Schlussatz side story -13-   accelerand 3

「…ええ、そうです」


 静まり返った、廊下。
 午前中なら、患者達でざわついていた病院の廊下も、午後からはそれがないために、静寂に包まれていた。
 時折、見舞い客と思しき人や、看護師が通り過ぎていくくらいの人通りしかないその場所で、エドワードは小さな声で話し続けていた。
 廊下に据えつけられた、公衆電話の受話器に向かって。

「もう、決心しました。あいつと…一緒に生きていこうって」
 受話器の向こう側にいるであろう人物は、一瞬押し黙った。
 だがすぐに、答えてくる。
『……おまえが、大総統夫人、か。覚悟はしているようだが、大変だぞ?』
「はい……師匠」
 その場にいない人に向かって、エドワードはしっかりと頷いた。
「だけど、あいつと離れたくないから…ずっと傍にいたいから…頑張ります、オレ」
 きっぱりと答える。いつの間にか、ギュッと空いている右手で拳を作りながら。その掌は、汗で湿っていた。
「………そうか。おまえが覚悟を決めているのなら、外野の私が口を出す必要はないね」
 フッと小さく笑う声が聞こえ、受話器の向こう側の相手―――イズミは、『おめでとう』と言ってくれた。
「ありがとうございます、師匠…!」
 イズミから、祝福の言葉を貰ってようやく、エドワードは肩から力を抜いた。
 


 ここは、軍部付属の総合病院。
 外来の診察室が固まっているエリアだ。
 エドワードは、その中の産婦人科に用があって、ここを訪れていた。
 その目的は、先日の検査結果を聞くためだ。
 大総統がエドワードと婚約したといことが大々的に報道される前に、結果を聞いておこうと思ってやって来たのだ。
 まだ、殆どの人間が知らされていないので、外来診察の時間に来ても良かったのだが、用心に用心を重ねて…と言うロイやリザ達の主張に負けて、診察時間外にアポを取ったのだ。
 ところが、いざやってきてみると、たまたま産気づいた妊婦が病院に担ぎこまれ、エドワードの担当医が急遽呼ばれてしまったのだ。
 出産の方が緊急を要するので、エドワードはそれが終わるのを待つこととなってしまったのだが、ぽっかりと急に空いてしまった時間に、ロイとの婚約をアルフォンスやウィンリィ、他の世話になった人達に報告しておこうと思いつき、その後ずっと、人がいないのを好都合として、公衆電話の前に陣取って話し続けていた。
「…それで、師匠。お願いがあるのですが…」
 その、電話の向こう側の相手は、今は錬金術の師匠として尊敬する、イズミ・カーティスになっていた。
 エドワードは、直立不動の状態で、話し続けていた。
 そうなってしまうのは、今も、優れた錬金術師として尊敬しているからという理由もあるのだが、それよりも、弟子として鍛えられていた頃の記憶や経験から、未だに彼女相手だと妙に緊張して、例え目の前にいなくても、姿勢を正して話をしてしまうのだ。
『何だい、お願いって?』
「え……あの、師匠にも、結婚式に来て欲しいんです。まだ、少し先のことになりそうだけど…」
『私なんかが行ってもいいのかい?』
「なんかじゃありません!師匠には、ぜひ来て欲しいんです!」
 エドワードは語気を強めた。
「師匠は……オレにとって大事な人だから…」
 両親のいないエドワードにとって、親代わりと言ってもおかしくないだろう。それくらい、カーティス夫妻はエドワードやアルフォンスを、厳しい一方でとても大事にしてくれていたのだから。
『……式の日にちが決まったら、また教えておくれ。その日は絶対に空けておくからね』
 少しの間を置いて、優しい声が、受話器から聞こえてくる。
「あっ、はいっ!また正式に招待状を送ります!」
 エドワードの顔に、笑みが浮かんだ。
『そうか。…楽しみにしておくよ』
「…ありがとうございます、師匠!」
 明るくなった声を聞いて、向こう側にいるイズミは笑い、最後にもう一度『おめでとう』と告げて、電話は切れた。
(よかった……!)
 受話器を戻して、エドワードは嬉しそうに笑う。
「…これで、招待したい人は殆ど連絡ついたな…。後は招待状を作って…」
 挙式前にいろいろクリアしなければならないことを、指折りながら考えていると。
「エドワード・エルリックさん?」
 廊下に面した、『産婦人科』という札の下がったドアが開き、看護師が顔を出してくる。
「あ…はい!」
 エドワードは慌てて彼女に歩み寄った。
「大変遅くなってごめんなさい。先生がお戻りになりましたから、これから検査結果をお知らせしますね」
「お願いします」
 エドワードはぺこりと頭を下げた。
「あ、ところで」
「何でしょう?」
「さっき運び込まれた妊婦さんは……?」
「ああ、あの方。無事にご出産されましたよ。女の子」
「そうですか…」
 看護師の、ニコニコと笑いながらの返答を聞いて、エドワードはホッと安堵の息を吐いた。








 ハガレン最強キャラ!イズミさん登場です。この場合、恐れなければならないのは、エドではなくてロイの方でしょう!まず間違いなく!エディを泣かせようものならば、イズミさんからの容赦のない天誅が下ること間違いないですからねぇ。イズミさんも書いてて楽しいです。