『1年目』
初めて出会って4年。
いけすかない。
どう転んでも好きにはなれない人種だと。
第一印象からしてそう思っていた。
そもそも軍人だから『好き』という範疇には入っていなかったにしても、馬が合わない人間だと、子供心にも敏感に感じ取っていた。
それでも、国家錬金術師として生きるためには、どうあっても接していかなければならない相手であったので、人間瞬間湯沸し器である自分にしては、数々の嫌味や皮肉を言われた時も、それなりに我慢していた筈だ。
一応、上司と部下というだけの関係を維持し続けるために。
そんな、非常に割り切った関係をエドワードは望んでいた筈、なのだが。
「……どうして、こんなことになっちまったんだろう…」
はあーっと深いため息をついて、隣で熟睡しているロイの顔を見上げる。
エドワードを抱き締めているロイの眠りは、既に抱き枕と化しているエドワードが身じろぎすら躊躇われてしまうくらい、静かなものだった。
「どうして…かなあ…」
眠っていればただ端正なだけのロイの顔を見ながら、エドワードはぼんやりと考えた。
こんな、一緒に眠るような関係になって、そろそろ1年。
相変わらず、会えば嫌味の1つや2つ…それ以上も出てきて、つい喧嘩になってしまうのだが、それがコミュニケーションの一環となってしまっていた。互いの性格をよく分かっているからこそ、好き放題なことを言えた。言うだけ言うと、その場で喧嘩は打ち切り、後に引きずる事もない。そんな、ある意味心地よい関係になって、1年もたつことに、エドは気づいた。
「…今だって、嫌味言い放題だし、無理難題も押し付けてくるし、押し付けてきては自分の仕事サボるし…」
1年の間に、ロイから受けてきたことを思い返し、指折り数える。
「それに、外面いいだけで、実際はものぐさだし…。頭いいとか切れ者とか言われてるけど、本当にそうかっ!?って思ってしまうくらい無能なとこもあるし…」
振り返ってみれば、散々な目にしか遭っていないことに気づく。それなのに、どうしてこういう、いわゆる甘い関係になってしまったのか。
「人生って…わかんねぇ…」
未だ齢15にして、既に達観した口調になってしまった。しかし、達観したからロイを受け入れたということでは決してないことくらい、エドワードも分かっていた。
「…人生とはそういうものだよ、鋼の」
考え込んでいたエドワードの頭上から、柔らかい声が響く。
「た、大佐……起きてっ!」
降りかかって来た声で、エドワードは顔を真っ赤にして飛び起きようとした。だがそんな彼の反応を見て笑いながらも、ロイは抱き締めるのを止めない。じたばたともがくエドワードを、しっかりと腕の中に納めたまま、再度口を開く。
「私も最初は、小生意気なガキだから苦手だと思っていたのだが、ね。それがどうしてこうなってしまったのか…」
「いやなら別れたっていいんだぜ!」
「とんでもない」
きっぱりと、ロイは言い切る。
「こんな小生意気な子供だと承知で好きになってしまったのだから。今更別れるつもりはないよ。君も同じだろう、鋼の?」
「………」
否定する言葉すらも見つからなくて、エドワードは顔を真っ赤にしたまま黙るしかなかった。
「ああ、こんな我々にぴったりのことわざが、確か東の島国にあるそうだな」
「何だよ、それ?」
「『蓼食う虫も好き好き』だそうだ。辛い蓼の葉を好む虫もあるように、人の好みはさまざまだという意味だよ、鋼の」
「…ぴったりすぎて、シャレになんねぇ…」
疲れたように呟くエドワードを見て、ロイは笑いながら更に抱き締めた。
2人が恋人という関係になってもうすぐ1年のとある日。
他愛ない会話はなおも続いていた。