『故郷』
1人で寝るのは、嫌だったから。
気づけば、そっと背中越しにオレを抱き締めてくれている大佐と、1つのベッドにいた。
あーあ、よりにもよって、こんなとこでやっちまうなんて…。
ここは、大佐の家でもなければ、見知らぬ場所の宿でもない。
オレ達兄弟の故郷、リゼンブール。
そこにある幼馴染の、機械鎧技師の自宅兼工房の1室だ。
リオールから逃亡者となってしまったオレ達兄弟を匿ってくれる家に、追いかけてきた大佐達といるなんて奇妙な状況になっちまったけど。
今夜はそれがありがたかいと、ほんの少し思ってしまった。
今夜は…1人では眠れないだろうから。
今頃アルは、あのクソ親父と楽しそうに話をしていると思うと……悔しくて…やるせなくて。
ああ、また怒りがこみ上げてきた。あの時、もう少し殴っとけば……!
「……眠れないのかね?」
てっきり眠っているとばかり思っていた大佐が、背後からゆっくりと腕を伸ばしてオレを抱き締めてきた。
「あれだけ散々泣かせたのに……。疲れてないところを見ると、物足りなかったかな?」
と言いつつ、オレの胸元に悪戯を仕掛けてこようとする。
「ちがうってば…!その手止めろって…」
あれだけやれば十分だっ!これ以上したら、明日起き上がれなくなっちまう!
「……寝られないほど、外の2人が気になるのか?」
「べ、別に……」
大佐はそれ以上悪戯をするつもりはないようだ。あっさりと手を離し、オレをただ抱き締めてくれる。
「…同族嫌悪ってやつかな?」
「何だよ、それ?」
「いや…。どちらかといえば、君の方が、父親に似ているかな…と」
「あんなヤツになんか、似てねぇっ!」
カッとなって思わず飛び起きる。すると腰から鈍い痛みが起き、すぐにベッドへ突っ伏してしまった。
「ああ、無茶はいけないぞ、エド」
「誰がさせたんだ、誰がっ!」
「大声で叫ぶな。他の部屋に聞こえる」
そう指摘され、オレは再び大人しくベッドの住人になった。
「…オレは、あんなヤツになんか似てない」
もう一度、同じ事を言う。自分に言い聞かせるように。
「…確かに、容姿は瓜二つとは言いがたいね。父上は背も高くて体格もいいし…」
「どーせオレは、いつまでたってもどチビですよーだ」
「だが、錬金術の本質は似ていると思うよ」
「……あいつの、見てもいないのに、んなの分かるのかよ?」
「分かるさ」
大佐は、はっきりと言いきった。
「君と、父上はよく似ていると思うよ。それに、ほんの少し話をしただけだが…かなりの腕前の錬金術師ということは、よく分かった。出来れば……もっと話をしてみたかったがね」
そうするには、時間がないと、大佐は悔しそうに呟いた。
「明日には…捜索の部隊がやってくるだろう。私はそれを引き止めて、そのままセントラルに向かうことになるだろうな」
「セントラルに…?」
オレは、大佐の顔を見るために、身体の向きを変えた。隣には、寂しそうな顔をした大佐が、オレをじっと見つめている。
「……大丈夫、なのか?」
逃亡者のオレを捕まえるどころか、捜索部隊を追っ払って、しかもセントラルに行くなんて。それこそ、上層部に叛意有りととられたら…。
「自分の恋人を、もっと信用したまえ」
オレが心配そうな顔をしていたのだろう。大佐は苦笑を浮かべて、オレの髪に指で触れてきた。
「私は、犬死になどせんよ。絶対に」
指が…頬を辿る。温かい、指。オレは、その指に自分のを絡めた。何となく…離したくなくて。
「大総統になるまでは、死ねないもんな…」
「その通り。そして、大総統となった暁には、君の父上にお願いするよ。『息子さんを私にください』って」
「何だよ、それ…」
オレは、笑った。笑わないと……無理にでも笑わないと、泣きたくなっちまうから。
「あのくそ親父の許可なんかいらねぇよ。オレは、オレの意志でこうなったんだから」
「じゃあ、私のところに来てくれるか?」
「その時が、来たらな」
その時。
何もかもが終わって…オレもアルも、元に戻って。大佐が、大総統になって。
戦争も内乱もない、平和になる、その時。
そんな時が訪れてほしい…。
そうなるように、したい…。
だけど。
「……大佐」
オレは、隣にいる大佐の唇に、そっとキスした。すると、ちょっと驚いたような顔をする。
「…何だよ?」
「いや、君からしてくれるなんて珍しいと…」
「オレだって、したい時くらいあるさ」
と言って、オレはそのまま大佐の胸の中に飛び込んだ。
これが最後だと思うと。
大佐をずっと…感じていたくて。少しでも長く。
「大佐……っ」
再び、熱くなっていく自分の身体を持て余しながらも、オレは止めようとは思わなかった。
だって、最後かもしれない…から。
ごめん……大佐。
約束、守れないかもしれない…。
オレは、その言葉を喉の奥で止めて、大佐に翻弄される。
果たせない約束。
オレの決意。
その事実を大佐に告げないまま、オレは行くだろう。
オレ自身の決着をつけるために。
だから。
ごめん……
唇をほんの少しだけ動かして、声を出さずに呟いた。
黙って行って…ごめん。
嘘ついて…ごめん。
約束守れなくて………
第44話を見て、無性に書きたくなったものです。もう邪推してくれと言わんばかりの展開。乗せられているなぁと思いつつも、止める事は出来ませんでした。ここのところ、毎週痛い展開で心臓に悪いです…。(でも見るのは止められませんけどね。)
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