『差』
「……大佐、オレのこと好きだろ?」
真昼間。
しかも、執務室での仕事中にする会話ではないことくらい、よく分かっている。
だから、敢えて言ってみたかった。
室内には、大佐だけでなく、部下の面々も勢揃いしていたから、尚更だ。
「……大佐、オレこと好きだろ?」
こんな、場違いな雰囲気の中で聞いたら、相手はどんな反応を示すのかな、なんて思って。
ふと、考え付いたこと。
いつも言葉では負かされっぱなしのオレ。
だからたまには…意趣返し、なんてしてもいいだろ?
報告書を届けにきた今日、珍しく仕事に励んでいる大佐の姿を見て、思った。
2人だけだったら、オレが負けるのなんて目に見えてるから。
いつもの通り、甘い声で…甘い言葉を囁かれて。
それだけで、オレの負け。
後はいいようにされてしまうことくらい、分かっているから。
今が、チャンスだった。
他のギャラリーがいる場所で、大佐はどう答えるだろう?
「……いきなり、何を言い出すんだ、鋼の?」
…大佐、ちょっと焦ってる?
ちら、とオレの顔を見て、それからすぐに目の前の書類に視線を戻したけど。
その目は驚きの眼差しをしていた。
「何って…聞きたいだけ。オレのこと好きなんだろ?」
大佐の反応が面白くて、オレは質問を重ねる。
「今は、答える暇などないよ」
言外に、後で答えようという含みを持たせているみたいだけど、そんな返答なんかで許すもんか。
「今、答えてよ。オレのこと好きなんだろ?」
なあなあ、と大佐の机の前まで来て、ねだってみせる。
室内にいるほかの人達は、この成り行きを面白そうに眺めていた。ひょっとしたらホークアイ中尉に怒られちゃうかなあ…と一瞬考えたけど、今日は然程仕事が溜まっていないのか、苦笑を浮かべて見て見ぬ振りをしてくれていた。
…よし、これで邪魔する人はいない!
存分に大佐をからかえる!
「…なあ、大佐。答えてよ」
顔を覗き込み、ねだれば。
大佐は、珍しく困ったような顔をして口を開いた。
「鋼の。大人をからかうのもいい加減にしなさい」
まるで子供をたしなめるような言い方に、オレはカチンときた。
「…何だよ、その言い方!はっきり答えろよ!」
「鋼の…ここでは…」
「言えないっていうのかよ!オレは言えるのにか?」
大佐は、呆れたように溜息をついている。
もう、完璧に怒った!
「オレは言えるぜ。……オレは……大佐のことが…嫌いだッ!」
ふんっ!
これくらいは言わせて貰わないと腹の虫が治まらないぜ。
あーっ、すっきりした。
「じゃなっ!」
言うだけ言って、執務室から出て行こうとすると。
ガシッとオレは腕を掴まれた。
「え……?」
掴まれて、振り向くと。
そこには……。
オレの腕をしっかりと掴む大佐がいた。
「……君の気持ちは、よく分かったよ、鋼の」
あの……怖いんですけど、大佐。顔は笑っていても、目は笑っていないから。
「だが君は、私の気持ちをよく理解してくれてないみたいだね。その辺をよーっくわからせてあげようか?」
「え……?」
な…んだか…怒って…る、大佐…?
オレは逃げたくなったが、大佐の腕がそれを阻む。
「…これから、じっくりと…ね」
「えっ…いや!いいですっ、遠慮しときますっ!」
逃げよう!
そうしないと、とんでもなくヤバイ気がする!
オレは大佐の腕を振りほどこうとしたけど。
敵の方が上手だった。
掴んだ腕を引き寄せて、あっという間に軽々とした仕草で、オレを抱き上げたのだから。
「ちょっ……下ろせよ!」
「鋼の、これからじっくりと、私の気持ちをわからせてあげようか?」
オレを抱き上げたまま、にっこりと笑う。
その顔は、オレにとっては悪魔の微笑にしか見えなかった。
「いいっ!遠慮しときます!」
「人の好意は素直に受けたまえ。…というわけで、中尉。これからの仕事は明日まとめて必ず終わらせるから」
「……承知しました」
「中尉……っ!」
てっきり止めてくれると思いきや、あっさりと引き下がられてオレはますます追い詰められてしまった。
「緊急を要するものは、さっき全て終えられてしまったのよ。ごめんなさいね、エドワード君」
だから、中尉には今の大佐を止めること出来ないというのか…。
オレはここに至ってようやく、自分で地雷を踏んでしまったのだということに…気づいた。
「私の気持ちを疑うとは…。これからじっくり、分からせてあげるよ、鋼の」
「やだ!分からなくてもいいから下ろせよっ!」
腕の中で暴れるが、大佐は平気な顔をしてびくともしない。
それが、オレと、大人の大佐の差のような気がして…悔しい。
だから、ついからかってやろうと思っただけなのに……。
オレは、その後大佐にお持ち帰りされてしまって。
大佐の家で、嫌と言うほど分からされてしまった。
オレと、大佐の『差』を。
結局、からかうどころか、いいように翻弄されてしまって。
またしても、悔しい思いをしてしまったけど。
それでも…本気で嫌いになれないのは……。
やっぱり好きだからかな……?
『ハガレン放送局』を聞いていて、ふと思い浮かんでしまった話です。
いやあ、大川さんがゲストの時は楽しかった!朴さんノリノリで。ロイエドにはたまりませんでしたよ。腰砕けで聞いていました。大川さんもエロボイスでしたし。やっぱりああいう声って大好きです〜。
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