『手 帳』
手帳。
机上に無雑作に置いてある、黒革の手帳。
その中には、彼のこれからのスケジュールと、彼の研究成果がびっちりと書き込まれているに違いない。
錬金術の、研究成果が。
「フン……」
エドワードは、これ見よがしに置いてある手帳を、持ち主の期待通りに手に取ってやる。
それからパラパラと中を捲ってみた。
前半は、東方司令部の指揮官としての予定が、事細かに書かれてある。
「…いっつもさぼってるようなとこしか見ないけど、実は結構忙しいんだ…」
この手帳の中に書かれている予定が本当ならば、彼の怠け癖が、ますます己の首を絞めている筈だ。それなのに、リザに叱咤されないと仕事に身を入れないのは、相変わらずのようだった。
「…じゃ、ここからは…」
スケジュールのページの後には、彼の国家錬金術師としての研究成果が、事細かに書かれている筈だ。
………多分。
「……………」
『研究成果』を読み続けるエドワードの顔が、次第にしかめっ面になっていく。
『2月23日。イングリットと食事に行く。清楚な感じが非常に愛らしかった………』
『4月2日。ケイトと観劇に行く。涙脆い彼女は、最後にはハンカチを握り締めていた。……』
エドワードは、途中で手帳を閉じた。
分かっている。
分かっているのだけど、むかつくのは押えようがない。
この手帳の中身。
一見ただのデートの記録でしかないものが、実は錬金術の研究成果を暗号化したものだとは、錬金術師でも分からないだろう。
エドワード自身は、前もって知らされていたので、それが単なるデートの記録ではないことくらい分かっていた。それに、自慢ではないが暗号解読にはかなり自信があったので、もう少し時間をかければ、この手帳に記されている研究成果くらい、解読できる筈だ。
けれど、エドワードは途中で暗号を解くのを止めた。
解けなかったのではない。
解きたくなくなったのだ。
(……女の名前ばっかり、次々と出てくる暗号なんて!)
それが真実ではなく、ただの暗号だとわかっていても、腹が立つ。
むかつく。
その中に、自分の名が1回たりとも出てこないことも、怒りを増す原因となっていた。
仮にも、『恋人』だと豪語する、エドワードの『エ』の字も出さないなんて。
読み続けると、怒りが増すような暗号なんて、もう読みたくない!
エドワードは、手帳を机の上に戻すと、パンッと両手を胸の前で合わせる。
それから、ドアに向かって言い放った。
「おいっ、大佐!それ以上そこでオレの様子をこそこそ見ているつもりなら、この手帳の中身、一切合切消してしまうからなっ!」
すると。
ゆっくり扉が開いて、姿を見せたのは。
「それは困るね、鋼の」
ひどく嬉しそうに笑って、自室に入ってくるロイだった。
「それは、私の大切な、国家錬金術師としての知的財産なのだから…」
「゜………そんなに大事なものなら、無雑作に置いとくなよっ!」
架空の女性とのデート日記ですらも、嫉妬の対象にしてしまった自分の姿を、こっそり見られてしまっていたエドワードは、顔を真っ赤にして再び手帳を掴み、ロイに投げつけた。
やきもちエドと、そんな彼の様子を見て嬉しがるロイの話…。まとめるとこうですね。ロイって、自分が嫉妬するのは嫌だけど、エドがやきもちやくのって喜ぶタイプかなあと思うのですけど、どうでしょうか?
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