Schlussatz side story -19- soave
エドワードは、ふっ…と思考を現実に戻した。
腕の中の赤ちゃんが、少しむずかりだしたことに気づいて。
「ああ、ごめんな…」
丁度、授乳の最中だったことを思い出し、慌てて我に返る。
子供は既にお腹いっぱいになったのか、口を離して泣きそうな顔をしていた。それを見たエドワードは、肩の上に赤ちゃんの顎を乗せるようにして、赤ちゃんを縦抱きにし、その背中を下から上にゆっくり優しく撫でる。
すると、暫したって赤ちゃんはげっぷをし、その後満足したように再び眠りだした。それを確認したエドワードは、そっとベビーベッドに寝かせる。そこには、先に授乳を済ませた双子のもう1人、女の子が既に熟睡していた。
黒髪・黒瞳の双子の子供。
夫であるロイと同じそれを受け継いだ我が子は、ずっと見ていても飽きなかった。
それはどうやら、父親となったロイも同様で、毎日のように病室を訪れては、何時間も子供の顔を見ている。
その姿は、エドワードと同じく甦ってきた、ロイの某大親友の親馬鹿ぶりを彷彿するようで……今からこれでは、後々、その親友と終わりのない親馬鹿合戦を繰り広げそうで、エドワードにはそれがほんの少し気がかりではあった。
(……でも、可愛いもんなあ…)
すやすやと眠っている子供達を見て、エドワードは微笑む。
今、ここにいる2人は、エドワードにとって宝。
ロイと結婚するまでも。
結婚してからも。
いろいろあって…苦しい思いをして…やっと得られた宝だ。
何にも替えがたい、唯一の。
(…母さんも、同じだったのかな)
今は亡き、大好きだった母のことをふと、思い出す。
兄弟を、ずっと慈しんでくれた母。
そして、小さい子供達を置いて、逝ってしまった母。
今なら、分かる。
まだ幼かった自分達を残して、先に逝くということが、どんなに辛く悲しいことか、と。
母親になった、今は……。
「オレは……逝かないから」
眠っている、2人の我が子の黒髪に触れながら、エドワードは誓う。
この子達が大きくなって、自分達で生きていけるようになるまでは、絶対に死なない。
自分のような悲しみを、この子達には絶対に味あわせたくない。
先のことは分からないけれど…誓いたかった。
「…ま、オレって一旦死んで甦ったから、長生きするだろうけど」
と言って、クスッと笑いを漏らした時のことだ。
病室のドアが、ノックされたのは。
「どうぞ………って、ロイ?」
ノックの音に続いて入ってきたのは、ロイだった。
今日も、仕事帰りに寄ったのか、軍服姿のままで部屋に入ってくる。
その手には、大きな花束を持って。
「…また、寄り道かよ?」
「一旦自宅に戻る時間すらも惜しいからね」
と言いながら、手にある花束をエドワードに差し出す。それは、ピンクを基調にした、愛らしい色彩の花束だ。
「…毎日毎日、花束持ってくるの、止めろよな。お陰でこの部屋中、花だらけだ」
エドワードが言うように、病室内は、花瓶に生けられた、色とりどりの花で埋め尽くされていた。その殆どが、ロイの持ってきたものだから、ついエドワードの口調が小言になってしまっても仕方ないだろう。
「綺麗なものを見ることは、いいことだからね。君にも…そしてこの子達にも」
「…まだ、ぼんやりとしか見えてないのに?」
「それでも、見えてるよ。花だけでなく、エディも、私もね」
「……うん…」
エドワードは、ロイからの花束をぎゅっと抱き締めて頷く。
「…だが、いい加減花束だけでは芸がないからね。今日はこっちも持ってきたよ」
と言って差し出したのは、白い箱。
綺麗なリボンで飾られているその中身が何かは、エドワードにもすぐに分かった。
「あっ、ケーキ!」
「そろそろ、病院食にも飽きてきたんじゃないかと思ってね」
「…でも、病人じゃないから、普通のものを食べさせてくれるよ。味は薄いけどな」
そう言いながら、サイドテーブルに置かれた箱をいそいそと開ける。
「お茶、淹れようか?ロイも食べるだろ?」
ゆっくりと歩き、部屋の隅にあるミニキッチンへと向かう。
「…動いても平気か?」
「いいって。大丈夫。明後日には退院だし」
慌てて自分がやろうとロイが動くのを、エドワードは止める。ロイはそれ以上何も言わず、ベビーベッドの中の我が子の寝顔を飽きもせず眺めていた。
「…それよりも、決めてくれたか?」
「え……?」
視線を子供達から外し、問いかけられたエドワードに向けると。
丁度ティーカップをベッドの傍にあるテーブルに置いたところだった。
「この子達の名前、だよ」
ケーキを皿に乗せつつ、エドワードは重ねて言う。
「確か、14日以内に届けを出さないといけないんだろ?もう生まれて1週間が経過するから、そろそろ決めないと…」
子供の名前は、ロイがつけることになっていた。
そう、生まれる前から決めていたことなので、エドワードは夫に一任していたのだ。
「ああ。名前なら、決めたよ」
「ほんとっ?どんなどんな?教えてよ」
「…ああ、いいよ」
ロイは嬉しそうに身を乗り出してくる妻の仕草に微笑みつつ、軍服のポケットから2枚の紙を取り出した。
「これって……出生届?」
「そう。ここに、名前が書いてある」
ロイがエドワードに差し出したのは、役所に提出する出生届だった。それをエドワードの前に差し出すと、その名前の欄を、じっ…と食い入るように見つめていた。
「……男の子が…『ジェレマイア』、女の子が…『アンジェリナ』…?」
「そう。ジェレマイア・マスタングと、アンジェリナ・マスタング。この子達の名前だ」
どちらも、神や天使にちなんだ名前だと、ロイは笑って答える。
「2人とも…私にとっては神や天使に近い存在だからね…。ああ、エディも私にとっては天使だよ」
「ロイ……」
エドワードは、隣に座っていた夫の肩に、そっともたれかかった。
「エディ?」
「………ありがと。いい名前つけてくれて」
頬に、布越しでも伝わってくる夫の温もりを感じながら、エドワードは目を閉じて囁いた。
「…どういたしまして」
そんな妻に優しく微笑みかけ、肩に触れる金糸の髪に、空いた手でゆっくりと撫でながら、ロイもまた愛しい妻と…子供達を見て、微笑んだ。
2人がそっと寄り添っている傍の、ベビーベッドでは、2人の『天使』が気持ちよさそうに眠り続けていた…。
ここにいる…全ての愛しい人達。
その人達に出逢えた、全ての奇跡に感謝しよう。
この後も…ずっと、守り続けられるように…。
このシリーズは、一応これで終わりです。……ううん、まさかここまで長くなるとは思ってもみませんでした…。
あと、これからの続きもあるにはあるのですが、出せたらちょっとずつ出して行きたいなあと思います。
その前に、夏コミ受かったら、総集編として出したいなあ。少し、加筆修正して。
スペース、取れますように…!
…ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました!