『雲』
気付いたのは……いつの頃だったか。
始めは、ただの、錬金術に長けた子供だと。
母親恋しさの末に、人体錬成という禁忌を犯して、失敗して。
廃人のように、死んだ目をした子供だと。
その程度の認識しかなかったのに。
初めて会った時は、罪の意識に逃げている彼の姿が腹立たしくて。
つい、叱責してしまった。
子供相手に、だ。
だが彼は、私の国家錬金術師への勧誘に、意識を向けて。
元に戻るという願いを心に宿し、死んだ瞳に再び焔を点して。
再び、私の前に姿を見せた。
機械鎧の手足をつけ、不遜な笑みを口元に浮かべて。
その時、気付いたのだ。
初めて会った時から、彼という存在に惹かれている、自分に。
その後見事、彼は最年少の国家錬金術師となった。
そして…推挙した私が後見人という形を取り、彼等兄弟は今も、この国のどこかを旅している。
「………」
私は、ふと書類に走らせていたペンの動きを止めた。
窓の外の、月明かりが少し陰ったことに気付いて。
窓越しに、空を見上げてみれば、薄い雲が月を隠していた。
今夜は、満月。
明かりがなくても、夜道を歩けるくらいの月光も、今は薄暗くなっている。
『月の光は……好きじゃない…』
以前ふと、彼が漏らした言葉を、思い出した。
あれは……初めて彼を抱いた時。
その時も、今と同じ、満月の夜だったか。
息も絶え絶えになって、私に縋りついていた彼は、窓から差し込む月明かりに目を細めて、ぽつりと呟いた。
『月の光は……好きじゃない…』 と。
その時、何故かと尋ねた記憶がある。
呼吸を整えようと、大人しく私の腕の中にいる彼に。
すると、彼は。
『月の光は……綺麗過ぎて…嫌いだ』
そう、小声で答えた。
『綺麗過ぎて…罪を犯したオレには…辛い…』
そう言い置いて、眠りに落ちて行った。
清冽な月の光は、彼にとっては痛いくらい綺麗過ぎて。
他の者ならば、闇の恐怖から救ってくれるものでも、彼には畏怖の対象になってしまうのだと、気付いた。
科人には、酷なくらい清らかな光故に。
今夜も、あの時と同じ、満ちた月が夜空を照らしていた。
鋼のにとっては、罪を意識する夜。
だけど今は、薄い雲が月を隠していて。
清らかな、白い光は、ほんの少し和らいでいる。
この、柔らかい光ならば、彼の心を傷つけないだろう。優しく、包み込んでくれるだろう。
彼の犯した罪ごと、労るように優しく。
私は、願う。
この雲が、彼がいる夜空にもかかっているように。
罪に震える心を懸命に押し隠して、強がりを見せる恋人を、綺麗過ぎる光から守ってくれるように。
今は…傍にいられない故に、願う。
私の代わりに………。
ロイ独白です!初めて書いたかも…。難しい…エド独白の方が個人的には書きやすいですね。この話、とある歌を聴いててイメージしたものです。さーて、誰の歌でしょうか?見事正解してくださった方には、先着1名様にリクエスト権をさしあげます!それと、欲しければ裏部屋のパスワードかな?ヒントは…これの前の番組!です。
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