『火傷』

「大佐…これ……」
「ん……?ああ……」
 ロイは、エドワードの視線の先を見て、苦笑を浮かべた。

 久方振りの逢瀬の後。
 ひとしきり抱き合ってから。
 やっと余裕を持って、隣にいるロイを見ることが出来たエドワードは、ベッドサイドの小さな明かりに照らし出される『それ』を見て、眉をひそめた。
 ロイの、脇腹に広がる、火傷の痕。
 引き攣れたようなそれは、まだ出来て真新しいのか、赤みがかっていた。
「……こんなに、ひどかったなんて…」
 エドワードも、事の顛末はリザとアルフォンスから聞いていた。
 大体、あの、ロイ・マスタング大佐が重傷を負って入院しているともなれば、何かがあったのだと考えるしかない。
 その時、セントラルを離れていたエドワードは、旅先でその一報を聞くやいなや、矢も盾もたまらずとんぼ返りしたのだ。
 しかし、当の本人はといえば。
 一週間程入院しただけで、あっさりと退院してしまっていた。
 まだ安静にしてほしいと渋る医師達を説き伏せての、強引なものだったらしい。
「…見た目ほど、ひどくはないよ」
 しかし当の本人はといえば。
 周囲の心配をよそに、相変わらず飄々とした口調で煙に巻こうとした。
「…すぐに焼いたからね。出血もひどくなかったし」
「でも、無謀だ」
 エドワードはきっぱりと言い切る。
「こうするしかなかったからね、あの時は…」
 再び立ち上がるためには。
 立って、ホムンクルスを跪かせるためには、ああするしかなかった。
「こんなに、後先考えない奴だとは思ってなかったぜ…」
 エドワードは、じっと火傷の痕を見つめながら呟く。
 こんなに酷く、自らの手で焼いたのだ。どれ程の激痛だったかくらいは、分かる。
「…ったく、オレには無茶をして怪我をするなって、しょっちゅう言ってるくせに」
「だが、君の方が、怪我は多いだろう?」
 ロイの指が、エドワードの左腕につけられた、真新しい切り傷にそっと触れる。

「君の傷を見る度に、心配でならないよ…」
「なら、オレの今の気持ちも分かるよな?」
「……鋼の?」
 ロイの目が、驚きに見開かれる。
 エドワードの唇が、そっと傷口に触れたために。
 触れるだけのキスを、その火傷の痕に落としていた。

「……あんまり、心配かけんな」
 キスをして、傷口に響かないようにそっとロイの胸元に抱きつく。
「オレだって…もう誰かが死ぬのを見るのは御免だ…」
 守ることができなくて、むざむざ死なせるなんて…それを見てるだけなんて、したくない。
「……
エド」
 腕の中で、ほんの少し肩を震わせている、小柄な恋人の名を呼ぶ。
 すると、腕の中の少年は。
 ぽつりと小声で呟いた。
 ロイだけに、聞こえる声で。


「死ぬな、ロイ」
 オレの知らないうちに、死ぬな。

「……死なないよ、絶対に」
 君のいない場所では、死なない。

 この、火傷の痕がその証。
 どんなに傷ついても生きようと思った、証だから。


 …君と共に生きるという、証だから。








 妄想大爆発!第2弾です。今回は、原作ネタ。ロイのかっこよさにクラクラして、出来た話です。ロイの怪我を知ったエドはどうするか?なんて話を無性に書きたくなっちゃいました。…しかし、実際エドはこのことをまだ知らないんでしょうね。次くらいには出てくるのかなあ…、主人公。