『最後のキス』

 手を差し出された時。
 握手なんかしないで、軽くはたいた。


『さようなら…』


 そう、別れの言葉を呟いて、背を向けて走り出した。
 ロイとは、反対の方向へ。
 走って…走って…。
 振り切るように。
 ロイを…。
 オレの未練を。


『ついてくるな?』


 ほんとは、ついて行きたかった。
 行くって言いたかった。
 でも、言えない。
 オレのやるべきことは、他にある。まだ、残っている。
 それを全て終えないと…オレ達は、安息の日を迎えることは出来ない。
 だから、言えなかった。
 ロイの顔を見れなかった。
 ずっと正面を見ていた。

 ロイは、オレのそんな気持ちを分かってくれたのだろう。
 それ以上は誘うこともなく、オレを途中で車から降ろしてくれた。
 ほんとは…ずっと乗っていたかったけど。
 でも、それは無理。
 オレ達の目的は、違うから。
 目指す場所が、違うから。
 その後に起こるかもしれない結果は、同じになるかもしれないけれど、今は違うから。

 オレの走るのとは反対方向へ、車が進んでいく。
 そのエンジン音は、どんどん小さくなっていった。

 そしてオレは。
 その音が聞こえなくなって、ようやく足を止めることが出来た。
 振り向いても、その先には何もない。

「ロイ……」
 オレは、もういないあいつを呼ぶ。
 オレの心の、アル以外の全てを占める、あいつを。


 ……ほんとは、握手なんかじゃなくて。
 キス、してほしかったな。
 恋人としての、最後のキス。
 そうすれば…こんなに未練が残らなかったかも…。

 それとも、しなかったのはロイの作戦…?
 未練を残しては、逝けないと…そこまで読んで?
 ロイなら、やりそうなことだな…。

 オレだって…犬死にをするつもりなんて、絶対にない。
 けれど、オレの目的を果たすために、オレの命が必要ならば、躊躇うことなく差し出すだろう。
 それは、ロイだって同じだ。
 お互い…やろうとしていることは、それ程に重いことだから。
 覚悟しているから。

 でも……こんな時でも、思ってしまう。
 もし…もし…生き残ることができたら。
 お互いに、生き延びることが出来たなら。
 その時は、オレから。

 オレから、キスしてやるよ。


 オレの、とびっきりの笑顔を添えて。
 最後から続く、未来へのキスを。






                   


 妄想大爆発!な話です。あの回の車中のシーン、ロイエドにはプロポーズにしか見えませんでしたよね?エドってば分かってるくせに…などとテレビの前でキャーキャー言ってました…。アニメのロイはすごくエドラブラブだけど、エドの方は…あんまり出てないような気がして、ついこんな話を一気に書いてしまいました。…いえ、エドも好きなんだろうけど(断言!)。