Schlussatz side story -11-   accelerand1



 ロイの腕の中で抱き締められて。
 誰よりも大好きな彼からのプロポーズを受け入れて。

 やっと、自信を取り戻して、落ち着いた頃を見計らったかのように。


「……エディ、これから少し、付き合ってもらって構わないか?」


 細身の愛しい恋人を抱き締めていたこの国の大総統は、彼女の顔を覗き込んで尋ねてきた。

「う、うん…。いいけど…」
 一体、何に付き合うのかと尋ねる間もなかった。
 ロイはエドワードの返答を聞くやいなや、抱き締めていた腕を解き、それでもエドワードの右手は繋げたままで、突然執務室から出て行ったのだ。
「―――少佐」
 手を繋いだままで、ロイは隣室へとノックもせずに入り、その場にいたリザを呼ぶ。
「…何でしょうか、閣下?」
 突然の訪問に、彼女は驚きもせずに涼しい顔のままで応じる。だがそんな彼女も、ロイと一緒に入ってきたエドワードを見て、全て悟ったようだ。彼女にだけは、優しく微笑んだ。
「現在中央にいる将軍達は、まだ大総統府にいるか?」
「はい、恐らくはまだ…。先刻会議が終了した所ですので、まだ各々の部屋にいるものと思われますが」
「至急、先程の会議室に皆を招集しろ。私が、緊急に知らせておきたいことがある、と」
「承知いたしました」
 リザは敬礼して応じ、すぐさま命令を遂行するべくきびきびと動き始めた。そんな彼女と共に、室内にいたハボック達も手伝いに走り出す。
「……なあ、ロイ…」
 てきぱきと動くリザ達の姿を見つつも、今一つ事態が飲み込めていないエドワードは、隣に立つロイを見上げて呼んだ。
「どうした、エディ?」
「…将軍達を呼んで、どうするんだ?」
 少し、不安そうに尋ねる。
 実際、不安だった。
 自分に付き合ってくれと言ったロイが、突然将軍達を招集したのだ。何か関わりがあるのだろうかと思い、心配になったのだ。
「ああ、エディは心配することはないよ」
 だが、ロイは、エドワードを力づけるようにきっぱりと言い切る。
「君は、今は何もしなくていい。少しの時間、私に付き合ってくれれば、それでいいよ」
「う、うん……」
 愛しい人にはっきりと言われては、まだ少し不安が残っていても、頷くしかなかった。
「閣下」
 不意にそこへ、リザの声が飛び込んでくる。
「どうだった?」
「全員、参集いたしました」
「そうか」
 満足そうに頷き、再度エドワードの顔を見て微笑む。
「…では、行こうか、エディ」
「……うん…」
 まだ、ほんの少し不安だったけれど。
 『大丈夫だ』、と言うように微笑み。
 力づけるように握り締めてくるロイの手の温かさに励まされて。
 エドワードは1つ、深呼吸をすると。
 彼の手を握り返して。 
 ロイに向かってふわりと微笑んだ。

 『大丈夫だ』
 と。
 

 2人が会議室に入った時、室内にいた将軍達の視線が2人に向かって一斉に集中した。
 その視線には、明らかに、ロイと共に入ってきたエドワードを見て、興味津々と言った意思が露骨に表れていた。
 このような、大総統府という軍の中枢部に、可愛らしい服装の美少女がいるのだ。
 しかも、大総統に連れられて現れた。
 それだけで、将軍達の関心を集めるのには十分な要素だろう。
 だが、関心の的となっているエドワード本人はといえば、彼等からの視線の集中砲火にいたたまれなかった。ロイがいなければ、きっと即座にその部屋から出て行きたい衝動に駆られただろう。
 だから。
(……あ、ヒューズ准将も…)
 他の者達とは違う、優しい視線を感じてそちらを見ると、ヒューズが笑って軽く手を上げた。
 その笑顔で、ほんの少し、緊張が和らぎ、エドワードの顔に笑みが浮かぶ。
 その時の、花が綻ぶような笑顔にも、将軍達が目を奪われていたことを、当のエドワード自身は全く気づいていなかった。

「急に呼びたててすまなかった」
 ロイはエドワードを連れて、大総統の席の前に立つ。
「急ぎ、皆に伝えておきたいことが出来たのだ」
 低く落ち着いた、だがよく通る声が静かな会議室に響く。
「………閣下、その伝えておきたいこととは、一体…」
 ロイより遥かに年長の、老齢の域に入っている最年長の将軍が、皆の意思を代弁して問う。
 その質問に対し、ロイは即座に答えた。
 隣に、所在無げに立っているエドワードを引き寄せて。
 その華奢に見える肩に、そっと手を置いて。

 きっぱりと、彼等に向かって言い切った。



「紹介しよう。この国の、ファースト・レディになる人だ」










 新章突入です。でもまだまだ終わりは見えてません。頑張ります。
 だって、まだ結婚すらしてないですもの…。これからまだまだいろいろありそうです…この2人。