Schlussatz side story -14- accelerand 4
「……エドワード・エルリックさん」
「…はい」
静かな診察室。
エドワードが神妙な顔をして短く返事をした後、担当である女医が、カルテを捲る音のみが、部屋の中に妙に響いていた。
だがそれも、医師の声ですぐに破られる。
「…先日の検査の結果ですが…」
「はい……」
「まだ生理が来てないから、絶対確実とは言えないのですけど、まず大丈夫だと思いますよ」
「というと……?」
「女性としての機能は、正常だということですよ。つまり、赤ちゃんを産むことが出来るということですね」
彼女は、エドワードに分かるように、簡単な言葉で説明しなおしてくれた。彼女が、生まれながらの女性ではなく、ある日突然女性になってしまったことを思い出したのだ。
「……そうですか…」
エドワードは、女医の説明を聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。
まだ実感は殆どないものの、子供を産めるのだというお墨付きを貰えたのだ。
ロイからのプロポーズを受けて、結婚することを決めた直後なだけに、子供が産めるという事実はとても嬉しいことだった。
大総統の地位は、ロイが就いたように、血族による相続ではないから、跡継ぎ云々という問題はないのだが、やはり好きな人の子供を産めるものなら産みたいと思っていたのだ。
「今後、生理になったらまたここへいらしてくださいね。念のためもう一度、検査してみますから…」
「はい…!」
結果を聞く前より、かなり明るい声で、今度は返事をする。
「……良かったわ…。お幸せにね」
そんなエドワードの様子を見て、女医も嬉しそうに微笑んで口を開いた。
「えっ……それはどういう…?」
「あなたの顔を見れば、分かるわ。結婚を間近に控えた人だってことくらいわね」
医者というものを長くやっていると、患者の言葉には出さない状態もそれとなく分かってくるのだと、彼女は付け加えた。
そして、エドワードがはにかむように笑いながら頷くと、
「おめでとう」
と、満面の笑顔で、彼女は祝福の言葉を告げた。
(…ロイ、喜んでくれるかな?)
検査結果を聞き終えて、エドワードは静かな病院の廊下を嬉しそうに歩いていた。
自分の口から、『子供が産める』と言い出すのは気恥ずかしい気もしたが、それよりも嬉しさが勝っていた。
(…こんな感情、男の時にはなかったよな)
やはり、女性になってから、考え方も女性のそれに変化してしまったのだろうか…とぼんやり考えながら、病院の正面玄関に向かうべく、突き当たりの廊下を左に曲がった。
エドワードは必要ないと断ったのだが、心配するロイが半ば無理矢理に送迎の車を彼につけたのだ。
恐らくその車と運転手であるファルマンが、エドワードの帰りをそこで待っているだろう。待たせている手前、それに乗って帰らないとロイがまた心配するので、エドワードは少し早足になって廊下の角を左に曲がり……そして、更に真っ直ぐ伸びる廊下を突っ切ろうとした時のことだった。
背後に、人の気配を感じたのは。
だが、感じることだけしか、出来なかった。
「………?」
気配を感じて、振り向こうとした瞬間。
後頭部に、激しい衝撃を受けたのだ。
「………っ!」
その衝撃で頭がクラクラする。
眩暈が起きて、立っていられなくなった身体が、グラッと揺らいだ。
(だ……れ……?)
かすむ視界で、自分の後ろにいた人物を見ようとしたのだが。
意識を失う直前、廊下に倒れるエドワードの瞳に映ったのは。
自分が倒れ伏す、クリーム色をした廊下だった。
「……エディは遅いな…」
先程から時計をちらちらと見つつ、ロイは呟いた。
「検査結果を聞くだけなら、これ程時間はかからないだろうに…」
「急患でも、飛び込んだのかもしれませんよ?」
涼しい顔で、リザが答える。
「しかし……」
「用心のため、ファルマン少尉を運転手につけましたから、大丈夫ですよ。それに、軍部の総合病院で事を起こすような輩はまずいないでしょうし」
「だが……」
「そんなにご心配なら、エドワード君が戻ってきた時に、すぐ一緒に退庁出来るよう、これらの決裁を済ませてください」
なおもグズグズしている大総統に、はっぱをかけた時。
彼女の控えている机上の電話が鳴った。
「はい、大総統執務室。はい…はい、ええ、そうよ。繋いで」
リザは二言三言そう返事して、受話器の向こう側の人物と話をし始めた。ロイは何となくそんな彼女の顔を眺めていたのだが……。
次第にリザの表情が険しいものに変わっていくのを見て、電話の内容がただ事ではないことに気づいた。
「……少佐、どうした?」
受話器を元に戻したリザに、すかさずロイは聞く。
彼女の顔は強張ったままで、ほんの少しだが青ざめていた。彼女が動揺を表に出すことなど滅多にないだけに、電話の内容が尋常ではないことがロイにもすぐに分かったのだ。
「申し訳ありません。ありえない事態が発生したようです」
リザは青い顔のまま、ロイに答えた。
「…どういうことだ?」
ロイは、眉をひそめて問う。
嫌な予感が、さっきからしていた。
そして、その予感は見事に的中したのだ。
「……ファルマン少尉からの緊急連絡です。エドワード君が……病院内で行方不明になったということです…!」
久々の更新です…!長いことしなくてすみませんでした〜。
さあ、ここから事態は急展開になります。次は……間を余り空けないようにします…!