「ねぇ、エド…」
夕食も終えて、入浴も済み。
後は寝るだけという夜更け。
エドワードの洗い髪を乾かし、綺麗に櫛で梳いていたウィンリィが、ふと口を開いた。
「何だよ?ウィンリィ」
「……私の気のせいだったら、ごめんね」
「だから、何が?」
なかなか本題に入ろうとしない彼女の態度に焦れて、エドワードは更に促す。するとようやく、ウィンリィは重い口を開いた。
「うん……。エド、ここに来て楽しいんじゃない?」
「え……?」
「だから、ここでの生活がとても楽しそうに見えるのよ、私には」
鏡越しでエドワードの顔を見ながら、ウィンリィは続けた。
「そりゃ、王宮の外には滅多に出られないし、お妃教育なんて勉強の時間もあるし、エルリック王国に比べたら自由になれる時間は少ないけれど…。私には、エドがそれ程苦痛に感じてないように見えちゃうのよ」
「う…ん…。確かにそうかも…」
幼馴染の指摘に対し、エドワードは否定するどころか、あっさり肯定したのだ。
「来た当初はさ、こんなとこ一刻も早く出てってやる!なんて考えてたけど、今は、そんな風には思えなくなっちまって…」
「それって……あの、婚約者のせい?」
「その、婚約者っての止めろよ」
「それが、事実なんだから。…確かに、第一印象は最悪だったけれど、実はそれ程悪くない人に見えるのよねぇ、今は」
「だろ?オレがどんなにお姫様らしくしなくても怒らないし、乗馬とか…息抜きにはまめに付き合ってくれるし…。ここも結構居心地いいかなって」
ウィンリィも同意見だということが分かり、エドワードは俄然嬉しそうに話し始めた。
「本来なら、自分の国より遥かに小さい国の姫だから、人質同然の扱いをしてもいいくらいなのに、こんなに自由にさせてくれて…。話してみると、結構優しいんだぜ、あいつ」
「あいつなんて…。エド、誰かにそんなこと聞かれたら…」
ウィンリィが慌てて叱るが、エドワードは気にしていないようだった。
「大丈夫。ここに仕える人達も、みんな良い人ばかりだから…」
「そうね。リザさんなんか、とても優しい人よ。でもね、エド」
梳いていた櫛を鏡台に置き、鏡に映るエドワードの顔を見つめる。
真剣な眼差しで。
「彼等があんたに優しいのは、エルリック王国の人間だからかもしれないのよ?」
「それって…どういうことだ?小国の王女に良くしたって…」
彼等には、何らメリットがないだろうに。逆にメリットを得るためなら、他の大国の王女を娶れば済む事なのだ。
だが、エドワードのそんな考えを、ウィンリィはあっさりと否定した。
「そう。確かにエルリック王国は小国よ。けれど、その小国が侵略を逃れ、存続できているのは何故だと思う?」
「そのくらいは、オレだって知ってるさ」
まるで先生と生徒のようだと、少しばかり頬を膨らませながら、エドワードは答える。
「エルリック王国を支えているのは、高等な医療技術。それは、エルリック王国に代々伝わる錬金術から派生したもので、その技術力の高さは、他国が追いつけないくらい突出している…って。確かそうだよな?」
「その通り。よく覚えているじゃない。その医療技術の高さ故に、またそれが門外不出のもの故に、なかなか他国が真似できなくて、専ら輸入に頼っているから、侵略を受けずに済んできたのよ。…ならば、もう一つ質問。その医療技術の全てを網羅している人物は誰?」
「それは……親父かな?」
元々その医療技術の殆どは、、現国王の先祖代々から伝わる錬金術の研究から生まれたものなのだ。
それを国民に広めたのも国王一族なので、全てを知り得る立場と言うのは、国王しかいないだろう。
「そう。でも正確には、国王一族ね。王妃様も、国王陛下と同じくらい、錬金術にも医療にも精通しているし。勿論、あんたも教わっているでしょう?」
「う、うん…」
確かに、自分とアルフォンスは、小さい頃から錬金術を叩き込まれてきた。それに付随して医療技術をも教わっている。だが、ここにいるウィンリィも、王妃となるからにはいずれ錬金術についても学ぶのだろう。医療技術については、既に身につけているので問題はないだろうが。
「……それが、あんたを皇妃にと望んだ理由よ、きっと」
「え……?」
「門外不出の技術を、自国のものとするために、エルリック王国の王女と結婚する。…それが、あんたを望んだ一番の理由だと、国の内外問わず言われていたことよ」
知らなかったの?と問いかけるウィンリィには、呆然としているエドワードの顔が真っ先に見えた。
(そんな…)
確かに、政略結婚だ。自分でも、この国に来るまでは、そう思っていたではないか。それなのに、居心地が良くて、ついついそんな考えを打ち消そうとしていた。
(…この国の人は…オレの、錬金術の知識が欲しくて…優しくしてくれるだけかもしれないのに…)
その中には、あの婚約者であるロイもいるのだろうか…。
隠されていた事実を突きつけられて、少なからずショックを受けているエドワードを心配しながらも、ウィンリィは更に言葉を続けた。
どんなにショックだろうと、事実に目を背けていては、身の破滅を迎えるから。
「……それに、王族同士の結婚には、もう一つ大事な意味があるのを知ってるでしょう?」
「……世継ぎ、だろ」
ぽつり、と呟く。
政略結婚に不可欠なのは、両国を繋ぐ血筋の誕生だ。
当然のことながら、マスタング皇国では、両国の血を引く子供の誕生を望んでいるに違いない。
「世継ぎが生まれれば…両国の絆は更に強くなる。それに、エルリック王国の医療技術を手に入れられるかもしれないもんな…」
そのために、今回の結婚は企てられたのだ。
「でも……無理だよな」
自分は男なのだから、どうあっても世継ぎを産むことなんて出来ないし、その過程に至ることも絶対に出来ない。
もし、王女と偽っていることがこの国の者達に知られたら……。
「…何としても、戻らなければいけないな」
低い声で、エドワードは言う。
「エド………」
沈み込んでしまった様子の彼を、心配そうに覗き込むと。
「何とかして…戻ろう。エルリック王国に。それしか、方法はないもんな」
俯いていた顔を上げ、ウィンリィを見る。その顔には、いつもの笑みが戻っていたが、ウィンリィにはどことなく寂しそうに見えた。だが、そんな彼女の心情には気付かず、エドワードは話し続ける。
「ロイや王宮の人達に煙たがられて…あの王女を妃にしたくないって思わせないと…」
それは、この国に来るまでも、考えていたこと。
だから今更、寂しいなんて思わない。
この国を出て行くことを考えると、寂しいなんて。
そんなこと、思わない。
故郷に戻れるのだから、喜ばないと。
エドワードは、幾度もそう心の中で呟いていた。
寂しさを感じる自分に、言い聞かせるように。
その日。
宮殿内のごく一部分では、不穏な雰囲気に包まれていた。
「…私が、この場にいる理由がお分かりかな、エドウィナ姫?」
「さあな…。でも、これだけはわかるさ。こんな夜更けに、うら若い女性の部屋を男が訪問するなんて、非常識も甚だしいってことはな」
と呟き、寝間着にガウンを羽織った姿のエドワードは、夜更けの訪問者であるロイを睨みつけた。
「我々の場合は、それは非常識には当てはまらないと思うが?何しろ私達は、将来夫婦になる間柄なのだから…」
「そんなの分からないだろ?現に、臣下達には猛反対されているんじゃないのか?」
そう言って、楽しそうに笑うエドワードを、ロイは軽く睨む。だが、エドワードは気にする風でもない。
尤も、エドワードには、もっと気がかりなことがあったので、気にする余裕もなかったのだが。
(ガウンを羽織ってるから……男だって気づかれないよな?)
昼間、ロイと会う時は、ちゃんと女性に見えるよう、ウィンリィにコーディネートしてもらっているから、少々のことでは絶対にわからない筈だ。そのお陰で、胸にはパットなるものを入れさせられて、窮屈この上ないのだが、秘密を守るためには仕方なかった。
だが、今は違う。
入浴も済み、後は眠るだけという時間帯故に、エドワードはラフでゆったりとした寝間着一枚しか身に纏っていない。ロイの急な訪問ということで、ドレスに着替える間がなかったのだ。それで仕方なく、ガウンを上に羽織って、何とか誤魔化すことにしたのだが……。
「あなたが、普通の深窓の姫君ではないということはよく分かっている」
ロイは、ウィンリィがソファに座るよう勧めても、扉の前で立ったまま、エドワードに向けて話しかけた。
「………それが?」
「どんなにじゃじゃ馬でも私は一向に構わない。だが、常識は弁えてくれないか?」
「……オレのどこが、非常識なんだよ?」
「自分の胸に手を当てて、考えてみるがいい」
「…分からないから、聞いてるんだろ?」
唇を尖らせ手呟くエドワードを見て、ロイは溜息をついた。
「…最近の、君の行動には目に余るものがある」
「そう?」
エドワードは、気に留める風にも見えない。それが、ロイを怒らせるためにやっていることとは、当のロイは気づいてないようだ。
「お妃教育はすっぽかしてばかり。毎日馬に乗っては宮殿の外に飛び出して、夕方まで戻らないこともある。また、宮殿内でいろんな悪戯を仕掛けて、部下達を困らせている…。ここ一週間で、私の元に届いた君に対する苦情の数々だ。…もっと聞きたいかね?」
「別に…」
「…一体、どうしたというのだ?ここに来て当初は、ちゃんと常識を弁えた行動をしていると思ったのに」
「ああ、それ。ただ、猫被ってただけ。本当のオレは、こうなんだ」
「まるで、我侭な子供だな…」
クッと喉の奥で笑う。その笑い方は、エドワードを軽蔑しているかのようなものだった。
「我侭な子供で結構!これがオレなんだから。嫌だというなら、さっさと婚約解消してオレを戻すんだな!」
エドワードの狙いはそこだった。
宮殿内の人間から、嫌われるようなことばかりしていれば、そのうち彼等の口からエドワードは皇妃に相応しくないという反対意見が噴出するようになるだろう。そんな彼等の意見を、ロイが無視できないくらいの悪評を出させるよう、ここのところずっと、エドワードは悪行三昧の日々だった。
そうすることで、優しい宮殿内の人々から、冷たい眼差しを受けるのは辛かったが、これも、穏便にエルリック王国に戻るための手段だと、ひたすら耐えるしかなかった。
嫌われなければ、ここから出ることなど叶わないだろうから……。
そして今夜、ロイ自身が急遽エドワードの部屋を訪れたということは、部下達からの話を聞いて、彼自身も結論を出したということだとエドワードは思っていた。
(オレ……明日にでも、婚約解消されて戻されちまうのかな…)
そうされることに、一抹の寂しさを感じてしまう。
ここは、とても居心地良かったから…。エルリック王国の次に。
でも、仕方ない。自分のこの秘密を、知られてしまうことだけは絶対に避けたかったから。
エドワードはそう覚悟を決め、次にロイの口から出てくるであろう、婚約解消の言葉を待っていたのだが。
「……君を戻せるのなら、とっくの昔にそうしている」
「え………?」
エドワードは、ロイの言葉に目を丸くした。
「どうあっても、君とは結婚しないといけないのだからね」
嫌々、という風にロイは呟いた。
「……どうしてだよっ?こんな…嫌いな相手、すぐ追い出せばいいだろう!」
「そうもいかない。こちらにも、事情があってね」
「事情って……オレの国の、医療技術かよ?」
「ほぉ…政治的なことは、一応わかっていたようだね」
嘲るような口調に、エドワードはカッとなってしまった。
「それくらい、オレでも分かるさ!小国であるエルリック王国の王女を望んだのは、高等な医療技術と錬金術を自分達のものとするためだってことくらい!」
「そこまで理解しているのなら、話は早い」
ロイはいきなりエドワードに歩み寄ってきて、彼の腕を掴む。
「何する…っ!」
「私は、絶対に君を手放すようなことはしない。どんなに君が、皇妃に相応しくない人だとしても、だ。まあ、飾りくらいにはなってくれることを願ってはいるがね…」
「誰がっ…飾りになんかなるかよ!それに、オレをここに置いていても、オレは絶対に教えないからな!錬金術のことなんて!」
エドワードは、掴まれた手を離そうとするが、ロイの力が強くて、動かすことすらできなかった。
「別に、君から教わらなくても大丈夫だよ。大事な姫君を預かっている代価として、君のお父上から教えてもらえれば…」
「…親父を脅迫するつもりかよっ!」
「大事な愛娘のためなら、教えてくれるだろうね」
「てめぇ…始めからそのつもりで…!」
「政略結婚だということは、君も承知の上だろう?」
ロイはいきなりエドワードの腕を離す。その反動で、エドワードは床に倒れてしまった。
「姫様っ…!」
慌ててウィンリィが近寄り、エドワードを助け起こす。
「とにかく」
ロイは、床に座り込んだままのエドワードを冷めた目で見ながら言い放った。
「私は、君を国に帰す気はないということを、よく覚えておきたまえ。だから、ここで穏便に過ごすためにはどうしたらよいかも、ちゃんと考えておくのだな」
そう言って、部屋から出て行こうとした時。
いまだ床にへたりこんだままのエドワードが、顔を上げた。
上げた瞬間の顔が、ロイの目に飛び込んできた。
咄嗟に、焔を放った瞬間。
焔は、正確にその子へと襲い掛かった。
その時の、その瞬間の顔は忘れられない。
『……どうして?』
その子は、ロイに問いかけるような、驚いたような顔をしていた。
今の、目の前にいる王女と同じ顔で。
「………っ!」
ロイは、慌しく部屋を飛び出す。
その場にいたくなかった。
一刻も早く、去りたかった。
あの時と同じ、自分を見つめる悲しそうな眼差しから、逃れたかった。
「エド…!大丈夫?」
ロイが去った後も、床にうずくまった状態のエドワードに、ウィンリィが声をかける。
だがエドワードは、座り込んだまま、自分の腕でぎゅっと身体を抱き締めた。
「……ウィンリィ……オレ、戻れないのかな…」
俯き、ぽつりと呟く。
「エド……」
「オレ…戻れないのかな……。でも、ここにもいたくない……」
エドワードの声は、微かに震えていた。
「あいつに嫌われたままで……こんなとこにいたくない……」
「エド……」
「……いたくない……」
小さな声で、エドワードは、呟いた。
「あいつに嫌われてるのなら……いたくない…」
エドワードは泣いてはいなかったが、ウィンリィには、エドワードの呟く声が、すすり泣いているように聞こえた。
「…気晴らしだと?」
「そう、侍女の方は仰っておられました」
「…許可することは出来ないな」
「どうしてですか?」
「宮殿の外に出て、故郷に逃げ帰られては困る」
書類に目を通しつつ、ロイはきっぱりと言い切った。
「……姫君がそうなさるとお考えになられるようなことを、陛下はされたのでしょうか?」
しかし、リザも負けてはいなかった。
自分が仕えている、この国の若き君主に対して、きつい一言を言ってのける。
「……売り言葉に買い言葉、だったが」
溜息をつき、読み終わった書類を机の上に放り投げる。
「…しかし、言い過ぎたとは思われているみたいですね」
それは問いではなく、確認だった。
「大人気ないことをしてしまったと、思っている」
あの、十以上も年の離れた姫君に対して、きつい言葉を言ってしまったと、今では反省していた。
本当は、あのようなことを言うつもりではなかった。
あの小さな少女を脅すような言葉なんて。
それを聞いた時の、彼女のひどく傷ついたような、茫然とした表情を思い出す度に、ロイは自責の念に駆られていた。
「ならばどうして、すぐに謝罪されないのですか?姫君に頭を下げるのが嫌だというわけではないのでしょう?」
「…謝っても、信じてくれるかどうか…」
ロイは不安なのだ。
あんな、まだ子供のような少女に、酷い言葉を投げつけて、その後に謝罪しても、信じてもらえるかどうかが。
その不安ゆえに、あの夜更けの一騒動から一週間が経過しているにも関わらず、彼女と会えずにいた。
「例え信じてもらえなくても、言葉に出すことは必要だと思います。それに姫君には、一刻も早く会っていただかないと大変なことに…」
「どういうことだ?」
ロイは、自分の前に立つリザの顔を直視した。
「これは…姫君付の侍女―――ウィンリィさんからは内緒にしていてほしいと言われたのですが…」
小さく溜息をついて、再びリザは口を開く。
「ここ一週間、姫君は殆ど食事をとってないようなのです…」
「何…だと?」
ロイの顔が強張った。
「一応、食べようという意志はあるみたいなのですが…。少ししか食べることが出来なかったり、食べてもすぐに吐いてしまわれたりで…。とうとう昨日、倒れられてしまったとか。幸いウィンリィさんは医師としての資格をお持ちなので、今は何とか薬や栄養剤でもたせてはいるみたいなのですが…それもずっとは無理だということです。………陛下っ?」
リザが言い終わらないうちに、ロイはいきなり立ち上がり、扉へと向かう。
「陛下、どちらへ?」
「決まっている」
「姫君のところへ行くのでしたら、今はご遠慮ください」
「どうしてだ?さっきは、早く会えと…」
逆のことをリザに言われて、ロイは問う。
「今、姫君は湯浴み中だと」
「そうか…」
と、納得したものの。
「…身体が弱っているのに、湯浴みなどして大丈夫なのか?」
すぐに心配になる。
「湯浴みと言っても、身体を拭くくらいでしょう。それに、髪を洗いたいと仰っておられました…。してはならないのでしたら、ウィンリィさんが反対する筈ですから…」
「ならば良いが…」
と呟き、暫し黙り込む。
「陛下?」
何事か考え込んでいるロイを、リザが呼ぶと。
「ホークアイ。姫君の身体が移動に耐えられそうなら、離宮へとご案内しろ」
「離宮…ですか?」
「そうだ。あそこなら静かで、ゆっくりと寛ぐことができるだろう。いい気分転換にもなるだろうし」
「…そうですね」
宮殿から少し離れた、小さな湖の畔に建てられている離宮は、首都の喧騒から離れることが出来る程自然に恵まれていて、皇族の別荘として愛用されているものだ。事実ロイも気に入っていて、年に数回は必ず訪れている。
「あの離宮ならば、警備もしやすいからな。その手配は任せるぞ」
「はい、お任せください」
リザは力強く頷く。
「私も…時間を作って行く事にする。 姫君が、落ち着いた頃にな」
「はい。ぜひ、そうなさってあげてください」
そう言うリザは、とても嬉しそうだった。
「…君も、あの姫君が随分お気に入りのようだな」
彼女の笑顔を見て、ロイは苦笑する。
「はい。だってあんなに素直で可愛いい姫君は、おりませんから…」
「勉強をさぼってばかりで、悪戯三昧でもか?」
「あのお姿が、姫君の本当のものだとは思っておりませんので」
リザはきっぱりと言い切る。
「陛下も、そのことはおわかりの筈です。姫君があのようなことをされる理由までは、分かりませんが」
「……そうだな」
ロイも、つられて笑った。
それは、滅多に見せない、優しくて甘いもので、彼の顔を見慣れているリザでさえ、一瞬ドキッとするものだった。