Schlussatz side story -2-
痛みには、慣れていると思っていたから、大丈夫だと思っていた。
あらかじめグレイシアさんから、その時の『痛み』の凄さを聞かされていても、きっと平気だと、高をくくっていた。
だって自分は、あの、大人でも気絶してしまう程の激痛を伴う、機械鎧の手術を受けたのだから。
きっと、あれよりひどい痛みなんて、他にはないだろうという思いがあったから、気軽な気持ちで臨んだのだ。
だけど………。
2つの元気な産声が、室内に響く。
「産まれ…た…」
荒い息の中、エドワードはようやくそれだけ呟くことが出来た。
相次いで元気に泣く2つの声を、朦朧としそうな意識の中で、エドワードは聞いていた。
「おめでとうございます!男の子と女の子の、双子の赤ちゃんですよ」
看護師が、産湯で綺麗になった2人の小さな命を、エドワードに見せる。
「……双子…だったんだ…」
額に汗を浮かべたまま、エドワードは目の前にいる、自分の産んだ子供達を見て嬉しそうに微笑んだ。
「だから…あんなに大きかったんだ…お腹…」
初産だから、臨月が近づくにつれて、とても大きくなったお腹でも、中に2人の命がいるとは気づかなかった。
それは、夫のロイも同様で、大きなエドワードのお腹を見ては、
『元気な子供が生まれてきそうだな』
と笑っていたのだ。
一方子供のいる周囲の人達は、大きすぎると首を傾げていたけど、双子だったとすれば納得がいく。
「…申し訳ありません。お子さん達の場合は、普通の双子の位置とは違っていたので分からなかったようで…」
エドワードの担当医が、何度も詫びる。
「…気にしないでください。こうやって元気に生まれてくれたのですから」
そう言って医師に向かって微笑み、まだ元気に泣いている赤ん坊に手を差し伸べる。
それに気づいた看護師は、女の子の赤ん坊をエドワードに渡した。
「…小さくても、結構重い……」
ずっしりとくる、命の重さ。
それが少し前までは自分の身体の中にいて、今は自分の腕の中にあった。
「…何だか、不思議…」
エドワードは、続いて男の子を抱く。その子も、盛大に泣いていた。その泣き顔を見て、エドワードはクスッと笑う。
2人とも、父親と同じ黒髪。
まだ目は開いていないから、瞳の色は分からないけど、黒は優性遺伝だから、瞳も黒の可能性が大きいだろう。
ロイは、エドワードに似た子供がいい、と絶えず言っていたが、エドワードはどちらでもいいと思っていた。
どっちに似ようとも、紛れもなく自分達の子供なのだから。
「……あらあら、お母さんに抱っこされると、安心したみたいですね」
娘を抱いている看護師が、エドワードの腕の中にいる息子の顔を覗き込んで、微笑む。
「泣き疲れちゃったのかな?」
流石双子、と言うべきか、二人ともほぼ同時にすうすうと気持ち良さそうな寝息を立てていた。
「…さあ、お母さんは後産がありますから、赤ちゃん達はお父さんとお会いしましょうね」
「ロイが…来てるのか?」
エドワードは驚いた。
本当は出産に立ち会う予定だったのだが、突然テロ事件が発生し、その事件処理の指揮を取らねばならなくなったのだ。
小規模なテロ事件なら、部下に任せておいても良かったのだが、大総統のお膝元で発生したテロだけに、そうもいかなかった。仕方なく、リザを付き添いとして派遣してくれたのだが……本人がここに来ているということは、どうやら事件は無事解決したのだろう。
「この部屋の外で、お待ちですよ」
「…じゃあ、赤ちゃんを見せてあげてください」
きっと彼も、子供を見て驚くことだろう。実は双子だったということを知って。
そして、喜んでくれるだろう。
あんなにも、待ち望んでいた我が子の誕生だから。
エドワードは、対面した時のロイの顔を見てみたかったな、と思い口元に笑みを浮かべた。
きっとその時の彼の顔は、部下には絶対に見せられないくらい、とろけるような温かい笑顔だろうから。
エドワードがロイと会えたのは、産後の処置が全て終わって、病室に移った時だった。
双子の赤ん坊も未熟児ではなかったので、一緒に病室へ入り、今はベビーベッドで並んで眠っている。
「…お疲れ様、エディ」
ベッドに上体を起こして、座っているエドワードの髪をそっと梳きながら、ロイは労いの言葉をかけた。
「うん、本当に疲れた。痛くて痛くて…とても疲れたよ」
それに対し、エドワードはあっさり返す。
「そ、そんなに痛かったのか?」
髪を梳く手を止めて、聞く。
「ああ。機械鎧の手術よりは痛くないだろうと思ってたんだけど…同じくらい痛かった」
「………」
「痛くて痛くて…それに途中で双子だって分かってからは、医者達も帝王切開に切り替えようかなんて言ってたけど…オレ、自分の力で産みたかったから、頑張った」
微笑み、そっと傍で眠る子供を見つめる。
「産まれる瞬間を、この目で見たかったから…」
ロイと自分の子供の誕生の時を、しっかりと覚えておきたかったから。
そのためなら、どんなひどい痛みにも耐えられる。
その思いは、自分とアルを産んでくれた母親も、きっと同じだったのだろう。
だからこそ、自分達に惜しみない愛情を与えてくれたのだろう。
愛する人との間に産まれた、子供だから。
今なら少し、彼女の気持ちが分かるような気がした。
母親となった、今は。
「……私は、ずっと君達の傍にいるよ。離れたりはしない」
「……ロイ…」
エドワードと子供達の顔を交互に見ながら、ロイはきっぱりと言った。
「…エディにも、子供達にも、悲しい思いなんて絶対にさせない」
その宣言は、エドワード達の父親のことを考えて、言ったことなのだろう。
どんな事情があるにせよ、大事な家族の許から離れて、寂しい思いをさせたというのは紛れもない事実なのだから。
「君達を、生涯かけて守ってみせる」
ロイはきっぱりとエドワードに向かって言い切った。
大事な家族。大切な宝物。
何ものにもかえられない、守るべき愛しい存在だから。
「…うん、頼むぜ、パパ」
エドワードは、ロイの宣言を聞いて、顔を綻ばせた。
「みんなで…幸せになろう…」
「エディ……」
ロイもエドワードの言葉を聞いて微笑み、そっとエドワードの唇にキスをした。
「…ありがとう、エディ。私の子供を産んでくれて」
「うん…。オレも…。ありがとう、ロイ…」
あの時、オレを救ってくれて。
さてさて、次からはいよいよ過去の話に入ります。子供達の目の色とか名前は後程ということで…。