Schlussatz side story -4- calmanndo 2
軍部付属の総合病院。
そこの、奥まった場所にある、来客用の応接室の扉が開き、中へと入ってきたのはリザだけだった。
「……少佐…」
その部屋で長時間待たされていた、この国を治める若き指導者は、一瞬ソファから腰を浮かせたが、戻ってきたのがリザだけだということが分かって、すぐさまクッションの良いソファに身を沈めた。
「……エドワード君は、まだ検査が続いています。終わるまで、もう少し時間がかかるでしょう」
「そうか……」
「全てが終了する前に、今の時点で分かっている診断結果だけはとりあえずご報告しておこうと思いまして」
「―――聞こうか…」
先を促す言葉に、リザは頷いて続ける。
「身体的特徴を全て検査した結果、エドワード君はまず間違いなく女性である、とのことです」
「………」
「エドワード君を診察した医師によれば、外見だけではなく、機能としても女性そのものだと。ただ、その機能が実際働くのかどうかは、今行っている検査結果が出ないことには、何とも言えないと申しておりました…」
「そうか……」
「…この病院の産婦人科に、女医がいて良かったです。エドワード君、かなり戸惑っていましたから」
「だろうな」
いきなり、男性から女性へと変わってしまったのだ。その事実を目の当たりにしたロイも、最初は信じられなかったのだ。ましてや当の本人であるエドワードは、相当のショックを受けているに違いない。そんな中、男性の医者にあちこち検査されたら、それこそパニックになりかねないだろう。だが幸いなことに、今日は担当が女医だったということで、エドワードも渋々ではあったが、身体検査を受けたのだ。
そして、その検査に付き添ってくれたのが、リザだった。 流石に産婦人科での付き添いは、ロイでは出来なかったのだ。
元々、男性はいづらい場所である産婦人科に、この国の大総統であるロイがいることも、憚れた。そんな場面を誰かに見られでもして、変な噂をたてられてはまずいからだ。
そのため、検査の付き添いはリザに任せて、それでも心配なので、この病院の応接室で待機していたのだ。
「……しかし、どうしていきなり女性の身体に…?」
「その辺りの原因は分からない、と医師は申しておりました。それは、エドワード君の管轄ではないのか、とも」
「錬金術師として…か?」
「はい」
医師が言いたいことは分かる。
『人体錬成』。
その可能性のことを、言っているのだ。
「…一度、扉の向こう側に戻った時に…変えられたのだろうか?」
「エドワード君が言っていた…『アチラ』の世界ですか?」
「ああ…。それしか考えられない。女性になることは、我々の錬金術では不可能だ」
錬金術によって性を変えることに成功した例など、聞いたことがない。ましてや、人体錬成に相当するこの行為は、禁忌の領域のものだった。
「…エド自身が、それを行ったとは考えにくい」
「それでは、『アチラ』の世界の『アイツ』とやらが…?」
「…あくまで推測にすぎないが…な」
ロイは溜息をつく。
「しかし今は、エドがああなった原因を探るよりも、身体の方が心配だ」
突然女性体となったことで、何か身体に異常でもあったら…。
その不安もあって、急いでエドワードを病院へと連れてきたのだ。
「見た目は、平気そうでしたけれど…。検査結果が出るのには数日掛かると…」
「そうか…すまないが少佐…」
「はい。検査結果を聞く時も、エドワード君に同行します」
長年ロイの許で、彼のフォローをし続けてきただけはある。何が言いたいのかは、最後まで言わなくとも大体分かっていた。
「頼む…。私では、出来ないからな」
産婦人科に付き添うことを、エドワード自身が恥ずかしがって嫌がるだろう。その点、姉のように慕っているリザなら大丈夫だ。また、ロイ自身、彼女をとても信頼をしているので、安心して彼を任せられた。
「承知いたしました。お任せください」
きりりとした軍人としての顔に戻り、敬礼をする。その姿を見て、ロイは安心したように深く頷いた。
「……では、私は大総統府に戻ることにするよ。仕事がたまっていることだし」
ソファから立ち上がり、コートを羽織って帰り支度をしている。
「……検査が終わるまで待たれないのですか?」
てっきり、最後まで居座るものと思っていたのだが、ロイは微笑んで首を横に振った。
「ここにいても、私に出来ることは何もないからね。急いで今日のノルマを終えて、自宅で待つことにするよ」
「待つとは……?」
「少佐には続けて申し訳ないが、エドが検査を終えたら、彼を連れて行ってほしい所がある」
「それは……?」
「とりあえず女性の身体なのだから、それに見合ったいろいろなものを揃えないといけないだろう?」
「―-そうでしたね…」
リザもようやく、理解できた。
「今まで男だったから、当然女性のものなんて持ってないだろうし。少佐が一緒に行って、必要なものを揃えてあげてくれ。…ああ、勿論、費用は私持ちだから、いくら使ってくれても構わない」」
それも、男性であるロイには難しいことだろう。洋服などを選ぶセンスは一応持ち合わせてはいるが、流石に細々としたものまでは知らないこともある。この件については、女性であるリザに全面的に任せた方が得策だろうと考えた結果だった。
「わかりました」
リザは、力強く頷く。
「頼む。それが終わったら、エドワードを私の家まで送ってくれ。その後は直帰しても構わない」
「しかし……」
言いよどむリザに、ロイは苦笑を浮かべた。
「私はさぼらないから、安心したまえ。今日ばかりは、急いで戻りたいからね」
「そう仰ってくださるのでしたら…お言葉に甘えて」
きちんと仕事をする、とロイが宣言して、ようやく安堵したようだ。応接室を出て行くロイに再度敬礼をして、自分も後に続いた。
検査を終えた、エドワードを迎えに行くために。
エドのお姉さん的なリザが大好きです。次は、リザお姉さんと妹エドの話になっちゃうかな?今回の話、お題の中の『ホークアイ中尉』にして見ました。…中尉じゃなくて、少佐だけど。