『図書館』
「…もう、何すんだよっ、大佐!」
「しっ…あんまり大声を上げると、怒られるぞ。ここの司書は、うるさく騒ぐ輩には容赦がないからな」
「じゃあ、んなことすんなっ!図書館なんかで!」
エドワードは、ほんの少し濡れた唇を手の甲で拭う。
閉館間近の図書館。
その隅っこの書棚の間で、会話は続いていた。
「いや、鋼のが余りに隙だらけで読書に熱中していたからね、つい…」
「図書館では本を読むものだろーが!」
少なくとも、背後からいきなり抱き締められて、振り向きざま唇を奪われるような場所ではない。
「いけないな、鋼の。君は常に狙われているのだから、このような軍の施設内にいても常に注意を払っておかないと。特に今は、アルフォンス君もいないのだから」
「はいはい、ここに約1名、悪さをする輩がいるもんな。せいぜい気をつけることにしますよ」
この、目の前に立つ男には何を言っても無駄、言うだけ損だとこれまでの付き合いで十分理解しているエドワードは、さっさと不毛な会話を切り上げて、読んでいた本を閉じる。
「おや…もう読み終わったのかい?」
「誰かさんが邪魔して落ち着いて読めないから、借りて帰る。この本は、持ち出し禁止じゃないしな」
と言いながら、他にも数冊本を選んで受付まで持っていこうとした。
が、それもたった数歩で止められてしまう。
ロイがぐいっとエドワードの左腕を取って、引き止めたために。
「もう…まだ何かあんのかよ!?」
振り向き、ロイを睨みながら見上げるエドワードを、図書館の窓から差し込む夕日が照らし出す。その光が彼の金糸と、金色がかった瞳に映え、一層それらを輝かせていた。
「……いや…ただ…」
一瞬その姿に見惚れていたロイは、すぐに返答が出来なくてうろたえてしまう。
「……ただ…?」
「あ…この後、私も仕事がないから食事でもしないか…と」
呟きながらも、エドワードから視線が離せない。
「へえ、珍しいじゃん。大佐が仕事残してないなんてさ」
感心したように言う。
「私だって、たまにはきちんと済ませる時もある」
「普通そーだろ…」
エドワードが当然の突っ込みを入れた。仕事をためて平然としている人間の方が少ない筈なのだが、目の前のこの男は、平然とするばかりだけでなく、ふんぞりかえっていた。
「…ま、いいや。仕事をきちとんと済ませたご褒美に、付き合ってやるよ」
苦笑を浮かべて、エドワードは承諾することにした。仕事を残さず済ませるなど、ロイにしては本当に珍しいことだから。
しかし、申し出を受け入れられて、嬉しそうに顔を綻ばせているロイに、しっかり釘を刺すことは忘れなかった。
「それと、さっきのキスの代価として、今日はご馳走してもらうからな」
「……キスの代価、と…?」
「そう!オレとのは、安くないからな、大佐。等価交換、だろ?」
「…鋼の……私達は一応恋人同士だと思っていいのだろうか?」
その恋人からのキスにも、代価を求められるとは思っても見なかった。
「不意打ちのキスは別!同意の上なら等価交換成立だけどな」
と言ってニッと悪だくみを思いついたような笑みをロイに向けてから、エドワードは受付へと向かった。
「さぁ〜て、夕食は何がいいかなあ…」
と、嬉しそうに独り言を呟きつつ。
「……やれやれ」
その小柄な後姿を見つめながら、ロイもまた口元に苦笑を浮かべていた。
自分がからかっていると思っていたら、いつの間にかからかわれてしまっていた。
だが、それもエドワードが相手だと、怒る気も起きない。ただ、一層愛しさが募るだけだ。
「これも、惚れた弱味とでも言うのかな…」
ぽつりと漏らし、エドワードの後を追う。
夕食をご馳走することで、キスの代価を払えば、ロイにはもう負債がない。
その後は対等の立場になって、同意の上で等価交換をしようと目論見ながら、エドワードと並んで図書館から出て行った。
…これって結局どっちの勝ち?ってな話になってしまいましたが。やっぱりロイの勝ちかなあ、結果としては。
図書館ネタは、もう1つあるのですが、そちらは裏行きの話になりそうなので、裏が出来てから載せるかも…です。
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