しい役目だから喜んでお受けしたのだけど。閣下は今頃、悔しがって仕事をしているでしょうね」
 本当に楽しげに笑いながら、リザは車を発進させた。向かうのは大総統府とは反対の方向だ。
 そちらへ向かえば、セントラルの中心地。店舗が立ち並ぶ、いわゆる繁華街に着くことをエドワードは思い出した。
「少佐…これからどこへ?」
「女の子だけのお買い物、よ」
 フフッと、リザにしては珍しく、悪戯っぽく笑う。
「閣下が自宅に戻るまでの、短い時間だけどね。男の邪魔が入らない、女同士の買い物を楽しみましょう」
 とても楽しそうな様子で言うリザに、反対する理由も見つからなくて、エドワードは曖昧に返事をするしかなかった。











 リザお姉さんと妹エドの話です。(開き直り)美人姉妹だなあ…。でも、ナンパしようものならば、どこからともなく焔が…なんてことになりかねないかも。いやいや、それより先に、お姉さんの射撃の餌食になってるかもね。