『距 離』
カタンカタン……
それは、線路の繋ぎ目を走る、汽車の音。
旅をする自分達にとっては、既に馴染んでしまった、音。
(……でも、どこか違う…?)
いつもの汽車の音とは、どことなく違う。
だけど、その音に、聞き覚えがあった。
(どこ…で…?)
何故だか、思い出したくて。
必死で記憶を手繰り寄せると。
(……ああ、あの時…)
呆気なく、思い出すことが出来た。
それは、ほんの少し前の、記憶だったから。
(大佐と行った……サーカス…)
イーストシティに、かなり有名だというサーカス団が来ていて。
エドワードと、アルフォンスは、ロイに誘われてそれを見に行った。
(…楽しかったな)
評判どおり、素晴らしかった。
2人はずっと、魅了されっぱなしだった。
(空中ブランコ…綱渡り…踊りに歌…)
全てが、一流に相応しい技の数々。
人々の目は、ステージに釘付けだった。
(……でも、オレは…)
エドワードが、一番気になったのは。
空中ブランコの終わった後の、幕間。
(あれって…確か、『パントマイム』って言ってたっけ…)
大佐に教えてもらった言葉を思い出す。
『パントマイム』という言葉を。
(そう…。ピエロが、旅人に扮していて…)
恋人と別れ…長い旅路の果てに、再会するという恋物語。
それを、一切そのピエロは台詞を言うことなく、動きだけで見事に演じていた。
カタンカタン…
(ああ、この音は…)
ようやく、思い出した。
この音は、『パントマイム』の間中、静かに響いていた音だと。
カタンカタン…
再び汽車に乗って、恋人に会いに行く時の、音だと。
カタン…カタン…
その音は、少しずつゆっくりとなって…
やがて、止まる。
その時は、恋人同士が再会出来た、瞬間。
2人の距離が、最も縮まった瞬間。
ほら………
オレ達みたいに……。
オレ達も……離れて…
そしてまた、近づく。
「……鋼の…?」
握り締める、大きな手。
抱き締める、力強い腕。
オレにだけ、優しく微笑む、漆黒の眼差し。
オレを包み込んでくれる、温もり。
「大佐……」
オレ達の距離は、ない。
この瞬間、だけは。
だから、ほら…。
もう、レールの音は聞こえない。
5万ヒットありがとうございます!のフリー小説です。どうぞお持ち帰りくださいませ〜。
ちなみにこのパントマイムの元ネタ…分かる方いらっしゃいますか?私は、この夏見ました。遠野師匠とソマリさんと一緒に。…素晴らしいの一言でした。