Schlussatz side story -12- accelerand 2
ロイが、エドワードを自分の妻……すなわちこの国のファースト・レディとなる旨を告げた後の。
「あのお偉い将軍様方の顔、写真に撮っておきたかったぜ…!」
ヒューズは思い出し笑いをしながら呟く。
「あれが見たくて、やったんだろ、ロイ?」
「……まあな。それに、この際はっきりさせておきたかったし」
ロイは大総統執務室にある応接セットに座りながら。目の前のソファに座って今なお笑い続けているヒューズを見て、苦笑を漏らした。
「はっきり…って?」
ロイの座った隣には、エドワードがちょこんと既に腰掛けていて、首を傾げながら問う。
そんな彼女の服装は、将軍達に披露した時のままだ。
エドワードはすぐにでも着替えたいと主張したのだが、ロイやヒューズ、それにハボック達部下の面々に、勿体無いからもう少しだけ…と懇願されたので、仕方なく可愛らしい格好のままでいた。
「私には、こんなに可愛らしい婚約者がいるということを、皆に示しておきたかったんだよ」
「可愛いって……オレ?」
「君以外に誰がいる。だから、早々に、披露しておきたかったんだ」
ロイは溜息をついて漏らした。
「そんなに、あいつらからの縁談話がひっきりなしに来たのか?」
「ああ。地震の後処理が落ち着いて来た頃を見計らったかのように、次から次へとな。それまでも頻繁に持ってきたのだが…更に輪をかけてひどくなったよ。尤も、写真も見ずに、即刻お断りしたが」
「そんなに……?」
エドワードは目を丸くして驚く。自分も一度、その婚約者候補とやらのうちの1人と出くわしたが、それ程に結婚話がロイの許へと届けられていることは知らなかった。
「まあ、相手にしてみりゃ、この国の指導者の奥方になれるんだからな。女性自身も、そしてその背後にくっついて、ちゃっかりそのおこぼれに預かろうとしている奴等からしてみたら、非常に魅力的だろうさ」
大総統夫人になるという願いが叶わなくて、残念だなあ…と呟くヒューズは、とても楽しそうだった。
「…これでもう、結婚話を持ち込んでくる輩はいなくなるから、清々するよ」
と、安堵したようにロイは呟く。
「だろうな。こんなにはっきりと、皆の前でエドを披露したんだからな。これで他の縁談話を勧めてきたら、そいつは出世の道を絶たれたのも同然だ」
流石にそこまで愚かな者はいないだろうと、ロイもヒューズも踏んでいた。
皆、自分の現在の地位が大事だろうから。
「だがな、ロイ」
「うん?」
突然表情を硬くしたヒューズが、改まってロイを呼ぶ。
「ジジイどもはこれで牽制出来たとしても…油断するなよ。中には、権力の恐ろしさに気づかない馬鹿や、普段は分かっていても、カッとなってとんでもないことをやらかす奴等もいるんだからな」
「その点は、十分注意するさ。無事、結婚式に漕ぎ着けるまではな」
ロイはきっぱりと言い切り、それまで二人の遣り取りを聞いていたエドワードに顔を向ける。その時の彼は、うってかわって優しい眼差しをしていた。
「…そういうことで、エディ」
「えっ…オレ…?」
いきなり話を振られて、驚く。
「とりあえずは将軍達に知らせたが、後々には国全体にも知らせないといけない」
「…だよな。大総統、だもんな…」
その結婚が決まったとなると、大々的に発表せざるをえないだろう。
その覚悟は、エドワードも出来ていた。
まだ今一つ、自分が大総統夫人になるということは、ピンとこないけれど。
「国民に知らせるのは、もう少し後になる予定だ。将軍達にも公にはするなと言い含めているから、まずそれまでは比較的自由に動けるだろう」
「ということは、発表後は自由に動けなくなるってことだよな?」
「…だろうと思う。報道関係が四六時中うろつくだろうから…今のように気軽に動くことはできなくなるだろうね…」
「結婚式までは、かなり過熱に報道するだろうから、覚悟はしておいた方がいいぜ、エド。それに、余りうろつかない方がいい。トラブルが起きたらいけないからな」
「…何だか、窮屈になりそう」
エドワードはげんなりとする。
「すまないね、エディ」
「いいよ。ロイが謝ることなんてない。オレが、決めたんだから」
ロイと結婚することを。
そう、決意した時から、覚悟は出来ていた筈だ。
どんなことになっても、ロイとは決して離れないと。
大変になるだろうが、その状況を全て受け入れて、ロイと生きて行くのだと、エドワードは決めていた。
だから。
「……発表後は、迂闊に動けないだろうから、今のうちに済ませておかないことはしといた方がいいだろうなあ…」
「あ、そうしといた方がいいぜ、エド。発表後は、必ず護衛と報道関係がくっついてくるだろうからな」
「うん、そうするよ、准将」
「今のうちにしないと…って、何をだね、エディ?」
「うん…いろいろと…な」
ロイの質問に曖昧に答えたエドワードは、照れ臭そうに笑ってそれ以上はっきりと答えることはなかった。
婚約編、とでも言いましょうか。これから結婚編へと続くのですが…遅々として進まず、です。いつになったら終わるんだろう…。っていうか、サイドストーリーなのに、こんなに長くなってしまうなんて…。完結したら、オフで1冊出せるかも…。今回、久々にヒューズさん書けて嬉しいです…。彼、既にエドのパパ的存在ですな。そういうのって好きです。