『背 中』

 オレの場合。

 甚だ不本意だけど、どっちかといえば人よりほんの…ほんの少し背が低いから。
 
 子供はともかく、大抵の大人だと、見上げる格好になってしまう。

 それが、ほんの少し悔しいと思うこともあるけれど。

 早く…早く、対等の目線で見たいと思うこともあるけど。

 でも………

「…どうした、鋼の?」

 オレのちょっと前を歩いていた大佐が、顔だけ振り向いてオレを見下ろしてくる。

 その目は、驚いたように少し丸くなっていた。

 そりゃ、そうだよな。

 オレがいきなり、大佐の背中に手で触れたんだから。機械鎧ではない、左手で。

「ん…別に…」

 オレは曖昧に笑って、ごまかした。

 別に、なんてほんとはウソ。

 急に、大佐の背中に触れてみたくなったから。

 オレよりずっと、広い背中。オレが抱き締めても、両手が届かないくらい広い。

 それに、嫉妬を感じないことはないけど。でも。

 大佐の背中は、好きだ。

 こうやって後ろから見てると。ちょっとくらいは頼りがいがありそうで…。

 ほんの、ちょっとだけどな。

 でも、大佐の背中を見ていると、何となくオレは1人じゃないと思えてしまう。

 守ってくれる人がいると思える。

 それに、オレも守ろうって思える。

  …失いたくないから。

 これからもずっと、見ていたいから。

 この、姿を。

「…何でもない。ただ、そろそろ腹が減ったなあって」

 オレは、本音を冗談で隠す。

 当然だ。こんな想い、大佐に知れたらつけあがるもんな。

 ただでさえ、自信家なのに。

「そうか…もう昼だからな。なら、この辺でどこかに入ろうか」

 時計を見て確認し、何事もなく店を決めようとしている。

 オレの下手なウソ、気付いているかもしれないけど。

 それに気付かないふりをしているだけかもしれないけど。

 オレはその方が嬉しい。

 これからも、大佐の背中、こっそり見ることが出来るから。

 こんな暗黙の了解が、ずっと続いて欲しい。これからも。

「鋼の、あの店へ入るか」

「あっ、うん!」

 落ち着いた低い声に呼ばれて、オレは後を追う。

 絶対になくしたくないこの一時を、過ごすために。
 





 久々更新は、エド独白です。こういうのって結構好きかも…。
 私も男性の後姿、好きですね。(条件はかなり厳しいかも…ですが)