『浜 辺』

「なぁ、大佐…」
「ん?」
 ある日の昼下がり。
 珍しく、2人して何も用事がなかった日。
 朝はゆっくりと起きて。(それは、昨夜遅くまで起きて、愛を交わすことに勤しんでいたことも起因するのだが。)
 午後からも、ごろごろとリビングのソファに転がって寛ぎつつ、のんびりと錬金術の文献を読みながらのことだった。
 ふと、その本から視線を外し、エドワードがロイを見て声をかけたのは。
 一方ロイはといえば、やはり暇つぶしで、途中までやりかけていたジグソーパズルに集中していた。こういった集中力を必要とするものを、普段から好んでやるような性格ではないのだが、たまにやるとつい、熱中してしまう。そのお陰で、パズルは今では8割方、完成していた。
「何だね。鋼の?」
 だがその集中力も、エドワードの声であっさり放棄してしまった。
「うん…あのさ。大佐は海、見たことある?」
「海…かね?」
「うん、そう」
「残念ながら、まだ見たことはないね。この国は四方を他国があるから、海を見るとなるとその他国へと行かねばならないからな」
「だよなあ……」
 やっぱり、という顔をして、読んでいた錬金術書をパタンと閉じる。
「どうしたんだね、突然海のことなど?」
「いや…この錬金術書に、海水使った錬金術が載っていたからさ。ふと海ってどんなんだろうって思って…。オレも当然見たことないし」
「この国の人間で、本物の海を見たことがあるという者は、数える程しかいないと思うがね。他国と親しく交流していればよいのだが、今はお世辞にもいいとはいえないし」
「だよなあ……」
「鋼のは、海を見てみたいのか?」
「うん……まあ…。この本にも、全ての生きるものは、最初は海から生まれたって書いてあるし…。生物の源っていうのを1度くらいは見たいかなって…さ」
 生命の起源である海という存在に、エドワードは心惹かれたらしい。
 いかにも、探究心の強い彼らしい興味の持ち方だと、ロイは心の中で笑った。
「この国が…落ち着いたら、他国との関係も、ぎくしゃくしたものではなくなるだろう。その時が来たら、一緒に海を見に行かないかね?」
「大佐と一緒に?」
 驚いたように、ロイを見る。
「ああ。他国を表敬訪問する、初の大総統と一緒にね」
「うわー、壮大な目標だな、それ」
 呆れたように呟く。だがその顔は、ひどく嬉しそうだった。
「んじゃオレは、その大総統のお抱え国家錬金術師?」
「それもあるが、大総統の恋人でもあるな」
「……相変わらず自信過剰」
「君は必ず、その位置にいてくれると信じているがね」
「――――」
 エドワードは答えなかった。だが、否定も拒絶もしなかった。
 ただ黙って、顔を赤らめている。
 それが彼の返事だと、ロイには分かった。
 だから。
 そっとエドワードに近づき、抱き締める。
「近い将来……そうしてみせる。君と、海に行けるように…」
「ロイ……」
「だから君も、その時までに、元に戻れるように…」
 そっと、機械鎧の腕を取り、口付ける。
「海は、塩水だからね。このままだと、錆びてしまうから…」
「……そうだな」
 エドワードは、怒らずくすっと笑う。
 冗談めかして言ったロイの言葉には、互いの目的を目指して進もうと。
 そんな意図を含んだものだということ、が分かったから。
「元に戻って…あんたと海を見たいよ」
 そのために、努力は怠らない。
 ロイの傍にいるためにも。
 そんなエドワードの決意に満ちた瞳を見つめ、ロイは唇をそっと重ねた。
 自分も、目標を達成するために、たゆまぬ努力をすると、誓うために。

 そして2人でいつか………海を見るために。





 …浜辺というよりは、海ですか。
 エドって、海を初めて見たら、きっと大はしゃぎするんだろうなあ。潮の干満とか見たことないだろうし。そして、そんなはしゃぐエドを見て、微笑ましげに見ているロイ…。うわっ甘い…。
 でも、個人的にはこんな甘い設定が大好きです。