わかったのは、いつの頃だったかな…。
元々、目鼻立ちが整っていて、目立つ風貌だった。どっちかといえば、綺麗な容貌だと思うけど、なかなかそんな風に見えないのは、兄さんの性格故だと思う。
その性格のお陰で、様々なトラブルに自ら巻き込まれていっちゃったけど、反面兄さんの風貌目当てに近寄ってくる輩を全て無意識のうちに排除していたから、それはそれで良かったと思う。
誰もあんなミニミニ暴走台風を、リスクをしょってまで口説こうなんて、思わないもんね。身の危険を感じたのか、興味はあっても、実際に兄さんに色目を使う身の程知らずは皆無だった。……それに、ボクもさりげなくガードしてたし。その時は、自分の鎧姿が役に立つもんだと喜んだんだ。
でも………
兄さんの雰囲気が変わったのは、いつの頃だったかな…。
山猿みたいなのは相変わらずだけど、時折ふっと大人びた表情をする。
考え事をしているかのように、遠い目をしたり…たまにため息ついたり。それから突然顔を赤らめたり。
そんな変化が目に付きだして、ボクはより一層注意深く兄さんの様子を見るようになった。
そして…その変化の理由がわかったのは、ほんの偶然。
イーストシティで例のごとく文献漁りをしていた時のこと。
「オレ、先に東方司令部に行って挨拶してくる。『ここに来たのに顔も見せないのか?』なんて嫌味言われたくないからな」
ボクより先に、文献を捜すことに厭きた兄さんはそう言い訳めいたことを呟くと、図書館から出て行ってしまった。
…やれやれ。興味を引かれる文献があったら、いくら呼んでも返事すらしないくらい集中しているのに、それがなかったらすぐに厭きてしまうんだから。
ボクは仕方なく、1人で文献を読み、それが終わってから東方司令部に向かった。
図書館の外に出ると、今にも雨が降りそうな、どんよりとした雲が空を覆っていた。
「…朝はあんなに晴れていたのに」
ボクは、自然足早になる。この鎧の身体だから、濡れても寒くはならないんだけど、錆びてしまうのは避けたかった。後の手入れが大変だからね。
その後は駆け足になってしまい、何とか雨が降り出す前に東方司令部に到着したのだけれど……。
「あ…れ…?」
東方司令部の建物内が、妙に静かだった。いや、普段はうるさいというわけでもないんだけど、いつもなら必ず目につく兵士の姿が皆無だった。
「どうしたのかな…?」
不思議に思いながら、ホークアイ中尉達の部屋に行っても…そこはもぬけのから、だ。
「何か事件でもあったのか…な?」
となると、先にここへ来ている筈の兄さんはどこに…?いくら東方司令部では顔パスになってるとはいえ、訪れる先は限られていた。
「ここにいないということは……」
最後に考えられる場所は、あそこだけ。
ボクは、ここの実質上のトップ、マスタング大佐の執務室の扉の前に立つ。
兄さんは余りこの部屋に入りたがらないけど、いる可能性があるのはもうここしかない。
ボクは扉をノックしようとした……時。
「………大佐……」
扉越しに、兄さんの小さな声が聞こえてきた。やっぱり、ここにいたんだ。
どうやら、大佐も中にいて、2人で話をしているみたいだ。常日頃、ウマが合わなくて衝突しあっているにしては珍しいな…。
一体何を話しているんだろう…。
兄さんと大佐の会話に興味を持ったボクは、ノックはせずにそっと扉を少しだけ開く。
扉の真正面には、大佐の机が置かれていて、その手前には来客用の応接セットがある。そのソファに座って、二人は何か話していた。
へえ…珍しいな。大佐が自分の机で話さないなんて。普段なら、ソファに座って話をすることなんてしない彼が、今は兄さんの隣に座っていた。
「…ったく、上司が留守番やってていいのかよ?」
「構わないよ。事件といっても、交通事故のようだし。それに、この天気では、私は役に立たないだろうからね」
「ああ、雨の日は『無能』だったよな?」
またまた兄さんっ、そんなこと言って!少しは言動に配慮してくれないと、ハラハラするのはボクの方なんだよ!いつも心臓に悪いんだから!……って、今のボク、心臓なかったんだっけ。
「そうだな。私がいない方が、はかどるだろう」
だけど大佐は兄さんの言ったことに対して怒ることもなく、笑っていた。…やっぱり大人だなぁ、大佐。
「だが、この天気に感謝しないといけないな。晴れていたらこうして、鋼のとゆっくり話も出来なかったよ」
「ふんっ、少しは仕事しろよな!中尉に銃口向けられないくらいは」
「…相変わらずだな、鋼のは」
兄さんの口の悪さには慣れているのか、大佐は全く動じない。
動じずに……見ているボクが動じることをやってくれた。
あろうことか兄さんの腕を掴んで引き寄せると、顔を上げさせて唇を重ねたんだ…!
た、大佐……何てことを!
そんなことしたら兄さんキれちゃう〜〜〜!
っていうか、まず、兄さんに何てことを!って怒るのが先だったか。
だけど。
「…もう!いつもいきなりだからな…!」
え………?いつも…?
「心の準備くらいさせろよっ」
……今、何て?兄さん…?
「すまないな。余りに君が可愛かったから…」
「いつも同じことを言うな!」
「可愛いのだから仕方ない」
「可愛い可愛いって言うな!」
兄さんは顔を真っ赤にして怒っているけど……ボクにはどうあっても単なる痴話喧嘩にしか見えないよ。大佐も、兄さんが本気で怒ってないことをわかっているから、笑って受け流しているし。その普段は澄ました風の顔は、今は『愛しくてたまらない』って感じで目尻が下がっているように見えた。
ああ…そうだったんだ。
ボクは、やっとわかった。
兄さんの、最近の変化の原因が、これだと。
兄さんの態度がそわそわしていたのも、ため息をついていたのも、そして…妙に何となく綺麗になったのも。
全て、大佐とこんな仲になったから。
どうしてこの2人が…っていう疑問は残るけど、2人ともお互いのことを想っているのは確かみたい……だし。
何より、兄さんがとても嬉しそうだから。口からは相変わらず、好きな相手に対してとは思えないくらい、ぽんぽんと容赦のない言葉が出ているけど、それでも笑顔だから。
兄さんの言葉を聞いている大佐の顔も、穏やかに笑っているから。
ボクに見せる顔とは、少し雰囲気が違っているのは、ちょっと寂しいけど…ね。でも、兄さんが幸せそうだから、いい。
ボクよりも、ボクの分も、辛いことも苦しいことも背負っている兄さんだから。
ほんの少しの間だけでも…笑って…安らいでいてほしい。
ボクは、そっと扉を閉めた。
それから、中尉達の部屋に戻った。まだ事件が片付いていないのか、誰も戻ってきていない。
みんなが帰ってくるまで…ここにいよう。
それまで、2人だけにしておいてあげよう…。他に人がいたら、素直になれないから、兄さんは。
例えボクでも…だ。ボクの前だと、兄さんは『兄』になってしまうから。
せめて今だけは…大佐の傍にいる時だけは、1人の人としていてほしいから。
ボクは、部屋の窓から空を見上げた。
いつの間にか、暗い雲からは雨が降り始めている。
雨は苦手だけど…今だけは、降り続けていて欲しいと願った。
…ソマリさんからのキリリクリクエスト、です。『アルの視点から見た、ロイエド』の話でした。もっとラブラブにして、あてられてしまうアルなんて話にしようと思っていたのですが…シリアスになってしまいました。ソマリさん、いかがでしょうか?このお話は、ソマリさんだけお持ち帰りOKです。もらってやってください。リクエストありがとうございました!
…しかしこのアル、理解があるというか…。うちのアルは基本的に、『兄さんが幸せならそれでいい』ですからねえ…。
